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「空絵ちゃん、このアニメ好き?」
「ん……かわいい」
「そっか。空絵ちゃんも、魔法があったら使ってみたい?」
「……たたかうのは……こわい」
確かに目の前で繰り広げられているのは戦闘シーンだ。魔法をバカスカ撃ち敵を葬る姿は、痛快ではあるが恐怖も覚える光景かもしれない。何せ可愛く描かれてはいるが、敵を傷つけたり殺しているわけだから。
「魔法は戦いで使うものばかりじゃないかもだよ」
「え……そうなの?」
「喉が渇いた時に水を出して飲んだり、暗い場所を明るくしたり、風で濡れたものを乾かしたり、そんな感じで普通の生活でも役に立つものだってあるかもよ」
実際悟円の前世が扱っていたのは、その程度の魔法である。そういえばと悟円は思う。
(どの前世の僕も、あまり戦いには積極的じゃなかったよなぁ)
もちろん目的のために戦う必要があれば戦うが、誰かと戦うのが楽しいとか、モンスターを狩るのが快感だとか、いわゆる戦闘好きな面を持つ人生ではなかった。
気の達人として生き最強を目指した前世も、両親との約束を叶えるためという目的があったからこそ、己を鍛えに鍛え戦闘に身を投じていった。もし約束がなければ、己を鍛えはしても誰かと戦いたいという思いは生まれなかっただろう。
つまりどちらかというと自分の魂の根源は平和主義なのである。
(だから魔法使いの時も支援とか回避とかにしか戦闘は使わなかったみたいだし。まあ僕もどっちかっていうとそっちの方がいいけど)
魔法は使いたいけれど、敵を殲滅したり地形を変えたりするような極大魔法などは必要ないし使いたいとも思わない。できれば生活が豊かになるような使い方をしたい。
(それにいろいろな分野に手を出してるし、広く浅くで問題ないよな)
現在悟円が習得している技術はそこそこある。
まずは〝気の扱い〟。これもまだ練度が低いが、気弾で中身の入ったペットボトルくらいなら倒せるようになった。あとは全身に気を巡らせ身体能力を向上することが可能。
次に〝仙術〟で、これは主に《念話術》だ。まだ始めたばかりなので、精々効果範囲は悟円を中心にして半径二十メートルほど。
他はファンタジー要素がない技術で、速読とか暗記法とか、そういう技術が高い前世の自分の知識を探って会得しておいた。こんな感じで便利なものは率先して学んでいる。
悟円としては、一つのことを極めるよりも、様々な技術を手にしたいのだ。その方がより魂の知識を活用できるし、何よりも学んでいて楽しい。
それにこの膨大な知識を利用して、新たな技術なども開発してみたい。これだけの知識量があればそれも可能だと思うし、いろいろできた方が面白い。
きっと自分は戦う者というよりは、研究者とか開発者というタイプなのだろう。
今、悟円は感じたことのないような高揚感や充実感を覚えている。人生がこんなにもワクワクするものだと思ったことなどなかったから。
だから今度の人生では精一杯楽しむことに決めているし、それを邪魔する存在がいたら最悪排除する覚悟も持っている。
たとえまた理不尽が襲ってきても、どうとでも対処できるように万能な技術で乗り越えようと思っているのだ。
「あ……おわった」
不意に声を漏らしたのは空絵で、彼女の言うようにアニメのエンディング曲が終わったようだ。次回予告では、新しい仲間が現れる雰囲気を醸し出していて、なかなかに熱い展開が待っているらしい。
するとタイミングよくインターホンが鳴り、佳菜絵が確認しに行くと、玄関の方から「ごーちゃん、迎えにきたよ~」と母の声が響いた。
悟円は空絵と佳菜絵に礼と別れの挨拶を告げて、隣にある自分たちの部屋へと戻る。どうやらすでに琴乃は帰ってきていたようで、悟円の姿を見るとすぐに抱き着いてきた。
いつも思うが、愛されているのは嬉しいのだけれど、姉はちゃんといつかは弟離れできるのかと心配になってしまう。
本日は父は同僚と飲み会らしく、久々の三人での食事となった。そこではお喋り好きな琴乃の独演会よろしく、ただ悟円と母は耳を傾けているだけ。
どうやら同じクラスの男の子に悪戯されたらしく憤慨している。聞けば可愛らしい悪戯ばかりで、どう考えても琴乃の気を引きたい少年の行為だった。
それを理解しているのか、母はニヤニヤしながら聞き流している。絶対に楽しんでいるだろう。
かくいう悟円も、少年の気持ちには気づいているが、わざわざネタばらしするつもりはない。
