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第27話 マルチルート
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「あ、あの……咲山さん、その……本当についてきて良かったんでしょうか?」
すぐ後ろを歩く綿本が、申し訳なさそうに言ってきた。
「問題ないぞ。お前の面倒は俺が見る。そう言ったろ?」
「でも……井狩さんが仰っていたように、私に戦う力なんてなくて……」
「……綿本も、あの孤島で《勇者ガチャ》てやつを引いたか?」
「あ、はい。その……『民』でしたけど」
どうやら運には見放されたようだ。いや、これまで瓦礫の下で生き残ってきたのだから、そこに運を注ぎ込んだのかもしれない。
「咲山さんは……『勇者』……なんですか?」
「おう、じゃねえと、あの二人に殺されてたと思うぞ。『勇者』を相手にできるのは『勇者』だけだ」
とりあえずそれが『ブレイブ・ビリオン』の基本概念だ。
(まあやり方次第で、『民』でも対抗できないことはねえけど、何の準備もなしじゃ無理だろうしな)
それこそ武術の達人とか、生まれつき人外並みの能力を持っているといった規格外の連中なら概念の外にいるかもしれないが。
「……何でいきなりこんなことになったのでしょうか?」
それは十束に聞いたというよりは、世界自身に問いかけているように聞こえた。
「さあな。それは俺も知りたいとこだ。けど、起きちまった以上は適応しねえと、世界に飲み込まれちまう。これから多分、もっと世界は荒れるだろうしな」
「世界……? もしかしてこの街だけじゃないってことですか?」
「え? あー多分な。この街……日本だけってのもおかしい話だし、世界中がこんなことになっちまってると思うぞ」
十束は、日本だけでなく世界そのものが豹変したことを知っているが、設定を知らない者たちからすれば、この異常現象がどこまで広がっているのか分からないだろう。
インフラやネットなども使えなくなっているから、外の情報を得ようとするにも時間がかかるのだ。あれほどまでに高度に成長した文明だったが、一瞬にして原始に還った世界。
(それでも知識はあるから、いずれまた文明は発展していくだろうけどな)
今はまだ、原始時代のような自然に支配されたような世界ではあるが、人間が原始人に戻ったわけではない。
現代の知識や知恵を持つ者たちが、原始世界へと転移したようなもの。ならば、その知識を最大限に活用すれば、歴史よりも格段に速く便利な発明を形にしていくことだろう。最も、それでもそれなりの時間は要するであろうが。
事実、ゲームでは主人公が管理する〝ベース〟を近代に近づけるような発展もできるようになっていた。
(まあ、人類が再び宇宙に行けるような科学力を取り戻すには、やっぱり結構な時間はかかるだろうけどな)
そして、人間たちがまず行うことは、モンスターを討伐するのに有効な兵器開発だろう。まずは身の安全を確保できる武器を備えなければ、おちおち日常生活を発展させていけない。恐怖の隣人をどうにかする方法を優先的に実行する。それには兵器開発が一番。
(ゲームじゃ、アメリカ、中国、ロシアが兵器開発先進国だったけど、この世界じゃどうなるか……)
元々力のある大国が、やはり真っ先に有用な兵器を開発し、自国民を守ろうとした。ただ、地球が大自然に回帰したことで、それが地球のあるべき姿だと発し、科学を葬ろうとする連中も出てくる。
十束としては、そういうヤバイ連中とは関わることなく、この世界を悠々自適に楽しめればそれでいいと思っている。
そのためにも、情報が集まる【アンダーガイア】の発展を優先させていきたい。
「元には……戻らないんでしょうか?」
「……元に、か」
実際のところ、今は何とも言えないのが正直なところだ。
設定では、この異常現象を引き起こした邪神を倒すことで、元の地球に戻せるということになっているが、エンディングには様々なルート分岐も存在する。大きく分けると、四つ。
元の地球に戻れるルート、異世界化したままのルート、世界が破滅するルート、別世界への移転ルート。
