オカルトな現代への転生ライフ ~神様からあらゆる前世の知識をもらえました~

十本スイ

文字の大きさ
上 下
24 / 28

23

しおりを挟む
 ――【亀泉神社】。

 その社務所にある座敷にて、二人の人物が顔を突き合わせていた。
 一人は宮司を務める亀泉の長――剣樹。そしてもう一人は――。

「久方ぶりだな――――朱衣」

 ――麟崎朱衣だった。

「ご無沙汰しております、剣樹様。この度は、突然の訪問を快く迎えてくださり、誠に感謝致します」

 正座にて丁寧に頭を下げる朱衣。この仕草から、二人の序列関係が理解できる。

「相変わらず堅苦しいな。公の場でもないのだ。もう少し楽にするとよい」
「し、しかし……剣樹様は我が剣の師でもあります」
「そうは言っても、教えていたのは一年ほどで師と呼ぶほどの関係ではあるまい」
「それでも私にとっては濃密な一年間であり、こうしていまだ剣を振るえるのも剣樹様がいてくださったお蔭ですので」

 態度を崩すつもりなどない朱衣に対し、剣樹はその頑なさに苦笑を浮かべる。

「まあよい。それで訪問の理由を聞こうか。何でも儂に直接話さないといけないことがあるとのことだが?」
「…………先日、【麒麟塚《きりんづか》】に襲撃者がございました」
「!? ……もしや封印が解かれたのか?」

 一瞬にして剣呑な雰囲気になった剣樹だが、朱衣は静かに頭を左右に振る。

「いえ、危ういところでしたが撃退に成功致しました」

 その言葉にホッと息を吐く剣樹。

「それは安心だ。寺の者は無事なのか? 雷蔵は?」
「寺の者は祖父が守り、さらに襲撃者を撃退しました」
「うむ、さすがは雷蔵だな」

 しかし朱衣の表情が曇ったのを見て、剣樹は「どうかしたのか?」と尋ねた。

「……しかしながら、戦いの最中、その襲撃者の一撃をまともに受けてしまい、祖父は今、床に伏せております」
「何と!? あの雷蔵がか!?」
「っ……はい。襲撃者は単独でした。その上で【麒麟寺】に忍び込み、祖父と戦い、しかも逃げおおせております」

 それは深夜の出来事だったと朱衣は言う。そして倒れた雷蔵は、今も寝たきりで意識も戻らない。

「うむぅ……あの雷蔵が重傷を負い、退けるのに手一杯だったというわけか。何者か判明はしておるのか?」

 朱衣はきつく歯を食いしばりながら首を左右に振る。

「その時、私は地方に仕事で出払っていました。せめて私がその場にいれば力になれたものを……っ」

 全身を悔しさと怒りで震わせる朱衣に、剣樹はそっと近づいてその肩に手を置く。

「この世はすべて巡り合わせだ。良いことも悪いことも、その流れの中で受け止めねばならん。だからそう自分を責めるでない。雷蔵は生きている。それでまずは感謝せねばな」
「剣樹様…………はい」

 元の位置に座り直した剣樹が、再び口を開く。

「朱衣よ、二年前のことを覚えておるか?」
「二年前……?」
「この神社にて起きた不可思議な出来事をだ」
「! それは例の『霊亀』の封印が解かれたことでございますか?」
「うむ。当時のことは本当に不可思議でしかない。何の前兆も、儂が施した結界を解かれた様子もなく、ただ祠の中に封印されていたはずの『霊宝』は失われておった」
「それは二年前に私も祖父から聞かされ驚きました。まさか剣樹様の結界を破り、なおかつ強固な封印を破った者がいるなんて冗談かと思いましたから」
「もしや悪意ある者の手に渡ったのではと危惧し、お主らとも連携を図り、戦争の準備すら整えていたが……」
「結局何も起こらなかった」

 朱衣の言葉に剣樹が首肯する。

「剣樹様は、今回の件はその二年前に起こったものと同一だと?」

 しかし剣樹は否定するように頭を振る。

「二年前のあの出来事。そもそも結界が破られたのなら儂が必ず気づく。しかしその気配もなく、結界はそのままにして祠の封印のみを解いた存在がいる。明らかに普通ではない。だから儂はこう考えた。もしかすると『霊亀』そのものが何者かを呼び寄せ封印を解かせたのではないか、とな」
「『霊亀』そのものが、ですか?」
「うむ。そうであるなら納得できるのだ。あの結界は外側から無理矢理開けるとなると、必ず儂は気づく。しかし内側からなら話は別だ。恐らく『霊亀』が僅かな霊力で封印を一時的に中和し、その何者かを招き入れ、そこで封印を解かせた」
「し、しかしそれは何のために……? 伝承では、『霊亀』は自ら進んで封印されたとあります。何故今になって封印を解こうと? しかも外部の者を招き入れてまで」
「詳しくは儂にも分からぬ。しかし音も気配もなく結界の中に入り、さらに強固な封印が解かれたという事実は、やはりそうとしか思えないのだ」

 つまり彼が言っているのは、『霊亀』がその何者かと協力をしたということ。

「ただそうなると、二年前のことと今回のことは、同じように見えて些か異なっておる。それは襲撃者が力尽くだったということ」
「! ……確かに」
「しかも事を起こしたのは深夜なのだろう。しかし二年前は白昼堂々と、だ。そんなことができるのなら、今回も騒ぎなど起こさずとも封印を解けたのではないか?」
「そういえば……では、二つの事件に繋がりはないということですね?」
「そう確信できるわけではないが、手口がまったく異なっている以上は、な」

 剣樹の見解に朱衣もまた納得することができた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ほぼ不滅、『残機10億』のスキル無双 ~このダンジョン都市でゾンビって呼ばれてます。~

十本スイ
ファンタジー
 地球にダンジョンが誕生して二十数年が経った。宇宙開発に心血を注いでいた各国だったが、この大事件が勃発してからというものの、こぞってダンジョン攻略に乗り出すことになったのである。何故なら人間の中には、魔法に目覚める者が現れ、ダンジョンの中には、人類が欲して止まない未知のエネルギー物質なども存在したからだ。故にダンジョンを攻略する者――冒険者の誕生を国は歓迎した。その中で、地村十利(ちむらじゅうり)もまた冒険者になるべく、ダンジョン都市へと足を踏み入れることになった。だがその理由は、地位や名誉ではない。ただ一つ――借金を返すためである。しかもその金額は何と――〝十億〟。加えて、そのすべてはダメ親父から背負わされたものだった。冒険者になれば稼げる。夢の職業だ。その一縷の望みをかけて冒険者登録に向かうも、自分には一切の魔力がなく魔法が使えない事実が判明してしまう。十利は絶望する。だがそんな十利にも、まだ残された希望があった。ステータス表記を見ると、稀にしか持たないとされるスキルが存在したのだ。しかもそのさらに稀少度の高い〝ユニークスキル〟。ただこのスキルの名前は『残機十億』というよく分からないものだった。借金と被っているし、嫌なシンクロだと思っていた十利だったが、このスキルがまた無敵過ぎる能力を持っていたのである。そしてそのスキルのせいで、十利は〝ゾンビ〟と呼ばれることになっていく。これは一人の不運過ぎる少年が、父親の借金を返済するために稼ぎまくりながら、将来の嫁さんを見つける物語である。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。 さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。 という感じの話です。 草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。 小説の書き方あんまり分かってません。 表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

処理中です...