(けど、琴姉ちゃんってモテるんだなぁ。まあ、見た目は確かに可愛いし)
美人の母の遺伝子を濃く受け継いでいるので当然と言えば当然だが。
「あーんな男の子なんていつかバチが当たるんだから! まあ別に、あたしにはごっくんがいるからどんだけ悪戯されてもだいじょーぶだけどねー」
そう言いながらウィンクを放ってくる。そういう仕草も堂に入っていて、ドキッとする男の子もいるだろう。きっとその悪戯少年も、その仕草に落ちた口だろう。可哀そうに。
悟円は心の中で、きっとその想いが届かない気の毒な少年に対し合掌しておいた。
夕食のあとは、最近話題のバラエティを琴乃と一緒にリビングで観ていると、しばらくして父が帰ってきた。
先に風呂に入ると父は言い、ついでだからと悟円と琴乃も一緒に入ることになった。
そこそこ大きな浴槽ということもあって、三人一緒に入ってもちょっと窮屈かなという程度で済んでいる。
「……琴姉ちゃん、くっつき過ぎじゃない?」
「いいじゃーん! はぁ~、ごっくんは柔らかくて気持ちいいよねぇ」
ギュッと抱きしめながらスリスリしてくる。
さすがにこの歳で、しかも姉相手に欲情はいないが、父に見られている状況なので気恥ずかしさはある。ただ止めてといっても聞かないことは分かっているので彼女が満足するまで好きにさせているが。
「はははー、琴乃、お父さんのここも空いてるぞ?」
そう言いながら父は両腕を広げるが、
「そういうのはお母さんにしたげたら?」
正論であり冷たい発言だった。その証拠に父はショックを受けたようで固まってしまっている。可哀そうに。
本当にこの姉は男心が分かっていない。まあ女心が分からない自分が言うことではないと思うが。
悟円は湯の温もりに肌を赤くしながらふぅっと息を吐く。
こんなふうに家族で風呂に入るのは普通の光景だろう。ただ前世ではできなかったこと。
だからか、何でもないようなこの生活に心が豊かになっていくのを感じる。
(これが幸せってやつなのかも……)
無意識に頬が緩む。同時に、この生活をずっと守っていきたいと思えた。
この生活をくれた女神に対し改めて感謝する。
そしてこの幸せがずっと続けばいいと心の底から願った。
「ん……かわいい」
「そっか。空絵ちゃんも、魔法があったら使ってみたい?」
「……たたかうのは……こわい」
確かに目の前で繰り広げられているのは戦闘シーンだ。魔法をバカスカ撃ち敵を葬る姿は、痛快ではあるが恐怖も覚える光景かもしれない。何せ可愛く描かれてはいるが、敵を傷つけたり殺しているわけだから。
「魔法は戦いで使うものばかりじゃないかもだよ」
「え……そうなの?」
「喉が渇いた時に水を出して飲んだり、暗い場所を明るくしたり、風で濡れたものを乾かしたり、そんな感じで普通の生活でも役に立つものだってあるかもよ」
実際悟円の前世が扱っていたのは、その程度の魔法である。そういえばと悟円は思う。
(どの前世の僕も、あまり戦いには積極的じゃなかったよなぁ)
もちろん目的のために戦う必要があれば戦うが、誰かと戦うのが楽しいとか、モンスターを狩るのが快感だとか、いわゆる戦闘好きな面を持つ人生ではなかった。
気の達人として生き最強を目指した前世も、両親との約束を叶えるためという目的があったからこそ、己を鍛えに鍛え戦闘に身を投じていった。もし約束がなければ、己を鍛えはしても誰かと戦いたいという思いは生まれなかっただろう。
つまりどちらかというと自分の魂の根源は平和主義なのである。
(だから魔法使いの時も支援とか回避とかにしか戦闘は使わなかったみたいだし。まあ僕もどっちかっていうとそっちの方がいいけど)
魔法は使いたいけれど、敵を殲滅したり地形を変えたりするような極大魔法などは必要ないし使いたいとも思わない。できれば生活が豊かになるような使い方をしたい。
(それにいろいろな分野に手を出してるし、広く浅くで問題ないよな)
現在悟円が習得している技術はそこそこある。
まずは〝気の扱い〟。これもまだ練度が低いが、気弾で中身の入ったペットボトルくらいなら倒せるようになった。あとは全身に気を巡らせ身体能力を向上することが可能。
次に〝仙術〟で、これは主に《念話術》だ。まだ始めたばかりなので、精々効果範囲は悟円を中心にして半径二十メートルほど。
他はファンタジー要素がない技術で、速読とか暗記法とか、そういう技術が高い前世の自分の知識を探って会得しておいた。こんな感じで便利なものは率先して学んでいる。
悟円としては、一つのことを極めるよりも、様々な技術を手にしたいのだ。その方がより魂の知識を活用できるし、何よりも学んでいて楽しい。
それにこの膨大な知識を利用して、新たな技術なども開発してみたい。これだけの知識量があればそれも可能だと思うし、いろいろできた方が面白い。
きっと自分は戦う者というよりは、研究者とか開発者というタイプなのだろう。
今、悟円は感じたことのないような高揚感や充実感を覚えている。人生がこんなにもワクワクするものだと思ったことなどなかったから。
だから今度の人生では精一杯楽しむことに決めているし、それを邪魔する存在がいたら最悪排除する覚悟も持っている。
たとえまた理不尽が襲ってきても、どうとでも対処できるように万能な技術で乗り越えようと思っているのだ。
「あ……おわった」
不意に声を漏らしたのは空絵で、彼女の言うようにアニメのエンディング曲が終わったようだ。次回予告では、新しい仲間が現れる雰囲気を醸し出していて、なかなかに熱い展開が待っているらしい。
するとタイミングよくインターホンが鳴り、佳菜絵が確認しに行くと、玄関の方から「ごーちゃん、迎えにきたよ~」と母の声が響いた。
悟円は空絵と佳菜絵に礼と別れの挨拶を告げて、隣にある自分たちの部屋へと戻る。どうやらすでに琴乃は帰ってきていたようで、悟円の姿を見るとすぐに抱き着いてきた。
いつも思うが、愛されているのは嬉しいのだけれど、姉はちゃんといつかは弟離れできるのかと心配になってしまう。
本日は父は同僚と飲み会らしく、久々の三人での食事となった。そこではお喋り好きな琴乃の独演会よろしく、ただ悟円と母は耳を傾けているだけ。
どうやら同じクラスの男の子に悪戯されたらしく憤慨している。聞けば可愛らしい悪戯ばかりで、どう考えても琴乃の気を引きたい少年の行為だった。
それを理解しているのか、母はニヤニヤしながら聞き流している。絶対に楽しんでいるだろう。
かくいう悟円も、少年の気持ちには気づいているが、わざわざネタばらしするつもりはない。
(けど、琴姉ちゃんってモテるんだなぁ。まあ、見た目は確かに可愛いし)
美人の母の遺伝子を濃く受け継いでいるので当然と言えば当然だが。
「あーんな男の子なんていつかバチが当たるんだから! まあ別に、あたしにはごっくんがいるからどんだけ悪戯されてもだいじょーぶだけどねー」
そう言いながらウィンクを放ってくる。そういう仕草も堂に入っていて、ドキッとする男の子もいるだろう。きっとその悪戯少年も、その仕草に落ちた口だろう。可哀そうに。
悟円は心の中で、きっとその想いが届かない気の毒な少年に対し合掌しておいた。
夕食のあとは、最近話題のバラエティを琴乃と一緒にリビングで観ていると、しばらくして父が帰ってきた。
先に風呂に入ると父は言い、ついでだからと悟円と琴乃も一緒に入ることになった。
そこそこ大きな浴槽ということもあって、三人一緒に入ってもちょっと窮屈かなという程度で済んでいる。
「……琴姉ちゃん、くっつき過ぎじゃない?」
「いいじゃーん! はぁ~、ごっくんは柔らかくて気持ちいいよねぇ」
ギュッと抱きしめながらスリスリしてくる。
さすがにこの歳で、しかも姉相手に欲情はいないが、父に見られている状況なので気恥ずかしさはある。ただ止めてといっても聞かないことは分かっているので彼女が満足するまで好きにさせているが。
「はははー、琴乃、お父さんのここも空いてるぞ?」
そう言いながら父は両腕を広げるが、
「そういうのはお母さんにしたげたら?」
正論であり冷たい発言だった。その証拠に父はショックを受けたようで固まってしまっている。可哀そうに。
本当にこの姉は男心が分かっていない。まあ女心が分からない自分が言うことではないと思うが。
悟円は湯の温もりに肌を赤くしながらふぅっと息を吐く。
こんなふうに家族で風呂に入るのは普通の光景だろう。ただ前世ではできなかったこと。
だからか、何でもないようなこの生活に心が豊かになっていくのを感じる。
(これが幸せってやつなのかも……)
無意識に頬が緩む。同時に、この生活をずっと守っていきたいと思えた。
この生活をくれた女神に対し改めて感謝する。
そしてこの幸せがずっと続けばいいと心の底から願った。
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