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 白光のローブを着用した女は、自らをミカエ・オラージュと名乗った。
 ここは天満たちが住んでいた地球とは違う世界――【ミデン】であり、ある目的のために天満たちを召喚することになったのだと彼女は言う。

「その目的って……何なんでしょうか?」

 皆の代表として担任教師の茶戸原詠が尋ねた。彼女はまだ二十三歳という若さの新米教師であるが、美人で生徒たちからの人望も厚く『詠ちゃん先生』と親しまれている。
 真面目そうな黒髪のおかっぱ頭で化粧っ気もそれほどなく、張りのある肌と童顔でたまに保護者から生徒と間違われたりするのだ。

 問われたミカエが、その説明は自らの王の御前でさせてほしいというので、詠の指示のもと、生徒たちは警戒しつつも渋々といった感じでついていくことにした。
 天満もとりあえずは情報が欲しいところだったので、黙って最後尾につきながら周りを観察しながら歩いていく。
 神殿のような場所はやはり高地にあったようで、長い階段を下へと降りていくことになった。

(これは凄いな……!)

 階段から眺められる光景。
 それは広大な大地に広がる街並みである。どことなく中世ヨーロッパの街並みを想起させるが、デカデカと目の前には城が居座っていた。
 どうやらここは巨大な国の中にあり、王城の敷地内に存在するらしいことを知る。

(それにしても……)

 高い外壁に囲われた街の外には、見たこともない荒野のような光景が広がっている。
 目を凝らしたところで森すら見えないのは些か違和感を覚えた。
 これだけ大きな街……国なら栄えているはずだ。普通国というのは周りに海や森があるといった、開拓に豊かな土地に築くものではなかろうか。

 それなのに見えるのは遠目に山。地平線である。
 何故こんな何もない場所に国家を築いたのか疑問が湧く。
 もしかしたらここから見えない後ろの方には海が広がっているのかもしれないが。
 ここからではどう頭を回したところで国の半分くらいしか確認できないし、外も百八十度ほどしか観察できないのだ。

 上を見上げれば、暗く濁った曇り空が広がっている。ずっと見つめていると不安が増してくるようだ。
 そうしていろいろ調べつつ階段を下り、城の中へと入っていく。
 三十人以上もの人間がぞろぞろと列を成して城を移動する姿は異様なのか、メイドらしき者たちや槍や剣などを携えた兵士から注目を浴びる。

 生徒たちの中には、異世界という事実に胸躍りワクワク顔をしている者たちもいるが、ほとんど者は、いきなり知らない場所へ連れてこられた恐怖に彩られていた。

(あのミカエって人はオレたちを救世主って言った。……つまりこの世界で起こっている何かしらを解決してほしいってことなんだろうなぁ)

 天満はオタクというほどアニメ好きや漫画好きではないが、それなりにライトノベルやネット小説なども読んだことはある。
 その中で、異世界召喚されて勇者として活躍するというような話もあったりするが、状況がそれに酷似していた。

 恐らくワクワク顔をしている連中も、そういうファンタジーに憧れを持っているからこその感動だったりするのだろう。

(まあ、その気持ちは分からないでもないけどね)

 天満もまた、退屈で面白味のない地球よりも、漫画のような世界に行って楽しみたいという欲求がないわけではない。
 しかしそれはあくまで夢のまた夢。叶わない幻想だということは理解している。
 だからたまに夢想して楽しむだけだった、のだが……。

(まさかこうやって経験することになるとは……人生何が起こるか分からないもんだなぁ)

 その時、天満に意識を向けて話しかけてきた存在があった。

「なあなあ天満、これドッキリとかじゃねえよな?」
「多分違うと思うぞ」

 彼はスポーツ刈りの茶髪少年――海谷真悟だ。小学生からの腐れ縁でずっとクラスが同じという奇跡を作り出している悪友とでも言おうか。
 天満の家庭の事情も知っているし、天満がこの世で親よりも信頼している人物だ。

「けどこれってアレだろ? 異世界召喚だろ? 勇者で魔王退治だろ? 獣耳とエルフで嫁探しレッツゴーだろ? オラワクワクすっぞ」

 見ての通り重度のオタク症状を患っている。見た目だけなら爽やかスポーツ少年の雰囲気を持つが、喋るとそれを見事に台無しにするのだから残念な奴だ。

「もう少し静かにしろって。その説明も多分、あの胡散臭そうな女からしてくれると思うし」

 当然ミカエという人物のことだ。

「胡散臭い? どこんところが? ……俺はああいうキツそうな女って結構アリだぜ」

 彼にはドM属性が備わっているのだ。

「何となくとしか言えないかな。ていうかオレはまず人を疑ってかかることにしてるし」
「はぁ、何でそんなふうに育ったんだか……」
「親の教育だね」
「それを言われたら何も言い返せねえわぁ」

 このやり取りは、いつも二人の決まり切ったもの。こういう他愛もない言葉のお蔭で、心を落ち着かせることもできる。
 城の中にある大階段を上っていくと、前方に赤カーペットが敷かれた部屋が視界に入ってきた。

 さらにその奥には玉座らしきものと、その周りに鬱陶しいほどの兵が置物のように黙って突っ立っている。
 玉座に座る者が一人、その右隣に立つ恰幅の良い男性が一人。そして天満たちを案内したミカエが、玉座の左隣に立つ。
 頭に王冠を置く男が天満たちを一通り見回してから静かに立ち上がる。


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