39 / 47
38
しおりを挟む
「さて、そんなどうでもいい話より、奴隷が欲しいとか言ってたが、本気で笹時を落札する気か? あれを落とせば金は俺に入るぞ?」
それでもいいのか、と目で訴えてきている。
本音を言えば一銭もコイツには渡したくない。満足させたくない。
だが今はコレに賭けるしかないのだ。
「……それがどうした? こっちにはこっちの都合がある」
「ふん、偽善か」
「…………」
「お前はどっか俺と似てるって思ってたが、どうやら買い被りだったみたいだな」
一緒にするなと言いたいが、強く反論できないと思っている自分もいる。
鍵森に自分と似た雰囲気を感じるのもまた事実だったからだ。
ただ彼と自分にとって、優先順位が違うだけだろう。
「闇のオークションに参加するにはコネが必要だろ?」
「……なるほど。そのコネを頼りに俺のところにやってきたってわけか」
「そうだ」
「いいぜ。参加させてやっても」
「条件は?」
「クク、分かってるじゃないか。そうだな、一千万ギラってところでどうだ?」
「高い。三百万だ」
「八百万」
「四百万」
「七百」
「四百五十」
「ちっ……五百万だ。それ以上は譲らん」
「オーケー。交渉成立だ」
この世界では、日本と違ってお札が五種類もある。
一千ギラ札・五千ギラ札・一万ギラ札。
ここまでは日本のお札と同じ。違うのは、他に十万ギラ札と百万ギラ札があることだ。
コインよりも札の方が多く流通されている。
天満は真悟が持つ袋から、十万ギラ札を五十枚ずつ束にしている金を一束取り出して鍵森へと近づく。
「――待て、その下に金を置け」
「何?」
「ここは剣と魔法の世界だからな。何か仕掛けがあったらたまらん」
「別に何もしてないぞ。交渉事で下手を打ちたくはない」
「いいから金は下に置いて、十歩下がれ。さもないと交渉は止めだ」
…………仕方ない。
そう思い、彼の言う通りに金を置いて後ろへと下がる。
(くそ、あわよくば奴に触れてリードしようと思ってたのに)
その作戦はムダに終わった。
「ククク、触れるだけで相手を洗脳できるスキルなんてのもあるからな。悪いがお前にみたいな奴に対して警戒を解くほど浅はかじゃないんだよ」
「考え過ぎだと思うけどな」
そう口に出しても、心ではさすがだと感心してしまう部分もあった。
この用心深さが、彼を奴隷商人として成功させてきたのだろうから。
それに逆の立場なら天満も同じことをする。
金の傍に来た時、何かの合図のようにスッと右手を上げた鍵森。
真悟と同じように、建物の陰から人影が現れる。
それは――。
「!? ……磯部か」
少し成長しているものの、ほとんど変わりはなかったので一見して分かった。
「磯部、金が本物か調べろ」
磯部が恭しく「はい」と頭を下げると、地面に置かれている金に向かって右手をかざす。
すると彼の右手から青白い光が放たれ、札束を覆った。
「――――確認しましたよ、鍵森様」
「で、どうだ?」
「本物の金で間違いありません」
「そうか、ならいい。お前は金を持って下がれ」
磯部が金を手に取ると、その場からそそくさと去って行った。
「今のは……磯部は嘘発見器みたいなスキルを持ってるのか?」
「そうだ。前に偽札で騙されたことがあったんでな」
「言っただろ。こっちは交渉事で下手を打ちたくはないって」
「確かに。分かった、受け取れ」
鍵森が懐から黒いカードを取り出し放り投げる。カードはそのまま地面へと落ちた。
「それ一枚で三名までオークションに参加できる。ただし落札の権利があるのは、そのカードの持ち主だけだ」
「……つまり会員証みたいなものか。これが本物だって証拠は?」
「それは信じてもらうしかないが。安心しろ。こっちもビジネスとしてはしっかり仕事をする。お前が笹時を買うなら、その分俺の懐は潤うんだ。楽しみにしてるぜ」
含み笑いを浮かべながら、「じゃあな」と言って彼は去って行った。
「……ウツワ」
「うん、分かってる。トカゲちゃんたちを向かわせたよ」
真悟が隠れていた物陰からウツワが出てくる。彼女には、周りを警戒してもらっていたのだ。
そして鍵森が去ったあとは、彼のあとを小動物に尾行してもらう予定で。
黒いカードを一応警戒しつつ拾い上げる。
「アイツ、やっぱりヤな奴だぜ。あんな奴と交渉しなきゃならねえなんてよ」
「気持ちは分かるけどな。けど……」
「どうだ、それは本物の会員証か?」
「ちょっと待ってくれ、もう少し…………………………リード完了」
すでに《万象網羅》を発動していた。
「どうやらアイツが言ってたことは本当みたいだ」
カードの情報を読み取り、鍵森が嘘を言っていないことを理解した。
「あとはオークション、だな」
「そうだな。その間にスーツでも買いに行くぞ。もちろん袋の金じゃなくて、オレたちが実際に稼いだ金を使ってな」
鍵森に渡した金は、《万象網羅》で増やした金だ。確かに偽札は偽札なのだが、本物と同じものなので本物の金でもある。
だから本物か嘘かという問いには、本物であり嘘でもある代物なのだ。
その曖昧さを磯部の能力は見抜けなかった。
実際はかなりヒヤリとしたが、上手くいってホッとする。
(第一関門は突破できた。次は落札……できなければそこで終わりだ)
まだまだ勝負はこれからだという意気込みで、天満は空を見上げた。