これが社長が示したルートだった。最初の三つのルートはどこにでもありそうなエンディングだ。しかし、最後のルートを聞いた時には、十束も含めて社員たちは驚いたものだ。
ただ、なるほど、そういう考えもあることにはあるだろうと感心した部分でもある。
確かに元の世界を捨て、別の世界へ逃げ込むというのも選択肢としては存在するだろう。もちろんかなり困難な道ではあるが。
まず近代文明を超える科学力を生み出す必要があるし、その上で宇宙を航行できる乗り物を造らないといけない。さらに、人間が住める環境を持つ惑星を探す必要もある。
実際、ゲームではそういった星の存在を探す度に出かけたところでエンディングを迎えている。
つまりは、ゲームでは宇宙船を開発し、出発するところまでは描かれていたのだ。だが、実際に第二の地球が見つかったのかどうかは定かではないが。
特殊な第四ルートはともかくとして、どのルートも基本的には邪神との対決が必須。そして、敗北すれば破滅ルートへと向かう。
(この世界はゲームじゃなくて、主人公――つまりユーザーが多い。となると実際のエンディングにも変化が生じるかもな)
オンラインプレイも兼ねているゲームとはいえ、ストーリーを進め、ラスボスを討伐し世界に平和をもたらすのは主人公一人だけ。多くの仲間がいるといっても、それはNPCである。他の主人公たちと一緒にラスボス討伐はできない。
あくまでもストーリーは、ゲームを購入した者たち個人それぞれの戦いであり、エンディングも個人によって分岐されることだろう。
となると、主人公たちが集まっているこの世界では、通常のエンディングルートに辿り着けるか定かではない。
(まあ、今はそんなこと考えてもしょうがねえけど)
何より、結論を出すには情報が足りない。十束は楽しみたいという気持ちに重点を置いているが、邪神に滅ぼされることを素直に受け入れることはできない。
仮にこの世界で一生を過ごすのであれば、やはり最後まで望むままに生きて死んでいきたいからだ。故に、邪神の存在や、この世界のエンディングルートについては、いずれハッキリさせておきたいと思っている。
すぐ後ろを歩く綿本が、申し訳なさそうに言ってきた。
「問題ないぞ。お前の面倒は俺が見る。そう言ったろ?」
「でも……井狩さんが仰っていたように、私に戦う力なんてなくて……」
「……綿本も、あの孤島で《勇者ガチャ》てやつを引いたか?」
「あ、はい。その……『民』でしたけど」
どうやら運には見放されたようだ。いや、これまで瓦礫の下で生き残ってきたのだから、そこに運を注ぎ込んだのかもしれない。
「咲山さんは……『勇者』……なんですか?」
「おう、じゃねえと、あの二人に殺されてたと思うぞ。『勇者』を相手にできるのは『勇者』だけだ」
とりあえずそれが『ブレイブ・ビリオン』の基本概念だ。
(まあやり方次第で、『民』でも対抗できないことはねえけど、何の準備もなしじゃ無理だろうしな)
それこそ武術の達人とか、生まれつき人外並みの能力を持っているといった規格外の連中なら概念の外にいるかもしれないが。
「……何でいきなりこんなことになったのでしょうか?」
それは十束に聞いたというよりは、世界自身に問いかけているように聞こえた。
「さあな。それは俺も知りたいとこだ。けど、起きちまった以上は適応しねえと、世界に飲み込まれちまう。これから多分、もっと世界は荒れるだろうしな」
「世界……? もしかしてこの街だけじゃないってことですか?」
「え? あー多分な。この街……日本だけってのもおかしい話だし、世界中がこんなことになっちまってると思うぞ」
十束は、日本だけでなく世界そのものが豹変したことを知っているが、設定を知らない者たちからすれば、この異常現象がどこまで広がっているのか分からないだろう。
インフラやネットなども使えなくなっているから、外の情報を得ようとするにも時間がかかるのだ。あれほどまでに高度に成長した文明だったが、一瞬にして原始に還った世界。
(それでも知識はあるから、いずれまた文明は発展していくだろうけどな)
