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「――――へぇ。ここが美兎帆ちゃんの管理する世界ねぇ」
ビルが立ち並ぶコンクリートジャングルに降り立った一人の男。もう春とはいえ、まだ時間によっては風が冷たいこの季節に、アロハシャツと短パン、サングラスとサンダルといういで立ちが異様に映る。
明らかにビーチでしか見かけないような風貌のその男を、住民たちが注目するのは必然だった。
しかしながら男――十武呂は、女性たちが自分の魅力にたまらず見つめてきていると勘違いしており、にこやかな笑顔で手を振っては引かれるというのを繰り返している。
中には面白半分で写真を撮っては、SNSに上げているようだ。
「いやぁ、活気もあっていいとこじゃんかぁ。さっすが真面目な美兎帆ちゃんの管理世界だけはあるかねぇ。お、いい匂い!」
香ってきた匂いに吸い寄られる感じで近づいていくと、そこにはキッチンカ―で食べ物が売られていた。
同じように売られている商品を買おうと集まっている女子高生たちの背後に立つ男。
「ねえねえ、これ何ていう食べ物だい?」
気さくに話しかけるが、やはり風貌からドン引きされてしまっているが、それでもちゃんと教えてくれるのは良い子である証拠だろう。
「へぇ、クレープかぁ。よぉ、兄ちゃん、オレにも一つくれね?」
店員に向かって手を上げながら要求する。店員もまた十武呂を見て訝しみつつも、「わ、分かりました」とクレープの種類を聞いてきた。
「んお? 種類?」
首を傾げていると、十武呂を見かけて女子高生がいろいろ教えてくれた。
「ほうほう、マジか! こんなに種類あんのかよぉ」
メニュー表を見て、ニ十種類ほどのクレープに目移りしてしまう。
「どれがオススメとかあるかい?」
どうやら十武呂は軽薄そうではあるが、野蛮な人間ではないと思ったのか、慣れてきた女子高生たちが、オススメや定番のものを伝えてくれる。
「な~るほどぉ。あんがとな、嬢ちゃんたち! 今度お礼にデートすっからさ!」
そんな軽口に、女子高生たちが何が面白いのか「キャハハ!」と笑い合っている。美兎帆がここにいたら、「相変わらずのコミュニケーション能力ですね」と口にするところだ。
十武呂はチョコバナナクレープと、最近流行りのマヨチキトマトクレープを頼む。
(おっと、そういや金は……と)
キョロキョロと周囲を見回し、ちょうど自動販売機の前に立って飲み物を買おうとしている男性を発見する。彼は財布を取り出して一枚の札を出していた。
(ほう、あれがこの世界の貨幣ねぇ)
そしてスッとポケットに右手を突っ込むと、何も無かった手の中に千円札が数枚生み出される。
「これで足りっかね?」
金を定員に見せると、「はい、お預かりします」と言って受け取り、お釣りとして硬貨を一枚送り返してきた。
そしてしばらくすると、二つのクレープが出来上がり十武呂は「待ってました」と両手で受け取る。
まずは定番というチョコバナナクレープを頬張った。
「んぅおぉぉぉ! めちゃんこ甘いじゃねえか! こりゃうめえうめえ!」
おススメした女子高生たちも、十武呂が満足そうに食べているところを見て微笑んでいる。
「それにこっちは甘くねえけど、ボリュームがあっていいな! 外がカリカリ中がしっとりの肉に、この濃厚なタレがたまらん! それにこの赤いのがいい具合に酸っぱくてサッパリ食べられるから、これは無限食いだぜおい!」
十武呂の楽しみの一つに、美味いものを食べるというのがある。しかしながら、普段過ごしている場所では、素材そのものしか口にせず、こうしたちゃんとした料理を食べるのは凄く久しぶりなのだ。
だからたまに自分が管理する世界に降り立って食事を嗜むが、ここほど感動をもたらす料理はないのだ。
しかもまだまだ美味そうなものがこの世界にはありそうで、当初の目的すら忘れそうになる。
「いやぁ、マジで美兎帆ちゃん尊敬するわぁ。こ~んなうめえ飯を作る奴らがいる世界を管理するなんてよぉ」
世界? 管理? という十武呂の言葉を小首を傾げながら女子高生たちが言い合っている。
しかしそんなことを気にせず、十武呂はクレープを一気に食べ終えると……。
「なあなあ可愛い嬢ちゃんたち、他にもうめえもん知ってっか?」
女子高生たちには、きっと十武呂がド田舎から出てきた常識を知らない人物だと分析できたのだろう。まるで弟にでも接するかのような感じで、次々と自分たちが知っているグルメ情報を教えていく。
それを「ふむふむ」と言いながら聞き、教えてくれた彼女たちに礼だと言って、一人ずつ千円札を与えてからその場を離れた。
そしてそのまま真っ直ぐ駅があるという場所へと向かい、大勢の人が行き交っている交差点へと辿り着く。
「……ふっ、よし。じゃあさっそく――――らーめんとやらを食いに行くか!」
もう完全にこの世界に来た目的を忘れた十武呂だった。
ビルが立ち並ぶコンクリートジャングルに降り立った一人の男。もう春とはいえ、まだ時間によっては風が冷たいこの季節に、アロハシャツと短パン、サングラスとサンダルといういで立ちが異様に映る。
明らかにビーチでしか見かけないような風貌のその男を、住民たちが注目するのは必然だった。
しかしながら男――十武呂は、女性たちが自分の魅力にたまらず見つめてきていると勘違いしており、にこやかな笑顔で手を振っては引かれるというのを繰り返している。
中には面白半分で写真を撮っては、SNSに上げているようだ。
「いやぁ、活気もあっていいとこじゃんかぁ。さっすが真面目な美兎帆ちゃんの管理世界だけはあるかねぇ。お、いい匂い!」
香ってきた匂いに吸い寄られる感じで近づいていくと、そこにはキッチンカ―で食べ物が売られていた。
同じように売られている商品を買おうと集まっている女子高生たちの背後に立つ男。
「ねえねえ、これ何ていう食べ物だい?」
気さくに話しかけるが、やはり風貌からドン引きされてしまっているが、それでもちゃんと教えてくれるのは良い子である証拠だろう。
「へぇ、クレープかぁ。よぉ、兄ちゃん、オレにも一つくれね?」
店員に向かって手を上げながら要求する。店員もまた十武呂を見て訝しみつつも、「わ、分かりました」とクレープの種類を聞いてきた。
「んお? 種類?」
首を傾げていると、十武呂を見かけて女子高生がいろいろ教えてくれた。
「ほうほう、マジか! こんなに種類あんのかよぉ」
メニュー表を見て、ニ十種類ほどのクレープに目移りしてしまう。
「どれがオススメとかあるかい?」
どうやら十武呂は軽薄そうではあるが、野蛮な人間ではないと思ったのか、慣れてきた女子高生たちが、オススメや定番のものを伝えてくれる。
「な~るほどぉ。あんがとな、嬢ちゃんたち! 今度お礼にデートすっからさ!」
そんな軽口に、女子高生たちが何が面白いのか「キャハハ!」と笑い合っている。美兎帆がここにいたら、「相変わらずのコミュニケーション能力ですね」と口にするところだ。
十武呂はチョコバナナクレープと、最近流行りのマヨチキトマトクレープを頼む。
(おっと、そういや金は……と)
キョロキョロと周囲を見回し、ちょうど自動販売機の前に立って飲み物を買おうとしている男性を発見する。彼は財布を取り出して一枚の札を出していた。
(ほう、あれがこの世界の貨幣ねぇ)
そしてスッとポケットに右手を突っ込むと、何も無かった手の中に千円札が数枚生み出される。
「これで足りっかね?」
金を定員に見せると、「はい、お預かりします」と言って受け取り、お釣りとして硬貨を一枚送り返してきた。
そしてしばらくすると、二つのクレープが出来上がり十武呂は「待ってました」と両手で受け取る。
まずは定番というチョコバナナクレープを頬張った。
「んぅおぉぉぉ! めちゃんこ甘いじゃねえか! こりゃうめえうめえ!」
おススメした女子高生たちも、十武呂が満足そうに食べているところを見て微笑んでいる。
「それにこっちは甘くねえけど、ボリュームがあっていいな! 外がカリカリ中がしっとりの肉に、この濃厚なタレがたまらん! それにこの赤いのがいい具合に酸っぱくてサッパリ食べられるから、これは無限食いだぜおい!」
十武呂の楽しみの一つに、美味いものを食べるというのがある。しかしながら、普段過ごしている場所では、素材そのものしか口にせず、こうしたちゃんとした料理を食べるのは凄く久しぶりなのだ。
だからたまに自分が管理する世界に降り立って食事を嗜むが、ここほど感動をもたらす料理はないのだ。
しかもまだまだ美味そうなものがこの世界にはありそうで、当初の目的すら忘れそうになる。
「いやぁ、マジで美兎帆ちゃん尊敬するわぁ。こ~んなうめえ飯を作る奴らがいる世界を管理するなんてよぉ」
世界? 管理? という十武呂の言葉を小首を傾げながら女子高生たちが言い合っている。
しかしそんなことを気にせず、十武呂はクレープを一気に食べ終えると……。
「なあなあ可愛い嬢ちゃんたち、他にもうめえもん知ってっか?」
女子高生たちには、きっと十武呂がド田舎から出てきた常識を知らない人物だと分析できたのだろう。まるで弟にでも接するかのような感じで、次々と自分たちが知っているグルメ情報を教えていく。
それを「ふむふむ」と言いながら聞き、教えてくれた彼女たちに礼だと言って、一人ずつ千円札を与えてからその場を離れた。
そしてそのまま真っ直ぐ駅があるという場所へと向かい、大勢の人が行き交っている交差点へと辿り着く。
「……ふっ、よし。じゃあさっそく――――らーめんとやらを食いに行くか!」
もう完全にこの世界に来た目的を忘れた十武呂だった。
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