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(む? 目の色が変わった……?)
明らかに少年の雰囲気が変化した。それと同時に、彼の身体から淡い山吹色のオーラのようなものが見える。見間違いかと思ったが、どうやら間違いないようだ。
(霊力……ではないな。まさか〝気〟まで扱えるとは、この子は一体……?)
その山吹色のオーラが気であることを知っていた。
先ほどは霊力を使って一時的にも自分相手に退却を成功させ、今度は気を使って何かをしようとしている。
霊力と気、両方を扱うことは別に不可能ではないが、子供の時分ではせいぜいがその存在を認識できるくらいでコントロールなどは難しいのが普通だ。
それを術として行使したり、身体から溢れるほどの気を発したりと、凡そ子供とは思えないほどの力である。
(もしや亀泉家の者か? いや、こんな子がいたなどという話は聞いたことはない。しかしこれほどの才能の持ち主。余程の家の生まれだとは思うが……)
そう思案するが、だからこそ危うい。あれほどの力を、すべて妖に吸われれば、妖が強化されるだけでなく、下手をすれば吸われている最中に少年の力が暴走しかねない。
身の危険を魂が察知し、一気に潜在的に眠っている力を発して外敵を排除しようとする。そうなればたとえ妖をどうにかできたとしても、まだ未熟な心と身体しか持たない少年は、力の重さに潰れてしまう。そうなれば良くて廃人、悪くて即死する。
(こうなったらまずは少年を止めねばならないか)
少年に手は出したくないが、このままだと想像が現実化してしまう危険性がある。ここは心を鬼にして、少年の意識を奪う他ないと判断する。
(人払いの術を施しておいて正解だったな。これなら少し暴れても問題はあるまい)
優先順位を少年の意識を奪うことに変えた朱衣は、一足飛びに少年へ近づこうと右足に力を込める――が、
「何っ!?」
突然少年が地面に手を触れると、眼前の土が盛り上がり朱衣の侵攻を防ぐ。
(これは《操土《そうど》の術》!? この子、まさか陰陽術を!?)
退魔士や陰陽師などが扱う術の一つに、土を自在に操作するものがある。しかしもちろん術を行使するには、相応の力量が求められる。こんな子供ができる術ではない。
刀で壁になっている土を斬ると、思った以上にあっさりと切断することができた。
(強度はほとんどない。まだ練度が足りないようだな。まあそれでも驚嘆ものではあるがな)
術を失敗することなく発現できただけで大したもの。本当にこの子は素晴らしい逸材である。だからこそ、ここで妖のせいでその命を散らすわけにはいかない。
「――逃げても分かるぞ!」
壁で視界を閉ざしている間に逃げる算段だったようだが、さすがにこの短時間では逃げ切れないようだ。すぐに視線を走っている少年へと向けつつ朱衣も駆け出す。
今度は背後からその背を掴もうと手を伸ばすが……直後に少年から霊力を感じ、咄嗟に懐からあるものを取り出し装着する。
同時に少年から眩い発光現象が起きるが、次に驚いたのは少年の方だった。
「ふふ、そう何度も同じ手は通じないぞ。これでも一応はプロなのでな」
現在朱衣の両眼にはサングラスがかけられていた。
「うっ……準備良過ぎでしょ」
少年は悔しそうに呟くが、内心で朱衣は脱帽していた。
恐らくここまでの流れが少年の策だったのだろう。あの土壁も破られることを前提での逃げ。そしてわざと背後をつかせ、近づいてきたところに光を発生させて相手の視界を奪う。単純ではあるが、これを子供が考え実行したとなると末恐ろしい。
「一級退魔士ならともかく、二級以下なら騙されていたろうな」
それほどまでに少年の策は見事であった。
「しかしこれで終わりだ」
疲れからか、尻もちをついている少年に向けて刀を突きつける。正確には、その腕に抱かれている妖にだ。
ただそれは少年を恐怖で硬直させるためだ。罪悪感があるが、もう逃げないように。その一瞬の隙をついて、今度こそ少年の背後をついて意識を奪う。
案の定、こちらの殺気に怯えた様子で震えて動けずにいる。
その一連の流れを実行しようとしたその時、不意に右側面から敵意を感じた。だがすでに時は遅く、その敵意によって生じた衝撃が腹部に走るとともに、朱衣はそこから弾き飛ばされてしまった。
明らかに少年の雰囲気が変化した。それと同時に、彼の身体から淡い山吹色のオーラのようなものが見える。見間違いかと思ったが、どうやら間違いないようだ。
(霊力……ではないな。まさか〝気〟まで扱えるとは、この子は一体……?)
