上 下
62 / 78

第61話 幼女がとんでもないジョブの持ち主だった件について

しおりを挟む
「まあ実際に潜らせるのは精神力なんだけどさ。でもそれで《巨人病》にかかった人に潜って、巨人に会った時の記憶を消してるってわけ」
「凄いな蓬一郎さんは。そんなこともできたんだな」

 しかしそこで莱夢が、若干残念そうな表情を浮かべる。

「イチ兄ちゃんも、本当は記憶消したくないはずなんだけど、それしか方法がないからって言ってる……。まあ消せるっていっても、一部分だけって話みたいだけどさ」

 それに記憶消去は人体にも害があることだから、できることならあまり使いたくないらしい。
 つまり彼の力は記憶を消去することはできるが、都合の良いように改竄したりはできないようだ。
 もしできるなら洗脳だって人格破壊だって容易だし、考えなくとも恐ろしい能力である。

「けれど僕はそのお蔭で助かった。だからこうしてリーダーの力になりたくて一緒にいるんだ」
「…………家族とかには連絡してるのか? きっと心配してると思うけど」
「それは大丈夫。治ってすぐに会いに行ったから。母さん、喜んでくれたけどビックリもしてたよ。まさか僕を病院から連れ出したのが『紅天下』だったってことにさ」

 現状『紅天下』の評価は悪い。だから素直にそう名乗れないのだ。仮に治せるといっても、間違いなく信じてもらえないから。
 だから警察と名乗って、多少強引に被害者たちを連れ出す必要があった。
 病院には信頼できる者を根回しとして働かせているお蔭で、できる限り穏便に被害者を護送することができるという。

 なるほどな。あの警察もやっぱ『紅天下』だったってわけだ。

 道理で警察にしてはいろいろおかしな部分があると思った。しかしこれで納得することができた。

「じゃあ他にも《巨人病》にかかった人たちが『紅天下』にいたり?」
「うん、いるよー。どの人も全部兄ちゃんが治したけどね!」
「うんうん。ただ蓬一郎さんにはその度に無理させてるみたいで、さ。記憶消去って簡単にいうけど、かなり体力と気力を使うらしくて、一日に一人が限界みたいなんだよ」

 それだけの能力だ。当たり前の対価であろう。

「そうだ、けんくん! ろっくんにいろいろ教えてあげてくれる? ウチ、今からちょっと仕事があるからさ!」
「うん、分かったよ。仕事、気をつけてね」

 ヒーロを俺に渡すと、笑顔で手を振りながら去って行く莱夢。

「なあ伊勢?」
「健一でいいよ」
「そっか。じゃあ俺も六門で」
「OK。それで何?」
「今気をつけてって言ってたけど、何か危ないことでもしてるのか莱夢は?」
「あれ? 聞いてないの? 彼女も僕たちと同じ『持ち得る者』なんだよ」
「そ、そうなの? ……知らんかったわ」
「はは。彼女は『紅天下』には欠かせない人だからね」
「欠かせない? そんな重要な人材なんだ」
「当然だよ。何といっても彼女は――――最強の殺し屋だからね」


 ……………………今、何て言わはったん?


 あ、つい京都弁が出るくらいに混乱してしまったようだ。

「えと……こ、殺しのプロって聞こえたんだけど?」
「うん、そう言ったよ」

 う、う、うっそぉぉぉぉぉぉんっ!
 いやだって莱夢だよ? あの笑顔満点の元気印の幼女だよ? 
 それが殺し屋!? んなわけねえだろうがっ! あんな天使みたいな殺し屋がいてたまるかいっ!

