上 下
28 / 43

第27話 マルチルート

しおりを挟む
「あ、あの……咲山さん、その……本当についてきて良かったんでしょうか?」

 すぐ後ろを歩く綿本が、申し訳なさそうに言ってきた。

「問題ないぞ。お前の面倒は俺が見る。そう言ったろ?」
「でも……井狩さんが仰っていたように、私に戦う力なんてなくて……」
「……綿本も、あの孤島で《勇者ガチャ》てやつを引いたか?」
「あ、はい。その……『民』でしたけど」

 どうやら運には見放されたようだ。いや、これまで瓦礫の下で生き残ってきたのだから、そこに運を注ぎ込んだのかもしれない。

「咲山さんは……『勇者』……なんですか?」
「おう、じゃねえと、あの二人に殺されてたと思うぞ。『勇者』を相手にできるのは『勇者』だけだ」

 とりあえずそれが『ブレイブ・ビリオン』の基本概念だ。

(まあやり方次第で、『民』でも対抗できないことはねえけど、何の準備もなしじゃ無理だろうしな)

 それこそ武術の達人とか、生まれつき人外並みの能力を持っているといった規格外の連中なら概念の外にいるかもしれないが。

「……何でいきなりこんなことになったのでしょうか?」

 それは十束に聞いたというよりは、世界自身に問いかけているように聞こえた。

「さあな。それは俺も知りたいとこだ。けど、起きちまった以上は適応しねえと、世界に飲み込まれちまう。これから多分、もっと世界は荒れるだろうしな」
「世界……? もしかしてこの街だけじゃないってことですか?」
「え? あー多分な。この街……日本だけってのもおかしい話だし、世界中がこんなことになっちまってると思うぞ」

 十束は、日本だけでなく世界そのものが豹変したことを知っているが、設定を知らない者たちからすれば、この異常現象がどこまで広がっているのか分からないだろう。

 インフラやネットなども使えなくなっているから、外の情報を得ようとするにも時間がかかるのだ。あれほどまでに高度に成長した文明だったが、一瞬にして原始に還った世界。

(それでも知識はあるから、いずれまた文明は発展していくだろうけどな)

 今はまだ、原始時代のような自然に支配されたような世界ではあるが、人間が原始人に戻ったわけではない。 
 現代の知識や知恵を持つ者たちが、原始世界へと転移したようなもの。ならば、その知識を最大限に活用すれば、歴史よりも格段に速く便利な発明を形にしていくことだろう。最も、それでもそれなりの時間は要するであろうが。

 事実、ゲームでは主人公が管理する〝ベース〟を近代に近づけるような発展もできるようになっていた。

(まあ、人類が再び宇宙に行けるような科学力を取り戻すには、やっぱり結構な時間はかかるだろうけどな)

 そして、人間たちがまず行うことは、モンスターを討伐するのに有効な兵器開発だろう。まずは身の安全を確保できる武器を備えなければ、おちおち日常生活を発展させていけない。恐怖の隣人をどうにかする方法を優先的に実行する。それには兵器開発が一番。

(ゲームじゃ、アメリカ、中国、ロシアが兵器開発先進国だったけど、この世界じゃどうなるか……)

 元々力のある大国が、やはり真っ先に有用な兵器を開発し、自国民を守ろうとした。ただ、地球が大自然に回帰したことで、それが地球のあるべき姿だと発し、科学を葬ろうとする連中も出てくる。

 十束としては、そういうヤバイ連中とは関わることなく、この世界を悠々自適に楽しめればそれでいいと思っている。
 そのためにも、情報が集まる【アンダーガイア】の発展を優先させていきたい。

「元には……戻らないんでしょうか?」
「……元に、か」

 実際のところ、今は何とも言えないのが正直なところだ。
 設定では、この異常現象を引き起こした邪神を倒すことで、元の地球に戻せるということになっているが、エンディングには様々なルート分岐も存在する。大きく分けると、四つ。

 元の地球に戻れるルート、異世界化したままのルート、世界が破滅するルート、別世界への移転ルート。

 これが社長が示したルートだった。最初の三つのルートはどこにでもありそうなエンディングだ。しかし、最後のルートを聞いた時には、十束も含めて社員たちは驚いたものだ。
 ただ、なるほど、そういう考えもあることにはあるだろうと感心した部分でもある。

 確かに元の世界を捨て、別の世界へ逃げ込むというのも選択肢としては存在するだろう。もちろんかなり困難な道ではあるが。
 まず近代文明を超える科学力を生み出す必要があるし、その上で宇宙を航行できる乗り物を造らないといけない。さらに、人間が住める環境を持つ惑星を探す必要もある。

 実際、ゲームではそういった星の存在を探す度に出かけたところでエンディングを迎えている。
 つまりは、ゲームでは宇宙船を開発し、出発するところまでは描かれていたのだ。だが、実際に第二の地球が見つかったのかどうかは定かではないが。

 特殊な第四ルートはともかくとして、どのルートも基本的には邪神との対決が必須。そして、敗北すれば破滅ルートへと向かう。

(この世界はゲームじゃなくて、主人公――つまりユーザーが多い。となると実際のエンディングにも変化が生じるかもな)

 オンラインプレイも兼ねているゲームとはいえ、ストーリーを進め、ラスボスを討伐し世界に平和をもたらすのは主人公一人だけ。多くの仲間がいるといっても、それはNPCである。他の主人公たちと一緒にラスボス討伐はできない。

 あくまでもストーリーは、ゲームを購入した者たち個人それぞれの戦いであり、エンディングも個人によって分岐されることだろう。
 となると、主人公たちが集まっているこの世界では、通常のエンディングルートに辿り着けるか定かではない。

(まあ、今はそんなこと考えてもしょうがねえけど)

 何より、結論を出すには情報が足りない。十束は楽しみたいという気持ちに重点を置いているが、邪神に滅ぼされることを素直に受け入れることはできない。

 仮にこの世界で一生を過ごすのであれば、やはり最後まで望むままに生きて死んでいきたいからだ。故に、邪神の存在や、この世界のエンディングルートについては、いずれハッキリさせておきたいと思っている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~

十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。

11 Girl's Trials~幼馴染の美少女と共に目指すハーレム!~

武無由乃
ファンタジー
スケベで馬鹿な高校生の少年―――人呼んで”土下座司郎”が、神社で出会った女神様。 その女神様に”11人の美少女たちの絶望”に関わることのできる能力を与えられ、幼馴染の美少女と共にそれを救うべく奔走する。 美少女を救えばその娘はハーレム入り! ―――しかし、失敗すれば―――問答無用で”死亡”?! 命がけの”11の試練”が襲い来る! 果たして少年は生き延びられるのか?! 土下座してる場合じゃないぞ司郎!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...