その山吹色のオーラが気であることを知っていた。
先ほどは霊力を使って一時的にも自分相手に退却を成功させ、今度は気を使って何かをしようとしている。
霊力と気、両方を扱うことは別に不可能ではないが、子供の時分ではせいぜいがその存在を認識できるくらいでコントロールなどは難しいのが普通だ。
それを術として行使したり、身体から溢れるほどの気を発したりと、凡そ子供とは思えないほどの力である。
(もしや亀泉家の者か? いや、こんな子がいたなどという話は聞いたことはない。しかしこれほどの才能の持ち主。余程の家の生まれだとは思うが……)
そう思案するが、だからこそ危うい。あれほどの力を、すべて妖に吸われれば、妖が強化されるだけでなく、下手をすれば吸われている最中に少年の力が暴走しかねない。
身の危険を魂が察知し、一気に潜在的に眠っている力を発して外敵を排除しようとする。そうなればたとえ妖をどうにかできたとしても、まだ未熟な心と身体しか持たない少年は、力の重さに潰れてしまう。そうなれば良くて廃人、悪くて即死する。
(こうなったらまずは少年を止めねばならないか)
少年に手は出したくないが、このままだと想像が現実化してしまう危険性がある。ここは心を鬼にして、少年の意識を奪う他ないと判断する。
(人払いの術を施しておいて正解だったな。これなら少し暴れても問題はあるまい)
優先順位を少年の意識を奪うことに変えた朱衣は、一足飛びに少年へ近づこうと右足に力を込める――が、
「何っ!?」
突然少年が地面に手を触れると、眼前の土が盛り上がり朱衣の侵攻を防ぐ。
(これは《操土《そうど》の術》!? この子、まさか陰陽術を!?)
退魔士や陰陽師などが扱う術の一つに、土を自在に操作するものがある。しかしもちろん術を行使するには、相応の力量が求められる。こんな子供ができる術ではない。
刀で壁になっている土を斬ると、思った以上にあっさりと切断することができた。
(強度はほとんどない。まだ練度が足りないようだな。まあそれでも驚嘆ものではあるがな)
術を失敗することなく発現できただけで大したもの。本当にこの子は素晴らしい逸材である。だからこそ、ここで妖のせいでその命を散らすわけにはいかない。
「――逃げても分かるぞ!」
壁で視界を閉ざしている間に逃げる算段だったようだが、さすがにこの短時間では逃げ切れないようだ。すぐに視線を走っている少年へと向けつつ朱衣も駆け出す。
今度は背後からその背を掴もうと手を伸ばすが……直後に少年から霊力を感じ、咄嗟に懐からあるものを取り出し装着する。
同時に少年から眩い発光現象が起きるが、次に驚いたのは少年の方だった。
「ふふ、そう何度も同じ手は通じないぞ。これでも一応はプロなのでな」
現在朱衣の両眼にはサングラスがかけられていた。
「うっ……準備良過ぎでしょ」
少年は悔しそうに呟くが、内心で朱衣は脱帽していた。
恐らくここまでの流れが少年の策だったのだろう。あの土壁も破られることを前提での逃げ。そしてわざと背後をつかせ、近づいてきたところに光を発生させて相手の視界を奪う。単純ではあるが、これを子供が考え実行したとなると末恐ろしい。
「一級退魔士ならともかく、二級以下なら騙されていたろうな」
それほどまでに少年の策は見事であった。
「しかしこれで終わりだ」
疲れからか、尻もちをついている少年に向けて刀を突きつける。正確には、その腕に抱かれている妖にだ。
ただそれは少年を恐怖で硬直させるためだ。罪悪感があるが、もう逃げないように。その一瞬の隙をついて、今度こそ少年の背後をついて意識を奪う。
案の定、こちらの殺気に怯えた様子で震えて動けずにいる。
その一連の流れを実行しようとしたその時、不意に右側面から敵意を感じた。だがすでに時は遅く、その敵意によって生じた衝撃が腹部に走るとともに、朱衣はそこから弾き飛ばされてしまった。
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