今はまだ、原始時代のような自然に支配されたような世界ではあるが、人間が原始人に戻ったわけではない。
現代の知識や知恵を持つ者たちが、原始世界へと転移したようなもの。ならば、その知識を最大限に活用すれば、歴史よりも格段に速く便利な発明を形にしていくことだろう。最も、それでもそれなりの時間は要するであろうが。
事実、ゲームでは主人公が管理する〝ベース〟を近代に近づけるような発展もできるようになっていた。
(まあ、人類が再び宇宙に行けるような科学力を取り戻すには、やっぱり結構な時間はかかるだろうけどな)
そして、人間たちがまず行うことは、モンスターを討伐するのに有効な兵器開発だろう。まずは身の安全を確保できる武器を備えなければ、おちおち日常生活を発展させていけない。恐怖の隣人をどうにかする方法を優先的に実行する。それには兵器開発が一番。
(ゲームじゃ、アメリカ、中国、ロシアが兵器開発先進国だったけど、この世界じゃどうなるか……)
元々力のある大国が、やはり真っ先に有用な兵器を開発し、自国民を守ろうとした。ただ、地球が大自然に回帰したことで、それが地球のあるべき姿だと発し、科学を葬ろうとする連中も出てくる。
十束としては、そういうヤバイ連中とは関わることなく、この世界を悠々自適に楽しめればそれでいいと思っている。
そのためにも、情報が集まる【アンダーガイア】の発展を優先させていきたい。
「元には……戻らないんでしょうか?」
「……元に、か」
実際のところ、今は何とも言えないのが正直なところだ。
設定では、この異常現象を引き起こした邪神を倒すことで、元の地球に戻せるということになっているが、エンディングには様々なルート分岐も存在する。大きく分けると、四つ。
元の地球に戻れるルート、異世界化したままのルート、世界が破滅するルート、別世界への移転ルート。
これが社長が示したルートだった。最初の三つのルートはどこにでもありそうなエンディングだ。しかし、最後のルートを聞いた時には、十束も含めて社員たちは驚いたものだ。
ただ、なるほど、そういう考えもあることにはあるだろうと感心した部分でもある。
確かに元の世界を捨て、別の世界へ逃げ込むというのも選択肢としては存在するだろう。もちろんかなり困難な道ではあるが。
まず近代文明を超える科学力を生み出す必要があるし、その上で宇宙を航行できる乗り物を造らないといけない。さらに、人間が住める環境を持つ惑星を探す必要もある。
実際、ゲームではそういった星の存在を探す度に出かけたところでエンディングを迎えている。
つまりは、ゲームでは宇宙船を開発し、出発するところまでは描かれていたのだ。だが、実際に第二の地球が見つかったのかどうかは定かではないが。
特殊な第四ルートはともかくとして、どのルートも基本的には邪神との対決が必須。そして、敗北すれば破滅ルートへと向かう。
(この世界はゲームじゃなくて、主人公――つまりユーザーが多い。となると実際のエンディングにも変化が生じるかもな)
オンラインプレイも兼ねているゲームとはいえ、ストーリーを進め、ラスボスを討伐し世界に平和をもたらすのは主人公一人だけ。多くの仲間がいるといっても、それはNPCである。他の主人公たちと一緒にラスボス討伐はできない。
あくまでもストーリーは、ゲームを購入した者たち個人それぞれの戦いであり、エンディングも個人によって分岐されることだろう。
となると、主人公たちが集まっているこの世界では、通常のエンディングルートに辿り着けるか定かではない。
(まあ、今はそんなこと考えてもしょうがねえけど)
何より、結論を出すには情報が足りない。十束は楽しみたいという気持ちに重点を置いているが、邪神に滅ぼされることを素直に受け入れることはできない。
仮にこの世界で一生を過ごすのであれば、やはり最後まで望むままに生きて死んでいきたいからだ。故に、邪神の存在や、この世界のエンディングルートについては、いずれハッキリさせておきたいと思っている。
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