上 下
26 / 78

第二十五話 やはり自分のジョブは笑われる件について

しおりを挟む
「六門、あなたを呼んだのは他でもないわ」
「そんな思わせぶりはいいですってば」

 何でもかんでも形から入る人なのかな、ヒオナさんって。

「もう、話の腰を折らないでよ~。いい六門、あなたに頼みがあるのよ」
「頼みとは名ばかりの脅しでしょう?」
「う~ん、そうともいうかなぁ」

 絶対そうとしか言わないだろう。

「実はね~、あなたの力を見せてほしいのよ~」
「力? ……俺のスキルってことっすかね?」
「あなたがどんな人物か知りたいのよ~」
「役に立たないと思うっすけどね。もう誤魔化せるとは思えないんで言うっすけど、確かに俺は『持ち得る者』です。でも俺のジョブを聞いたらきっとガッカリすると思うんすけどね」
「へぇ、教えて教えて?」
「その前に。ここは盗聴とか大丈夫なんすか?」

 これ以上、俺の情報を拡散したくはない。

「あらら、ずいぶんと慎重なのね~」
「この間はあなたっていうか、獣ってイレギュラーに一杯食わされましたからね」
「フフン、そっかそっか。でも安心して、ここはワタシの縄張りよ。知ってるでしょ、ワタシが【五堂神宮】の娘だって」

 今俺がいる地域は、その【五堂神宮】がある【代月市】の居酒屋である。

「ここら一帯はワタシの一族が統治しているようなもんなのよ。ちなみにこの店も客もぜ~んぶワタシの息がかかってるわ。大事な話をするんだもの。敵の手が伸びるような場所でするわけないじゃない」

 やはりというべきか、こういう抜け目のないところも怖い。それに縄張りって、まるで獣みたいだ。
 そう考えれば何だか獰猛な獣がいる檻の中に閉じ込められているような印象を受ける。

「……はぁ。そうっすか。じゃあ言うっすけど」

 それでも俺はせめて声を抑えて口にする。

「――『回避術師』っすよ」
「……へ? か、かいひ? も、もう一度お願い」
「だから回避、『回避術師』。逃げることに特化したジョブっす」
「回避……逃げ……回避術師……………っぷ、あはははははははははっ! それマジ!? そんなジョブあんの!? 信じらんないっ、それ完全にネタジョブってヤツじゃん! ぶははははははっ!」

 ああもう、だから言いたくなかったんだ。
 俺だってもし他人から聞いたら、何そのパッとしなさそうなジョブは? って言っちまうだろうしな。

「笑い過ぎっすよ。だから言ったじゃないっすか。聞いたらガッカリするって」
「あははっ、ごっめーん。でもだって……ぷぷぷ」

 このアマ、目ぇ突いてやろうかな。

「まあでも逃げに特化したジョブねぇ~。なるほど、どういうスキルがあるの?」
「俺が会得してるのは《ステルス》ってやつっすね」
「へぇ、どんな効果?」
「文字通りステルス機能を自分に付与するスキルっすよ。一分間、自分の存在感を限りなく薄くさせることができるんす」

 もちろん本当はもっと効果時間は長いが、さすがにそのまま伝えるほどバカじゃない。せめてもの抵抗と思ってくれていい。

「存在感……使ってみてくれる?」
「は? 今ここでっすか? それは無理っすよ」
「? どうして?」
「すでに俺っていう存在を視界に捉えて意識されてますし。効果を発揮させるには、一度視界から俺を消さないと」
「そうなんだ。じゃあ……はい、やってみて」

 そう言いながら後ろを向くヒオナさん。

「しゃあないですね。じゃあ五秒後くらいに振り向いてください」

 俺は言葉を発したあとに、すぐに《ステルス》を使った。
 そして要求通りに、五秒後くらいにヒオナさんが振り向き「わお」と声を発する。そのまま俺を探すが、当然見つかるわけがない。

「消えた……店から出て行ったわけでもないわよね。……本当に存在を感じ取れないなんて」

 すると俺は彼女の隣に座り、トントンと肩を叩くと同時に効果を停止させた。

「――ひゃっ!?」
「いや、そんな驚かなくても」

 彼女は俺から大分と距離を取って後ずさりしたので、少しだけ傷ついた。

「……い、いつからいたの?」
「ずっといましたよ。ていうか何度かこっちを見てましたし」
「それでも……気づかなかったというわけね」

 驚愕に歪められたその表情。すぐに真面目なものへと変わり、細めた瞳で俺を見つめてくる。

「なるほどね。ちょっとバカにしてたかも。確かにこれならあの場でも隠し通せるわね」
「まあ実際は何人か気づいてましたけどね。山月含めて」
「けれどおかしいわね。この子も気づかなかったなんて」

