19 / 28
18
しおりを挟む
先日、晴れて小学生となった悟円は今、自室のカーペットの上で瞑想していた。
悟円も小学校に上がり、琴乃も十歳という大台に乗ったということで、そろそろ二人それぞれの部屋を与えようと両親が決めた。
そこで元々物置部屋だったところを整理して、そこを悟円の自室として使用することになったのだ。琴乃は一緒がいいと駄々をこねていたが、例の如く母に一喝されて渋々認めたのである。とはいっても、しょっちゅう部屋にはやってくるが。
(……いい感じだ)
今何をしてるのかというと、いつもの日課である気の鍛錬である。
この二年間、できるだけ暇を見つけては、こうして鍛錬に励んでいた。そのお蔭で……。
スッと両手を顔辺りまで上げて、一定の距離を開けてそれぞれの掌を向かい合わせる。
すると全身から放出されていた気が、両手の間に集束していき球体を成していく。
(よし、次は……!)
球体をどんどん大きくしていき、次にそれを半分、また半分と分割していく。
悟円の周囲には、十数個にもなる気の塊が浮かぶ。
閉じていた瞼を開けて、視線をその先にあるテーブルの上に向けて「どうだ?」と問う。
「もうそこまで気を扱えるなんてスゴイよぉ、パパ~」
そこにはチョコンと置物のように赤い亀――メメがいた。可愛らしく短い足をばたつくかせている。
「まだまだ。次はこんなのはどうだ?」
開け放たれた窓の外へと顔を向け、その先に向かって右手を伸ばすと、浮かんでいた気の塊が弾丸となって次々と放たれていった。
「おぉ~、はや~い」
「そうだろ? 今なら石くらいだったら割ることもできるしな!」
最初はティッシュ箱を倒すだけだった気弾も、今や固い岩すら割るほどの威力へと跳ね上がって。これなら例えば変質者が現れても撃退できるし、野犬とかに襲われても対処に困らない。まあできればそういうのとは遭遇したくはないが。
「じゃあ次、ね」
今度も意識を自分の中に集中させていく。すると、ジワジワと全身から青白い靄のようなものが溢れ出てきた。
それを右手に集束し――。
「――ア・クア」
そう呟いた直後に、集束していた靄が水へと姿を変えた。その水がウネウネと生きているかのように畝っている。
「あとはこれを――――フ・リーズ」
今度は畝っていた水が時が止まったかのように停止し、なおかつ冷気を発し始めた。
今行ったのは魔法である。先ほどの青白い靄こそ魔力と呼ばれるエネルギーだ。
その初期魔法である魔力を媒介に水を生み出す水属性のアクアを使用し、さらに物質を凍結させる氷属性のフリーズを行使したのである。
一応全属性の八種を扱えるが、さすがに室内で火を扱うのは躊躇われた。魔法というのは魔力コントロールが重要になるが、もし扱い方を誤れば暴走して、必要以上の威力になったりするので注意が必要なのだ。
もし火属性の魔法が暴走したら、団地そのものが焼失しかねない。水も氷も暴走すると危険ではあるが、どちらかというと得意属性でもあったのでコントロールには自信があり、他の属性と比べても鍛錬量は多かった。
次に風や土属性も前世ではよく使っていたからか得意だ。ただ、基本的にどの属性も初期魔法しか使えないので、やれることはそう多くないが。
「じゃあ、メメ、コレ頼める?」
悟円の言葉に対し「はぁい」と返事をしたメメが口をパクッと開ける。すると悟円が生み出した氷が徐々に粒子化していき、それがメメの口内へと吸い込まれていく。
