11 / 28
10
しおりを挟む
神社の敷地内を声がする方へ向かっていると、どんどんその声が大きくなっていく。
まるで自分はここにいる。早く来てと急かすかのような声。
そこは木々が密集している中であり、恐らく立ち入る人はそういない場所。どことなく神秘的な空気感も漂っている。すると小さな泉が視界に入り。その奥に何かを祀っているような祠があった。
どうやらその祠から声がしているようだ。
「ま、まさか幽霊とかじゃ……」
ただ何となくだが悪いものではないような気がする。その声からは無邪気さのような……まるで赤子が母を呼んでいる感じが伝わってきた。
ゆっくりと近づき、悪いと思いつつも、その木製の祠の小さな観音開きの戸に手で触れた。正確には、戸を閉めつけるように巻かれている注連縄のような紐にだ。すると紐が音を立てて切れ落ちてしまい、閉じられていた戸がひとりでに開いた。その中には――。
「…………数珠?」
確かにそこには緋色の玉で繋ぎ合わされた数珠が置かれていた。
ほぼ無意識にその数珠を手に取ってジッと観察する。よく見れば模様が描かれてあり、それは陰陽を表す太極図のようだった。
――――――待ってたよ!
その時、数珠から今度はハッキリ聞こえる言葉が発せられた。それと同時に数珠が眩く輝いたと思ったら、ボボンッとまるで忍者が変化する時のような現象が起きた。
そして手に乗せていた数珠は、思いもよらない姿へと変わっていた。
「……………………え?」
目を丸くしながら、悟円の小さな手にチョコンと乗っているソレを見つめる。
「……亀……だよな?」
そう、そこにいたのはまさしく亀そのもの。ただ自分が知っている亀よりも大分小さく、全体が緋色という見たこともない色を備えていたが。
すると甲羅の中から伸び出ている長い首がキョロキョロと周囲を見回し、その愛らしい眼差しが悟円を捉えると嬉しいそうに笑い、
「――――おはよぉ、パパ~」
挨拶とともに愕然とするようなことを口にしたのである。
「うおわぁ!?」
当然喋ったことで驚き、悟円は思わず尻もちをついてしまった。
亀も手から離れて、そのまま地面に転がってしまう。
「んもぉ、落とすなんてひどいよぉ」
亀が不機嫌ですと言わんばかりの声音で言ってくる。
「か、亀が……喋ってる……?」
「そりゃ喋るよぉ。だってボクは『霊亀』なんだしさぁ」
「れ、れいきぃ?」
いや、そんなことよりもこれは一体どういう状況なのだろうか。確かに自分は祠にあった数珠を手に持っていたはず。それがいつの間にか亀へと姿を変え、さらにはその亀は流暢に喋っている。何が何だから分からない。
「ふわぁ~。まだ起きたばかりで眠いやぁ。ねえパパ、もう少し寝てていい?」
「…………」
「? ねえ、パパ? ねえったら!」
「!? え、えと何?」
あまりのことで思考が止まっていた。
「だーかーらー、もうちょっと寝てていい?」
「は? ……い、いいんじゃないかな?」
「やったー。じゃあおやすみぃ~」
そう言うと、またも亀が輝いたと思ったら、その光が今度は悟円の右手首へと向かってきた。もちろんそれにビックリするが、すぐに光は収まり、気づけば数珠へと変わっていた。
「……ど、どういうこと?」
まだ脳内の整理が追いつかずに呆然としていると、
「――ごーちゃぁぁん、どこに行ったのぉ!」
遠くの方から母が呼ぶ声が聞こえてきてハッとなる。
「! と、とりあえず戻らないと!」
慌てて立ち上がると、急いでその場を後にした。
まるで自分はここにいる。早く来てと急かすかのような声。
そこは木々が密集している中であり、恐らく立ち入る人はそういない場所。どことなく神秘的な空気感も漂っている。すると小さな泉が視界に入り。その奥に何かを祀っているような祠があった。
どうやらその祠から声がしているようだ。
「ま、まさか幽霊とかじゃ……」
ただ何となくだが悪いものではないような気がする。その声からは無邪気さのような……まるで赤子が母を呼んでいる感じが伝わってきた。
ゆっくりと近づき、悪いと思いつつも、その木製の祠の小さな観音開きの戸に手で触れた。正確には、戸を閉めつけるように巻かれている注連縄のような紐にだ。すると紐が音を立てて切れ落ちてしまい、閉じられていた戸がひとりでに開いた。その中には――。
「…………数珠?」
確かにそこには緋色の玉で繋ぎ合わされた数珠が置かれていた。
ほぼ無意識にその数珠を手に取ってジッと観察する。よく見れば模様が描かれてあり、それは陰陽を表す太極図のようだった。
――――――待ってたよ!
その時、数珠から今度はハッキリ聞こえる言葉が発せられた。それと同時に数珠が眩く輝いたと思ったら、ボボンッとまるで忍者が変化する時のような現象が起きた。
そして手に乗せていた数珠は、思いもよらない姿へと変わっていた。
「……………………え?」
目を丸くしながら、悟円の小さな手にチョコンと乗っているソレを見つめる。
「……亀……だよな?」
そう、そこにいたのはまさしく亀そのもの。ただ自分が知っている亀よりも大分小さく、全体が緋色という見たこともない色を備えていたが。
すると甲羅の中から伸び出ている長い首がキョロキョロと周囲を見回し、その愛らしい眼差しが悟円を捉えると嬉しいそうに笑い、
「――――おはよぉ、パパ~」
挨拶とともに愕然とするようなことを口にしたのである。
「うおわぁ!?」
当然喋ったことで驚き、悟円は思わず尻もちをついてしまった。
亀も手から離れて、そのまま地面に転がってしまう。
「んもぉ、落とすなんてひどいよぉ」
亀が不機嫌ですと言わんばかりの声音で言ってくる。
「か、亀が……喋ってる……?」
「そりゃ喋るよぉ。だってボクは『霊亀』なんだしさぁ」
「れ、れいきぃ?」
いや、そんなことよりもこれは一体どういう状況なのだろうか。確かに自分は祠にあった数珠を手に持っていたはず。それがいつの間にか亀へと姿を変え、さらにはその亀は流暢に喋っている。何が何だから分からない。
「ふわぁ~。まだ起きたばかりで眠いやぁ。ねえパパ、もう少し寝てていい?」
「…………」
「? ねえ、パパ? ねえったら!」
「!? え、えと何?」
あまりのことで思考が止まっていた。
「だーかーらー、もうちょっと寝てていい?」
「は? ……い、いいんじゃないかな?」
「やったー。じゃあおやすみぃ~」
そう言うと、またも亀が輝いたと思ったら、その光が今度は悟円の右手首へと向かってきた。もちろんそれにビックリするが、すぐに光は収まり、気づけば数珠へと変わっていた。
「……ど、どういうこと?」
まだ脳内の整理が追いつかずに呆然としていると、
「――ごーちゃぁぁん、どこに行ったのぉ!」
遠くの方から母が呼ぶ声が聞こえてきてハッとなる。
「! と、とりあえず戻らないと!」
慌てて立ち上がると、急いでその場を後にした。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~
十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。
ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww
刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。
さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。
という感じの話です。
草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。
小説の書き方あんまり分かってません。
表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる