64 / 78
第63話 おてんばな幼女を追いかける件について
しおりを挟む
「ん? どした、そんなに強張った顔して」
「い、いえ……そういやそこって巨人伝説で有名だったなぁって思って」
「ああ、例の《巨人病》の原因か? それともダイダラボッチの方か?」
「どっちもっすね。その巨人を蓬一郎さんは見たことがありますか?」
「見た……といえば見たが、その全容は目にしてねえな。俺が見たのは霧の中に浮かんだ巨人の影だしよ」
ということは山頂までは登ったのだろう。そして俺と同じものを見た。
「ど、どんな感じでした?」
「……悪いが面白いことは何もねえぞ。アレは近づいたらダメだって本能で察してな。すぐに逃げ帰ってきたから」
「蓬一郎さんでも逃げた相手ですか?」
「あぁ? 悪いかよ。喧嘩売ってんのか?」
「い、いえいえいえ! だってあの怖そうな『白世界』の富樫って奴相手でも怯まないのに!」
「…………相手が人間ならどんな奴だって俺は背を向けねえよ。けどな、ありゃ……怪物そのものだ。何の対策もねえ状態で対峙していいもんじゃねえ。だから今は、できるだけ山の情報を集めながら、そこに近づいてくる人間どもを追い払ってんだ。余計な被害者を出さねえためにもな」
「…………じゃあいずれは攻略を?」
「さあな。別にあの山から出てこねえし、それなら巨人は放置でいいと思うぜ」
確かにわざわざ危険を犯してまで攻略を進める必要はないかもしれない。
だがそのせいで山からモンスターが出てくるリスクはあるが、それくらいなら『紅天下』が討伐していくつもりなのだろう。
「って、話が逸れたな。その黒スーツの連中が、あろうことか【榛名富士】にいやがるんだ。そこなら下手な連中が近づいてこねえって考えてのことだろうな」
「相手の数は分かってるんですか?」
「黒スーツは二人だけ。あとは奴らに捕縛された連中だ」
なら実質的は二人。それなら『紅天下』の総力を結集すれば、拉致された人たちを救い出せるかもしれない。
「でも何でそんな危険な場所にいるんでしょうか? 人を寄せ付けない場所だって他にあると思うのに」
「その理由は奴らにしか分かんねえよ。ただ厄介な救出作戦になることだけは確かだ」
「人数で言えば楽勝なんじゃないっすか? ……いや、そっか救出できたとしても場所が場所だけに大変だな」
「へぇ、お前結構頭が回るんだな。まあそういうことだ。たとえ黒スーツから救出できたとしても、そこからさらにそいつらを山から脱出させねえといけねえ。何せ俺らが向かうのはダンジョンでもあるんだしな」
そうだ。山には黒スーツだけじゃない。他のモンスターだって、罠だってオマケつきでついてきているのだ。
そして下手をすれば、例の巨人だって姿を見せるかもしれない。
そうなれば《巨人病》を発症し、余計に面倒ごとが増える危険性が高い。
「山に長々といたんじゃ、いつ巨人が出てくるか分からん。作戦は速やかに行う必要がある」
戦闘になるのは確か。だがその戦闘の影響で、巨人が出てくれば被害が大きくなるだろう。だから作戦は迅速に完了させる必要がある。
「だからどうしても少数精鋭の任務になっちまう」
「……ああ、だからこそ莱夢の安全を思って厳しく言ってたんすね」
大勢の者たちで行くことができれば、莱夢の生存率だって高くなるはず。しかし今回の作戦では少数で行う故、どうしても一人一人の生存率は下がってしまう。
兄として妹を危険に晒すことはできないのだろう。
「俺にはもう……アイツしか身内はいねえからな。……失うわけにはいかねえ」
「……そういう気持ちを真正面からぶつければ、あの子だって分かってくれるんじゃないですか?」
「んなもん…………恥ずかしくて言えるかよ」
えぇ……そこで硬派を気取っちゃいますか。
「俺はちゃんと話し合った方が良いと思うっすけどね」
「うっせえな。いいんだよ、これが俺なんだからよ」
やれやれ。口下手なアニキを持つと妹は大変らしい。
「…………あ」
「ん? どうした有野?」
「そういやもう一つ聞きたいことがあったんですけど」
こうなったらついでだから気になったことは聞いておこう。
「あんだよ?」
「何か物凄い形相でこの世に絶対なんかないって言ってましたけど」
「――っ!?」
その瞬間、明らかに不機嫌オーラが彼から噴出したので、俺は咄嗟に立ち上がり、
「おっと、何か急に腹痛が痛みだしましたよ! すみませんでしたこんな夜更けに! ではわたくしはここらでドロンということで!」
「へ? あ? お、おい……!」
俺はさっきの幼女のように、聞く耳を持たずにそのまま素早く部屋から出た。
追ってくる可能性があったので、振り返らずに脇道へ入った直後に《ステルス》を使って身を隠す。
…………ふぅぅぅ~。どうやらあの質問は地雷だったみてえだな。
あのまま続けていると、胃が終わりそうな空気になりそうだったので、彼が怒鳴り散らす前に飛び出て来て正解だった。
にしても救出作戦ねぇ……。作戦自体はともかくとして、あの黒スーツの連中が【榛名富士】にいるなんてなぁ。
そこにアイツらは言う〝あの方〟とやらも来るのだろうか。もしかしたらそこで合流する予定なのかもしれない。
ま、いろいろ気にはなるけど俺には関係ない話だしな。
明日にでも隙を見てここから逃げ出そうと思い、自分に与えられた部屋へ戻っていくが、何となく莱夢のことが気になって、去って行った方へ足を延ばした。
その突き当たりには裏口があり、僅かに扉が開いている。
アイツ、扉を閉める習慣がないのかねぇ。
俺は肩を竦めながら外に出るとそこは路地裏で、右側に続く道を歩いて行くと、その先には空き地が広がっていた。
その中央にはポツンと軽トラックが不自然に置かれている。
まさかと思い近づいてみると、荷台の上で体育座りをしている莱夢を発見した。
「い、いえ……そういやそこって巨人伝説で有名だったなぁって思って」
「ああ、例の《巨人病》の原因か? それともダイダラボッチの方か?」
「どっちもっすね。その巨人を蓬一郎さんは見たことがありますか?」
「見た……といえば見たが、その全容は目にしてねえな。俺が見たのは霧の中に浮かんだ巨人の影だしよ」
ということは山頂までは登ったのだろう。そして俺と同じものを見た。
「ど、どんな感じでした?」
「……悪いが面白いことは何もねえぞ。アレは近づいたらダメだって本能で察してな。すぐに逃げ帰ってきたから」
「蓬一郎さんでも逃げた相手ですか?」
「あぁ? 悪いかよ。喧嘩売ってんのか?」
「い、いえいえいえ! だってあの怖そうな『白世界』の富樫って奴相手でも怯まないのに!」
「…………相手が人間ならどんな奴だって俺は背を向けねえよ。けどな、ありゃ……怪物そのものだ。何の対策もねえ状態で対峙していいもんじゃねえ。だから今は、できるだけ山の情報を集めながら、そこに近づいてくる人間どもを追い払ってんだ。余計な被害者を出さねえためにもな」
「…………じゃあいずれは攻略を?」
「さあな。別にあの山から出てこねえし、それなら巨人は放置でいいと思うぜ」
確かにわざわざ危険を犯してまで攻略を進める必要はないかもしれない。
だがそのせいで山からモンスターが出てくるリスクはあるが、それくらいなら『紅天下』が討伐していくつもりなのだろう。
「って、話が逸れたな。その黒スーツの連中が、あろうことか【榛名富士】にいやがるんだ。そこなら下手な連中が近づいてこねえって考えてのことだろうな」
「相手の数は分かってるんですか?」
「黒スーツは二人だけ。あとは奴らに捕縛された連中だ」
なら実質的は二人。それなら『紅天下』の総力を結集すれば、拉致された人たちを救い出せるかもしれない。
「でも何でそんな危険な場所にいるんでしょうか? 人を寄せ付けない場所だって他にあると思うのに」
「その理由は奴らにしか分かんねえよ。ただ厄介な救出作戦になることだけは確かだ」
「人数で言えば楽勝なんじゃないっすか? ……いや、そっか救出できたとしても場所が場所だけに大変だな」
「へぇ、お前結構頭が回るんだな。まあそういうことだ。たとえ黒スーツから救出できたとしても、そこからさらにそいつらを山から脱出させねえといけねえ。何せ俺らが向かうのはダンジョンでもあるんだしな」
そうだ。山には黒スーツだけじゃない。他のモンスターだって、罠だってオマケつきでついてきているのだ。
そして下手をすれば、例の巨人だって姿を見せるかもしれない。
そうなれば《巨人病》を発症し、余計に面倒ごとが増える危険性が高い。
「山に長々といたんじゃ、いつ巨人が出てくるか分からん。作戦は速やかに行う必要がある」
戦闘になるのは確か。だがその戦闘の影響で、巨人が出てくれば被害が大きくなるだろう。だから作戦は迅速に完了させる必要がある。
「だからどうしても少数精鋭の任務になっちまう」
「……ああ、だからこそ莱夢の安全を思って厳しく言ってたんすね」
大勢の者たちで行くことができれば、莱夢の生存率だって高くなるはず。しかし今回の作戦では少数で行う故、どうしても一人一人の生存率は下がってしまう。
兄として妹を危険に晒すことはできないのだろう。
「俺にはもう……アイツしか身内はいねえからな。……失うわけにはいかねえ」
「……そういう気持ちを真正面からぶつければ、あの子だって分かってくれるんじゃないですか?」
「んなもん…………恥ずかしくて言えるかよ」
えぇ……そこで硬派を気取っちゃいますか。
「俺はちゃんと話し合った方が良いと思うっすけどね」
「うっせえな。いいんだよ、これが俺なんだからよ」
やれやれ。口下手なアニキを持つと妹は大変らしい。
「…………あ」
「ん? どうした有野?」
「そういやもう一つ聞きたいことがあったんですけど」
こうなったらついでだから気になったことは聞いておこう。
「あんだよ?」