 いつの間にかヒオナさんの膝の上には、小さな山月が収まっていた。

「あの時はちゃんとこの子がニオイを嗅ぎ取ったのに」
「ああ、それはスキルを発動してなかったからでしょうね。その子が非常階段の方へ来た直後にスキルを発動させたんですよ」
「……ということかスキルを発動時には、この子の感覚すらも捉えることができないというわけね。……思った以上に厄介な能力よそれ」

 やはり頭の良い彼女のことだ。このスキルの〝怖さ〟を十二分に理解したのだろう。

「誰にも気づかずに近づけるなんて恐ろしい力よ。『回避術師』……つい笑っちゃうほどパッとしないジョブだけど」

 あ、やっぱあんたもそう思ってたのね。

「でもその気になったらこのワタシでも気づかずに殺されちゃうってことだもんね~?」

 口角を上げて笑みを見せてはいるけれど、その実、目はまったく笑っていない。
 言外にはまるで敵に回ったら殺すとでも言っているかのような威圧感さえ伝わってくる。

「あのですね、俺をどこぞの殺人鬼か何かと勘違いしてません? 確かに『持ち得る者』にはなりましたけど、普通の高校生活を送っていたただの男なんすよ?」

 すると愉快気に頬を緩めると、ヒオナさんがハイボールを飲みつつ口を開く。

「ま、そうよね~。会合の時だって、その気になったらいつでも殺れてたもんね~。だってこの子でさえスキルを使われたら分からないんだから」

 殺すとか殺さないとか、マジで物騒過ぎだっての。こちとら仁侠映画を観るだけでビビるガラスハートなのに。あと、ホラーなんかもノーサンキュー。

「でもあなたは理解してるかしら? その力がどれだけ凶悪なのかを」
「……まあ、もし本能のままに生きるような奴が『回避術師』を持ってたら、ゾッとしない世の中になってるでしょうね」

 仮に快楽殺人者やレイプ犯などがこのジョブを持っていたら、そこらに死体や強姦された女性たちが数え切れないほど倒れていることだろう。

「その力を悪用しようとか思わないの? ほら、男の子なんだからいろいろと、ね?」
「うっ……そ、そりゃ考えないことはなかったっすけど」
「あ、やっぱり考えちゃうわよね~」
「まあ俺も普通の男子ですし。けど、それ以上に俺はビビりですからね。見つかった時のこととか考えたりして、結局そんな大それたことなんてできやしないんすよ」
「なるほどね~。ヘタレのビビりさんなのね」
「ほっといてくださいよ」
「でもほらぁ、スカートとか覗いて下着とかガンガン見ることだってできるじゃない」
「あー確かにできるっすけど、何かそのためだけにスキルを使ってる自分を想像すると虚しくて……」

 それに覗きとかって、バレるリスクを背負うからこそ興奮するのではなかろうか。いや、したことないから分からんが。
 それに女風呂に直行したところで、逆にこっちが恥ずかしくなって倒れるビジョンしか思い浮かばん。

「……どうしたんすか、そんな珍獣でも見るような目をして」
「……ふ~ん、六門ってば童貞でしょ~?」
「うぐっ…………ど、童貞ちゃうわ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………童貞ですが何か?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キモオタ レベル0★世界最弱のオタク高校生の僕だけレベルアップ!美女に囲まれハーレム青春物語

さかいおさむ
ファンタジー
街中にダンジョンが現れた現代日本。 人々には戦士としてのレベルが与えられる。 主人公は世界最弱のレベル0。 レベルの低さに絶望していたある日、戦士のレベルの10倍の強さになるというボスが現れる。 世界で倒せるのレベル0の主人公だけ。 ダンジョンで戦うことは諦めていた主人公だが、その日から自分だけがレベルアップできることに。 最強戦士になって、美女の仲間たちとダンジョンの秘密を解き明かす。

異世界帰りの俺は、スキル『ゲート』で現実世界を楽しむ

十本スイ
ファンタジー
ある日、唐突にバスジャック犯に殺されてしまった少年――同本日六(どうもとひろく)。しかし目が覚めると、目の前には神と名乗る男がいて、『日本に戻してもらう』ことを条件に、異世界を救うことになった。そして二年後、見事条件をクリアした日六は、神の力で日本への帰還を果たした。しかし目の前には、日六を殺そうとするバスジャック犯が。しかし異世界で培った尋常ではないハイスペックな身体のお蔭で、今度は難なく取り押さえることができたのである。そうして日六は、待ち望んでいた平和な世界を堪能するのだが……。それまで自分が生きていた世界と、この世界の概念がおかしいことに気づく。そのきっかけは、友人である夜疋(やびき)しおんと、二人で下校していた時だった。突如見知らぬ連中に拉致され、その行き先が何故かしおんの自宅。そこで明かされるしおんの……いや、夜疋家の正体。そしてこの世界には、俺が知らなかった真実があることを知った時、再び神が俺の前に降臨し、すべての謎を紐解いてくれたのである。ここは……この世界は――――並行世界(パラレルワールド)だったのだ。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...