すべてが吸い込まれると、メメは満足そうな表情を見せる。
「んふぅ~、やっぱりパパの霊力はおいしいよぉ」
いろいろ出てきて混乱するかもしれないが、悟円が現在扱えるエネルギーの種類は四つ。
気・魔力・霊力・仙気。
そんなに使えるのかと驚くかもしれないが、気と仙気はほとんど同じであり、魔力と霊力も根幹は同じなのだ。
身体的エネルギーから抽出されるのが気と仙気で、精神的エネルギーが魔力と霊力なのだ。だから霊力を取り込む(食べる)ことができるメメは、魔力も変換してエネルギーにすることが可能らしい。
気を使い過ぎれば肉体的疲労を覚えるし、魔力や霊力は精神的に疲弊してしまう。全く別のものだから、それぞれを使い分けて鍛錬しなければ成長できないのだ。
他にもエネルギーの種類でいえばいろいろあるが、そのほとんどは気や魔力に分類されるものばかり。だからこの二つを鍛えれば、他のファンタジー能力も扱いやすくなる。
つまりは心と身体を鍛錬することが、膨大な知識を使いこなす早道だというわけである。
(にしてもまだ試してない術や技もあるけど、感覚的には全部使えそうなんだよなぁ。これってやっぱりこの世界が、前とは違うパラレルワールドだから……かな)
最初に気を使ってみて、実際に効果を発現できた時からそう感じていた。恐らく知識があろうが、前の世界では魔法や仙術などといったとんでもファンタジーな能力は使えなかった気がする。これも直感でしかないが、この世界だからこそ万能な素質を発揮できていると思うのだ。
(前の僕には何の才能もなかったけど皮肉だよな。まさか来世じゃ山ほどの才能を発揮できるなんて)
それもすべては女神が知識を与えてくれたお蔭なので感謝だ。
「ねぇねぇ、パパ~」
物思いに耽っていると、メメが声をかけてきた。
「ん? どうかした?」
「今日は外行かないのぉ? ボクは行きたいなぁ」
この頃、メメを連れて散歩に行くようになったが、余程気に入ったようで、こうして催促してくるのだ。
(まあボクが一人で外出が許されたのって最近だしな)
それまではメメもずっと家に閉じこもらざるを得なかった。だから外の世界を満喫できるのが楽しいのだろう。
幸い今日は日曜日ということもあり、まだ昼過ぎでもあるので散歩に行くにはちょうどいいかもしれない。
ちなみに父は友人とゴルフへ。琴乃は友達の家に遊びに行っている。母は家事が一段落して、リビングで昼ドラを観ながらティータイムを楽しんでいる。
「んじゃ、行くか」
そう言ってメメを手に乗せてやると、嬉しそうに「おぉ~」と右前足を上げた。
悟円も小学校に上がり、琴乃も十歳という大台に乗ったということで、そろそろ二人それぞれの部屋を与えようと両親が決めた。
そこで元々物置部屋だったところを整理して、そこを悟円の自室として使用することになったのだ。琴乃は一緒がいいと駄々をこねていたが、例の如く母に一喝されて渋々認めたのである。とはいっても、しょっちゅう部屋にはやってくるが。
(……いい感じだ)
今何をしてるのかというと、いつもの日課である気の鍛錬である。
この二年間、できるだけ暇を見つけては、こうして鍛錬に励んでいた。そのお蔭で……。
スッと両手を顔辺りまで上げて、一定の距離を開けてそれぞれの掌を向かい合わせる。
すると全身から放出されていた気が、両手の間に集束していき球体を成していく。
(よし、次は……!)
球体をどんどん大きくしていき、次にそれを半分、また半分と分割していく。
悟円の周囲には、十数個にもなる気の塊が浮かぶ。
閉じていた瞼を開けて、視線をその先にあるテーブルの上に向けて「どうだ?」と問う。
「もうそこまで気を扱えるなんてスゴイよぉ、パパ~」
そこにはチョコンと置物のように赤い亀――メメがいた。可愛らしく短い足をばたつくかせている。
「まだまだ。次はこんなのはどうだ?」
開け放たれた窓の外へと顔を向け、その先に向かって右手を伸ばすと、浮かんでいた気の塊が弾丸となって次々と放たれていった。
「おぉ~、はや~い」
「そうだろ? 今なら石くらいだったら割ることもできるしな!」
最初はティッシュ箱を倒すだけだった気弾も、今や固い岩すら割るほどの威力へと跳ね上がって。これなら例えば変質者が現れても撃退できるし、野犬とかに襲われても対処に困らない。まあできればそういうのとは遭遇したくはないが。
「じゃあ次、ね」
今度も意識を自分の中に集中させていく。すると、ジワジワと全身から青白い靄のようなものが溢れ出てきた。
それを右手に集束し――。
「――ア・クア」
そう呟いた直後に、集束していた靄が水へと姿を変えた。その水がウネウネと生きているかのように畝っている。
「あとはこれを――――フ・リーズ」
今度は畝っていた水が時が止まったかのように停止し、なおかつ冷気を発し始めた。
今行ったのは魔法である。先ほどの青白い靄こそ魔力と呼ばれるエネルギーだ。
その初期魔法である魔力を媒介に水を生み出す水属性のアクアを使用し、さらに物質を凍結させる氷属性のフリーズを行使したのである。
一応全属性の八種を扱えるが、さすがに室内で火を扱うのは躊躇われた。魔法というのは魔力コントロールが重要になるが、もし扱い方を誤れば暴走して、必要以上の威力になったりするので注意が必要なのだ。
もし火属性の魔法が暴走したら、団地そのものが焼失しかねない。水も氷も暴走すると危険ではあるが、どちらかというと得意属性でもあったのでコントロールには自信があり、他の属性と比べても鍛錬量は多かった。
次に風や土属性も前世ではよく使っていたからか得意だ。ただ、基本的にどの属性も初期魔法しか使えないので、やれることはそう多くないが。
「じゃあ、メメ、コレ頼める?」
悟円の言葉に対し「はぁい」と返事をしたメメが口をパクッと開ける。すると悟円が生み出した氷が徐々に粒子化していき、それがメメの口内へと吸い込まれていく。
すべてが吸い込まれると、メメは満足そうな表情を見せる。
「んふぅ~、やっぱりパパの霊力はおいしいよぉ」
いろいろ出てきて混乱するかもしれないが、悟円が現在扱えるエネルギーの種類は四つ。
気・魔力・霊力・仙気。
そんなに使えるのかと驚くかもしれないが、気と仙気はほとんど同じであり、魔力と霊力も根幹は同じなのだ。
身体的エネルギーから抽出されるのが気と仙気で、精神的エネルギーが魔力と霊力なのだ。だから霊力を取り込む(食べる)ことができるメメは、魔力も変換してエネルギーにすることが可能らしい。
気を使い過ぎれば肉体的疲労を覚えるし、魔力や霊力は精神的に疲弊してしまう。全く別のものだから、それぞれを使い分けて鍛錬しなければ成長できないのだ。
他にもエネルギーの種類でいえばいろいろあるが、そのほとんどは気や魔力に分類されるものばかり。だからこの二つを鍛えれば、他のファンタジー能力も扱いやすくなる。
つまりは心と身体を鍛錬することが、膨大な知識を使いこなす早道だというわけである。
(にしてもまだ試してない術や技もあるけど、感覚的には全部使えそうなんだよなぁ。これってやっぱりこの世界が、前とは違うパラレルワールドだから……かな)
最初に気を使ってみて、実際に効果を発現できた時からそう感じていた。恐らく知識があろうが、前の世界では魔法や仙術などといったとんでもファンタジーな能力は使えなかった気がする。これも直感でしかないが、この世界だからこそ万能な素質を発揮できていると思うのだ。
(前の僕には何の才能もなかったけど皮肉だよな。まさか来世じゃ山ほどの才能を発揮できるなんて)
それもすべては女神が知識を与えてくれたお蔭なので感謝だ。
「ねぇねぇ、パパ~」
物思いに耽っていると、メメが声をかけてきた。
「ん? どうかした?」
「今日は外行かないのぉ? ボクは行きたいなぁ」
この頃、メメを連れて散歩に行くようになったが、余程気に入ったようで、こうして催促してくるのだ。
(まあボクが一人で外出が許されたのって最近だしな)
それまではメメもずっと家に閉じこもらざるを得なかった。だから外の世界を満喫できるのが楽しいのだろう。
幸い今日は日曜日ということもあり、まだ昼過ぎでもあるので散歩に行くにはちょうどいいかもしれない。
ちなみに父は友人とゴルフへ。琴乃は友達の家に遊びに行っている。母は家事が一段落して、リビングで昼ドラを観ながらティータイムを楽しんでいる。
「んじゃ、行くか」
そう言ってメメを手に乗せてやると、嬉しそうに「おぉ~」と右前足を上げた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
42
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる