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 鍵森がいると聞いて、彼に会うためにカジノの前で待つことになった天満たち。
 しばらくすると、目的の人物が黒ずくめの格好でまだオープン前のカジノの扉を開けて出てきた。
 彼の姿を見て天満は若干目を細める。

 その理由は、彼もまた真悟と同じく年齢的に成長している様子だったからだ。
 しかしその可能性も考えていたので、それほど驚きはない。
 鍵森明人――いつも無愛想な顔をして、誰も彼もを見下したような目つきをしていたクラスメイトの一人。

 傍にはいつも取り巻きである木村と磯部という同じクラスメイトの連中がいたが……。
 今の彼は一人なのか、周りに誰も見当たらない。
 天満は僅かに息を吐いて覚悟を決めると、鍵森の前まで向かった。

 当然いきなり目の前に立った天満を見据えた鍵森は、怪訝な顔つきで立ち止まる。
 しかしすぐに大きく目を見開く。

「! ……ま、まさかお前…………花坂か?」
「そういうお前は鍵森だな。ずいぶん成長したみたいだけど」
「…………なるほど。西の空に流れ星が落ちたって情報があったが、あれはお前か?」
「だとしたら? オレも捕まえて奴隷として売るか?」
「! ……何の話だ?」
「惚けなくてもいい。お前が奴隷商人なのに、夜に開催される闇のオークションに出品していることも調査済みだ」
「……へぇ」

 口角は上がっているが、目の奥は決して笑っていない。明らかに警戒して、天満の真意を悟っている様子である。

(やっぱり一筋縄じゃいかなさそうだな)

 曲がりなりにも、この世界で生きてきた人生経験は向こうの方が上なのだ。あまりに後手に動けば絡め取られてしまうかもしれない。
 ここは強気でいくしかない。

「一応クラスメイトだろ、笹時は」
「そんなことまで……異世界人だとしか発表はしてなかったはずだがな」
「人の口に戸は立てられないってことだ。…………お前には心がないのか?」
「はあ?」
「借りにも同じ教室で学んできた、しかも女を奴隷にするなんて心が痛まないのかって聞いてるんだよ」
「心、ねぇ。そんな抽象的なもんが利益になるのか?」

 どうやらここ数年の間で、彼の心はさらに冷徹に育ってしまったようだ。

「すべては金か?」
「当然だろ。この世は強さと金がありゃ何でも叶う。異世界人にとって、強さは普通に手にできる。ならあとは? 金を稼ぐにはここが必要だろ?」

 そう言いながら自身の頭を指差す。
 いちいち彼の言葉に苛立ちを覚えるが、聞きたいことは聞くことができた。

「んで? 俺の前に出てきて何がしたいんだ? 金でも貸してほしいのか?」
「いらん。こっちも儲かってるからな」
「? ……何だと? つい最近この世界に来たお前が儲かってる? 嘘を言え」
「嘘じゃない。……真悟」

 建物の陰に隠れていた真悟が、大きな袋を手にして現れる。

「!? ……その顔、まさか海谷か。そうか、そういやお前らは気持ちが悪いほどにいつも一緒にいたな」
「へっ! お前だって木村や磯部を侍らせてただろうが」
「口調はまったく変わっていないな。見たところ二十代後半……いや、三十代のオッサンか?」
「放っとけ! つうか年上に敬意を払えよガキ!」

 やはり二人は相性が悪いようで、すぐにケンカ腰になってしまっている。

「真悟、その袋の中身を見せてやれ」
「……わ~ったよ」

 そうやって遠目に袋の口を開いて、中に札束が入った様子を見せつけた。

「……お前ら、どうやってそれほどの大金を……?」
「言っただろ。オレたちも儲かってるんだよ」

 天満のその言葉に訝しみながらも、ジ~ッと札束に視線が向いている。
 本当に金の亡者に成り下がっているようだ。そうでなければ、クラスメイトを売り捌こうなどという行為は絶対しないだろうが。

「その金を見せつけて、何のつもりなんだ?」
「なぁに、欲しい奴隷がいてな」
「欲しい、奴隷?」

 眉がピクリと動く鍵森。

「そうだ。闇のオークションで捌かれる奴隷がな」
「…………まさか笹時を落札するつもりか?」
「そのまさかだとしたらどうする?」
「……物好きな連中だ。あんな女のために、大金を貢ぐか。言っておくが、異世界人の奴隷はクソ高いぞ」
「その口ぶり。今までにもクラスメイトを売ったな?」

 それは真悟には行っていなかった予想だったため、真悟はギョッとなって鍵森を睨みつける。

「お前……マジで笹時以外にも奴隷にした連中がいやがるのか!」
「……儲かるんでね」
「てんめぇぇぇっ」
「真悟、少し下がってろ」
「けどよぉ!」
「オレたちのやるべきことを見失うな」
「っ! ……ちっ」

 釈然としない表情の真悟だが、そのまま袋を持って後方へと下がってくれた。

「鍵森、今まで何人のクラスメイトに会った?」
「そうだな。お前らと笹時を除けば……十一人ってとこか」
「そんなにか」

 確か十五年この時代にいた真悟でさえ流れ星を見た数は五回だ。

「流れ星に運ばれてくるのは一人とは限らないし、朝や昼間だけでもない。夜だって例外じゃないぞ」

 なるほど。確かに真悟から聞いたのは昼間に見た流れ星の数である。
 ただ流れ星に数人が一緒になっているという話は良い情報だった。


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