「ど、どどどどどどどいうこと!? あんな幼女が殺し屋だなんてっ!?」
「あはは、幼女ってのはあの子の前じゃ言わない方が良いからね?」
「んなことどうでもいいから説明!」
「はいはい。えっと……まあ殺し屋っていっても、そういうジョブってだけなんだけど」
「そういうジョブ? ……! つまりジョブが『殺し屋』?」
「正確には『暗殺者』。彼女がその気になれば、どこにでも忍び込んで対象を暗殺することができるよ」
「マ、マジかよ……!」

 ここ最近で一番驚いたかもしれん。まさかあんな幼気な子が、そんな物騒なジョブ持ちだったとは……。

「とはいっても僕も実際に彼女が戦っているところを見たことはないけどね。ただ古参のメンバーなら、誰もが口を揃えて言うよ。『紅天下』で一番強いのは彼女だって」

 聞いたところ、莱夢は八歳でこれまでも多くの仲間たちを危機から救ってくれた英雄なのだという。
 実際模擬戦をした連中からの評価は、できるならもう二度と戦いたくないという最高の評価をされている。少なくても敵には絶対に回したくないということだ。

 ……そういやアイツが背後から声をかけてくるまで俺もヒーロだって気づかなかったんだよな。

 俺はともかく五感が鋭いヒーロが察知できていなかったこと自体が恐ろしい。
 もしかしたらそういうスキルを使っていたのかも。
 そう考えると見覚えがある。

 ――《ステルス》だ。

 彼女にもしそのスキルがあるとするなら、俺と同じ他の奴らにとっては最悪に近い『持ち得る者』になるだろう。
 しかも俺とは違い、恐らく攻撃力は高いはず。何せ『暗殺者』なのだから。
 あんな無垢な顔をして暗殺スキルを持っているとは、思わず身震いしてしまう。

「あーでも実際に殺しはやってないって話だよ。いくら強くても、暗殺なんてことを蓬一郎さんがやらせるわけないしね」

 なるほど。確かにあのシスコンならそんな酷いことはさせないだろう。まだあの子は子供なのだから。

「それでも諜報役とか情報収集役としてはすっごい優秀だから、その手の仕事が入ると真っ先に彼女が動くんだけども」

 実際に彼女の仕事のお蔭もあって、『白世界』の横暴にも気づけたとのこと。健一も彼女の尽力あって救われたことから、まだ幼いあの子だが心の底から尊敬しているらしい。

 俺……とんでもない子に捕まってしまったのかもしれない。

 何度も言うが、どうして俺の周りの女の子は、どの子も常軌を逸している子ばかりなんだろうか。
 もっとまともというか、普通の美少女に出会いたいんだけど……。
 ただこの情報は得ておいて良かった。仮に莱夢が《ステルス》使いなら、どこで俺を見張っているか分からない。
 俺のことを悪い人じゃないと言っているようだが、それも油断させて俺の正体を探るつもりということも考えられる。

 ……さすがに考え過ぎか?
 だとしてもココにいる間は、余計なことは言わない方だ良いっぽいな。

「さて、しばらく世話になるってことは、ここでの仕事を覚えてもらう必要があるよね。今から教えるけど大丈夫?」

 働かざる者、食うべからず。
 置いてもらうだけでは忍びないので、何でもいいから手伝うと自分で言った。
 掃除や洗濯くらいなら別に苦じゃないから。
 それから健一に、アジトでの仕事を教えてもらい、その間にいろいろ『紅天下』や群馬、巨人についての情報収集を行っていった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語

さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。 人々には戦士としてのレベルが与えられる。 主人公は世界最弱のレベル0。 レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。 世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。 ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。 最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ
ファンタジー
ある日、唐突にバスジャック犯に殺されてしまった少年――同本日六(どうもとひろく)。しかし目が覚めると、目の前には神と名乗る男がいて、『日本に戻してもらう』ことを条件に、異世界を救うことになった。そして二年後、見事条件をクリアした日六は、神の力で日本への帰還を果たした。しかし目の前には、日六を殺そうとするバスジャック犯が。しかし異世界で培った尋常ではないハイスペックな身体のお蔭で、今度は難なく取り押さえることができたのである。そうして日六は、待ち望んでいた平和な世界を堪能するのだが……。それまで自分が生きていた世界と、この世界の概念がおかしいことに気づく。そのきっかけは、友人である夜疋(やびき)しおんと、二人で下校していた時だった。突如見知らぬ連中に拉致され、その行き先が何故かしおんの自宅。そこで明かされるしおんの……いや、夜疋家の正体。そしてこの世界には、俺が知らなかった真実があることを知った時、再び神が俺の前に降臨し、すべての謎を紐解いてくれたのである。ここは……この世界は――――並行世界(パラレルワールド)だったのだ。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

処理中です...