それでもいいのか、と目で訴えてきている。
本音を言えば一銭もコイツには渡したくない。満足させたくない。
だが今はコレに賭けるしかないのだ。
「……それがどうした? こっちにはこっちの都合がある」
「ふん、偽善か」
「…………」
「お前はどっか俺と似てるって思ってたが、どうやら買い被りだったみたいだな」
一緒にするなと言いたいが、強く反論できないと思っている自分もいる。
鍵森に自分と似た雰囲気を感じるのもまた事実だったからだ。
ただ彼と自分にとって、優先順位が違うだけだろう。
「闇のオークションに参加するにはコネが必要だろ?」
「……なるほど。そのコネを頼りに俺のところにやってきたってわけか」
「そうだ」
「いいぜ。参加させてやっても」
「条件は?」
「クク、分かってるじゃないか。そうだな、一千万ギラってところでどうだ?」
「高い。三百万だ」
「八百万」
「四百万」
「七百」
「四百五十」
「ちっ……五百万だ。それ以上は譲らん」
「オーケー。交渉成立だ」
この世界では、日本と違ってお札が五種類もある。
一千ギラ札・五千ギラ札・一万ギラ札。
ここまでは日本のお札と同じ。違うのは、他に十万ギラ札と百万ギラ札があることだ。
コインよりも札の方が多く流通されている。
天満は真悟が持つ袋から、十万ギラ札を五十枚ずつ束にしている金を一束取り出して鍵森へと近づく。
「――待て、その下に金を置け」
「何?」
「ここは剣と魔法の世界だからな。何か仕掛けがあったらたまらん」
「別に何もしてないぞ。交渉事で下手を打ちたくはない」
「いいから金は下に置いて、十歩下がれ。さもないと交渉は止めだ」
…………仕方ない。
そう思い、彼の言う通りに金を置いて後ろへと下がる。
(くそ、あわよくば奴に触れてリードしようと思ってたのに)
その作戦はムダに終わった。
「ククク、触れるだけで相手を洗脳できるスキルなんてのもあるからな。悪いがお前にみたいな奴に対して警戒を解くほど浅はかじゃないんだよ」
「考え過ぎだと思うけどな」
そう口に出しても、心ではさすがだと感心してしまう部分もあった。
この用心深さが、彼を奴隷商人として成功させてきたのだろうから。
それに逆の立場なら天満も同じことをする。
金の傍に来た時、何かの合図のようにスッと右手を上げた鍵森。
真悟と同じように、建物の陰から人影が現れる。
それは――。
「!? ……磯部か」
少し成長しているものの、ほとんど変わりはなかったので一見して分かった。
「磯部、金が本物か調べろ」
磯部が恭しく「はい」と頭を下げると、地面に置かれている金に向かって右手をかざす。
すると彼の右手から青白い光が放たれ、札束を覆った。
「――――確認しましたよ、鍵森様」
「で、どうだ?」
「本物の金で間違いありません」
「そうか、ならいい。お前は金を持って下がれ」
磯部が金を手に取ると、その場からそそくさと去って行った。
「今のは……磯部は嘘発見器みたいなスキルを持ってるのか?」
「そうだ。前に偽札で騙されたことがあったんでな」
「言っただろ。こっちは交渉事で下手を打ちたくはないって」
「確かに。分かった、受け取れ」
鍵森が懐から黒いカードを取り出し放り投げる。カードはそのまま地面へと落ちた。
「それ一枚で三名までオークションに参加できる。ただし落札の権利があるのは、そのカードの持ち主だけだ」
「……つまり会員証みたいなものか。これが本物だって証拠は?」
「それは信じてもらうしかないが。安心しろ。こっちもビジネスとしてはしっかり仕事をする。お前が笹時を買うなら、その分俺の懐は潤うんだ。楽しみにしてるぜ」
含み笑いを浮かべながら、「じゃあな」と言って彼は去って行った。
「……ウツワ」
「うん、分かってる。トカゲちゃんたちを向かわせたよ」
真悟が隠れていた物陰からウツワが出てくる。彼女には、周りを警戒してもらっていたのだ。
そして鍵森が去ったあとは、彼のあとを小動物に尾行してもらう予定で。
黒いカードを一応警戒しつつ拾い上げる。
「アイツ、やっぱりヤな奴だぜ。あんな奴と交渉しなきゃならねえなんてよ」
「気持ちは分かるけどな。けど……」
「どうだ、それは本物の会員証か?」
「ちょっと待ってくれ、もう少し…………………………リード完了」
すでに《万象網羅》を発動していた。
「どうやらアイツが言ってたことは本当みたいだ」
カードの情報を読み取り、鍵森が嘘を言っていないことを理解した。
「あとはオークション、だな」
「そうだな。その間にスーツでも買いに行くぞ。もちろん袋の金じゃなくて、オレたちが実際に稼いだ金を使ってな」
鍵森に渡した金は、《万象網羅》で増やした金だ。確かに偽札は偽札なのだが、本物と同じものなので本物の金でもある。
だから本物か嘘かという問いには、本物であり嘘でもある代物なのだ。
その曖昧さを磯部の能力は見抜けなかった。
実際はかなりヒヤリとしたが、上手くいってホッとする。
(第一関門は突破できた。次は落札……できなければそこで終わりだ)
まだまだ勝負はこれからだという意気込みで、天満は空を見上げた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる