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「――ナイスッ、メメ!」
ギリギリのところでメメが間に合ってくれた。
女性が完全にこちらに意識を向けていてくれたお蔭で、ここへ辿り着いたメメが女性に体当たりを放って助けてくれたのだ。
「パパをいじめるなんて許さないぞぉ!」
そのまま地面に着地したメメだが、まだ警戒は解かず敵意もそのままに吹き飛んだ女性を睨みつけている。
「メメ、あの人の相手はもういい! 今すぐ逃げるぞ!」
立ち上がってメメを拾い上げた悟円は、気を全開にしてその場から離脱する。
メメをフードの中に、小人をパーカーのポケットの中に隠したまま、公園から出て真っ直ぐ自宅へと急ぐ。
背後に気を配るが、メメの一撃が相当だったのか追いかけては来ない。
団地に辿り着き家に素早く入ってひと心地をつく。
「あら、おかえり。もう帰ってきたの?」
玄関前で乱れている息を整えていると、母の声が突然聞こえてきてビクッとしてしまう。
「え? あ、あはは……た、ただいま」
「ちょっとヤダ、服が汚れてるじゃない。それに汗もいっぱいかいて。お風呂に入っちゃいなさい」
そんな母の言葉に「う、うん」と答えると、脇目も振らずに風呂場へと向かった。
せっかくだからと、メメと小人も一緒に浴室へと入る。
「ふぅ~、何とか逃げ切れたみたいだなぁ」
椅子に腰かけて深く息を吐き出す。
(パパ~、大丈夫ぅ?)
足元にいるメメが心配そうに念話で声をかけてきた。
そうこの念話を使って、池で遊んでいるであろうメメを呼び寄せたのだ。しかしそれには時間稼ぎが必要だった。
だから土魔法で壁を作ったり、光魔法で視界を奪おうとしたのだ。まあ光魔法についてはまさかサングラスを持っているとは思わなかったので驚いたが。しかし何らかの方法で防がれることも考慮には入れておいた。
あとは話術で何とか引き延ばそうとしたが、念話でもうすぐ着くというメメの言葉を信じて、怯えたフリをして油断を誘っていた。そこへメメが突入してくれたというわけだ。
「小声でなら普通に話してもいいよ。それよりもメメ、本当に助かったよ。ありがとな」
「ううん、間に合って良かったよぉ」
メメを撫でてやると「えへへ~」と気持ち良さそうに笑う。
「けど問題は…………連れて帰ってきちゃったけど」
物珍しそうに風呂場をキョロキョロとしている小人。
「えと、メメ。コイツのこと知ってる?」
「んぅ? ……あれぇ、何で〝こめたま〟がいるのぉ?」
今気づいたようで小人を見て小首を傾げている。
「こ、こめたま?」
「うん、地霊の一種だねぇ」
「地霊……なるほど、やっぱりそういう存在だったか」
何となくそうではないかと思ってはいた。
地霊とは、いわゆる大地から生まれる精霊や神のこと。もちろん地霊も様々で、弱いものもいればメメのような強大な力を持つものもいる。ただこの子に関しては、ほとんど何の力もない無邪気な霊力の塊みたいだが。
害意や敵意など感じず、その霊力に純粋さを感じていたので、前世の知識から地霊などの存在ではないかと考えていたが、どうやらそれは的を射ていたようだ。
メメが言うには、この小人は地霊の中でも最下級の存在であり、こめたまと呼ばれているのだという。好奇心旺盛だが臆病な性格で、大地の恵みが豊かなところに生まれるらしい。
あの【奥竹公園】には自然が溢れており、潤沢なエネルギーが大地にも流れている。そのお蔭でこうした地霊が生まれるのだ。つまりこの子がいるということは、あそこは平和で豊かな土地だということを示している。
「けどあの女の人、妖とか言って討伐しようとしてたけど……」
「妖はいるよぉ。でもボクたちみたいな人間でないモノのことを総称して呼んでる人が多いって話なんだぁ」
「なるほど。じゃあ妖だからって危険な奴らって決まってないんだね?」
「う~ん、でもねぇ、人間を嫌ってる妖って多いよぉ。ずっと昔、人間と妖が戦争したって話もあるしぃ」
どうやら想像以上にこの世界はファンタジーに満ちているらしい。まさかそんな争いが勃発していたとは思いもしなかった。
「でも共存している人たちもいるしぃ、一概に敵ってわけじゃないよぉ」
それはそうだろう。こうしてメメやこめたまと親しくなれているわけだし、話が通じる相手もまた存在するはずだ。
ただ過去にそうした遺恨がある以上は、いまだ溝だって埋まってはいないだろう。
「それよりもやっぱり詳しいね、メメは。この二年で、ちょっとは記憶も戻ってきたみたいだね」
「うん、まだ完全じゃないけどねぇ。でもパパの役に立ちたいから頑張って思い出すよぉ」
何て良い子なのだろうか。思わず感動してまた撫でてしまった。
「そういえば、お前はこれからどうする?」
こめたまに尋ねるが、小首を傾げるだけだ。そしてハッとした感じで身振り手振りをし始めた。
「……パパと一緒にいたいってぇ」
「へ? メメ分かるの? ってか、僕と一緒にいたいの?」
コクコクとこめたまが頭を何度も縦に振る。
「う~ん、でもこれ以上同居人が増えると家族にバレる可能性が……」
メメでさえまだ隠している状況なのだ。ちょっとしたことでバレてしまいかねない。メメなら亀ということで話が通るが、こめたまはそうはいかない。見つかったら何て説明すればいいのだ。
「パパ~、こめたまは普通の人の見えないから大丈夫だよぉ」
「え、そうなの?」
「霊力が強い人だったら見えるけど、パパの家族はそれほど強くないしぃ」
なるほど。それなら安心だ。少なくともこめたまに関しては。それにこのまま元の場所に戻して、またあの女性に見つかったらと思うと気が気ではない。
「よし、分かった。じゃあここにいていいよ。あ、でも悪戯とかしたらダメだぞ?」
許可がもらえたことが嬉しかったのか、バンザイしながら走り回り始めた。
「けど一緒に暮らすなら名前が必要だよね。こめたまは種族名みたいなもんだし……」
腕を組んで思案していると、メメの上にこめたまが乗って遊び出した。メメも楽しそうにのっそりと闊歩している。まるで竜宮城に向かう浦島太郎みたいだ。
「お、そうだ。じゃあ、ウララっていうのはどう?」
提案すると、こめたまは気に入ったようで万歳三唱をしている。
「うん、じゃあこれからよろしくね、ウララ!」
人差し指を向けると、ウララも口をパクパクしながら両手で掴んできた。
これでまた一人、万堂家に家族が増えたのである。
ギリギリのところでメメが間に合ってくれた。
女性が完全にこちらに意識を向けていてくれたお蔭で、ここへ辿り着いたメメが女性に体当たりを放って助けてくれたのだ。
「パパをいじめるなんて許さないぞぉ!」
そのまま地面に着地したメメだが、まだ警戒は解かず敵意もそのままに吹き飛んだ女性を睨みつけている。
「メメ、あの人の相手はもういい! 今すぐ逃げるぞ!」
立ち上がってメメを拾い上げた悟円は、気を全開にしてその場から離脱する。
メメをフードの中に、小人をパーカーのポケットの中に隠したまま、公園から出て真っ直ぐ自宅へと急ぐ。
背後に気を配るが、メメの一撃が相当だったのか追いかけては来ない。
団地に辿り着き家に素早く入ってひと心地をつく。
「あら、おかえり。もう帰ってきたの?」
玄関前で乱れている息を整えていると、母の声が突然聞こえてきてビクッとしてしまう。
「え? あ、あはは……た、ただいま」
「ちょっとヤダ、服が汚れてるじゃない。それに汗もいっぱいかいて。お風呂に入っちゃいなさい」
そんな母の言葉に「う、うん」と答えると、脇目も振らずに風呂場へと向かった。
せっかくだからと、メメと小人も一緒に浴室へと入る。
「ふぅ~、何とか逃げ切れたみたいだなぁ」
椅子に腰かけて深く息を吐き出す。
(パパ~、大丈夫ぅ?)
足元にいるメメが心配そうに念話で声をかけてきた。
そうこの念話を使って、池で遊んでいるであろうメメを呼び寄せたのだ。しかしそれには時間稼ぎが必要だった。
だから土魔法で壁を作ったり、光魔法で視界を奪おうとしたのだ。まあ光魔法についてはまさかサングラスを持っているとは思わなかったので驚いたが。しかし何らかの方法で防がれることも考慮には入れておいた。
あとは話術で何とか引き延ばそうとしたが、念話でもうすぐ着くというメメの言葉を信じて、怯えたフリをして油断を誘っていた。そこへメメが突入してくれたというわけだ。
「小声でなら普通に話してもいいよ。それよりもメメ、本当に助かったよ。ありがとな」
「ううん、間に合って良かったよぉ」
メメを撫でてやると「えへへ~」と気持ち良さそうに笑う。
「けど問題は…………連れて帰ってきちゃったけど」
物珍しそうに風呂場をキョロキョロとしている小人。
「えと、メメ。コイツのこと知ってる?」
「んぅ? ……あれぇ、何で〝こめたま〟がいるのぉ?」
今気づいたようで小人を見て小首を傾げている。
「こ、こめたま?」
「うん、地霊の一種だねぇ」
「地霊……なるほど、やっぱりそういう存在だったか」
何となくそうではないかと思ってはいた。
地霊とは、いわゆる大地から生まれる精霊や神のこと。もちろん地霊も様々で、弱いものもいればメメのような強大な力を持つものもいる。ただこの子に関しては、ほとんど何の力もない無邪気な霊力の塊みたいだが。
害意や敵意など感じず、その霊力に純粋さを感じていたので、前世の知識から地霊などの存在ではないかと考えていたが、どうやらそれは的を射ていたようだ。
メメが言うには、この小人は地霊の中でも最下級の存在であり、こめたまと呼ばれているのだという。好奇心旺盛だが臆病な性格で、大地の恵みが豊かなところに生まれるらしい。
あの【奥竹公園】には自然が溢れており、潤沢なエネルギーが大地にも流れている。そのお蔭でこうした地霊が生まれるのだ。つまりこの子がいるということは、あそこは平和で豊かな土地だということを示している。
「けどあの女の人、妖とか言って討伐しようとしてたけど……」
「妖はいるよぉ。でもボクたちみたいな人間でないモノのことを総称して呼んでる人が多いって話なんだぁ」
「なるほど。じゃあ妖だからって危険な奴らって決まってないんだね?」
「う~ん、でもねぇ、人間を嫌ってる妖って多いよぉ。ずっと昔、人間と妖が戦争したって話もあるしぃ」
どうやら想像以上にこの世界はファンタジーに満ちているらしい。まさかそんな争いが勃発していたとは思いもしなかった。
「でも共存している人たちもいるしぃ、一概に敵ってわけじゃないよぉ」
それはそうだろう。こうしてメメやこめたまと親しくなれているわけだし、話が通じる相手もまた存在するはずだ。
ただ過去にそうした遺恨がある以上は、いまだ溝だって埋まってはいないだろう。
「それよりもやっぱり詳しいね、メメは。この二年で、ちょっとは記憶も戻ってきたみたいだね」
「うん、まだ完全じゃないけどねぇ。でもパパの役に立ちたいから頑張って思い出すよぉ」
何て良い子なのだろうか。思わず感動してまた撫でてしまった。
「そういえば、お前はこれからどうする?」
こめたまに尋ねるが、小首を傾げるだけだ。そしてハッとした感じで身振り手振りをし始めた。
「……パパと一緒にいたいってぇ」
「へ? メメ分かるの? ってか、僕と一緒にいたいの?」
コクコクとこめたまが頭を何度も縦に振る。
「う~ん、でもこれ以上同居人が増えると家族にバレる可能性が……」
メメでさえまだ隠している状況なのだ。ちょっとしたことでバレてしまいかねない。メメなら亀ということで話が通るが、こめたまはそうはいかない。見つかったら何て説明すればいいのだ。
「パパ~、こめたまは普通の人の見えないから大丈夫だよぉ」
「え、そうなの?」
「霊力が強い人だったら見えるけど、パパの家族はそれほど強くないしぃ」
なるほど。それなら安心だ。少なくともこめたまに関しては。それにこのまま元の場所に戻して、またあの女性に見つかったらと思うと気が気ではない。
「よし、分かった。じゃあここにいていいよ。あ、でも悪戯とかしたらダメだぞ?」
許可がもらえたことが嬉しかったのか、バンザイしながら走り回り始めた。
「けど一緒に暮らすなら名前が必要だよね。こめたまは種族名みたいなもんだし……」
腕を組んで思案していると、メメの上にこめたまが乗って遊び出した。メメも楽しそうにのっそりと闊歩している。まるで竜宮城に向かう浦島太郎みたいだ。
「お、そうだ。じゃあ、ウララっていうのはどう?」
提案すると、こめたまは気に入ったようで万歳三唱をしている。
「うん、じゃあこれからよろしくね、ウララ!」
人差し指を向けると、ウララも口をパクパクしながら両手で掴んできた。
これでまた一人、万堂家に家族が増えたのである。
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