「何か物凄い形相でこの世に絶対なんかないって言ってましたけど」
「――っ!?」
その瞬間、明らかに不機嫌オーラが彼から噴出したので、俺は咄嗟に立ち上がり、
「おっと、何か急に腹痛が痛みだしましたよ! すみませんでしたこんな夜更けに! ではわたくしはここらでドロンということで!」
「へ? あ? お、おい……!」
俺はさっきの幼女のように、聞く耳を持たずにそのまま素早く部屋から出た。
追ってくる可能性があったので、振り返らずに脇道へ入った直後に《ステルス》を使って身を隠す。
…………ふぅぅぅ~。どうやらあの質問は地雷だったみてえだな。
あのまま続けていると、胃が終わりそうな空気になりそうだったので、彼が怒鳴り散らす前に飛び出て来て正解だった。
にしても救出作戦ねぇ……。作戦自体はともかくとして、あの黒スーツの連中が【榛名富士】にいるなんてなぁ。
そこにアイツらは言う〝あの方〟とやらも来るのだろうか。もしかしたらそこで合流する予定なのかもしれない。
ま、いろいろ気にはなるけど俺には関係ない話だしな。
明日にでも隙を見てここから逃げ出そうと思い、自分に与えられた部屋へ戻っていくが、何となく莱夢のことが気になって、去って行った方へ足を延ばした。
その突き当たりには裏口があり、僅かに扉が開いている。
アイツ、扉を閉める習慣がないのかねぇ。
俺は肩を竦めながら外に出るとそこは路地裏で、右側に続く道を歩いて行くと、その先には空き地が広がっていた。
その中央にはポツンと軽トラックが不自然に置かれている。
まさかと思い近づいてみると、荷台の上で体育座りをしている莱夢を発見した。
0
お気に入りに追加
440
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語
さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。
人々には戦士としてのレベルが与えられる。
主人公は世界最弱のレベル0。
レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。
世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。
ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。
最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。
最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。
普通の高校生だ。
ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。
そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。
それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。
クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。
しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。
異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ
十本スイ
ファンタジー
ある日、唐突にバスジャック犯に殺されてしまった少年――同本日六(どうもとひろく)。しかし目が覚めると、目の前には神と名乗る男がいて、『日本に戻してもらう』ことを条件に、異世界を救うことになった。そして二年後、見事条件をクリアした日六は、神の力で日本への帰還を果たした。しかし目の前には、日六を殺そうとするバスジャック犯が。しかし異世界で培った尋常ではないハイスペックな身体のお蔭で、今度は難なく取り押さえることができたのである。そうして日六は、待ち望んでいた平和な世界を堪能するのだが……。それまで自分が生きていた世界と、この世界の概念がおかしいことに気づく。そのきっかけは、友人である夜疋(やびき)しおんと、二人で下校していた時だった。突如見知らぬ連中に拉致され、その行き先が何故かしおんの自宅。そこで明かされるしおんの……いや、夜疋家の正体。そしてこの世界には、俺が知らなかった真実があることを知った時、再び神が俺の前に降臨し、すべての謎を紐解いてくれたのである。ここは……この世界は――――並行世界(パラレルワールド)だったのだ。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です!
前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる