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神社の敷地内を声がする方へ向かっていると、どんどんその声が大きくなっていく。
まるで自分はここにいる。早く来てと急かすかのような声。
そこは木々が密集している中であり、恐らく立ち入る人はそういない場所。どことなく神秘的な空気感も漂っている。すると小さな泉が視界に入り。その奥に何かを祀っているような祠があった。
どうやらその祠から声がしているようだ。
「ま、まさか幽霊とかじゃ……」
ただ何となくだが悪いものではないような気がする。その声からは無邪気さのような……まるで赤子が母を呼んでいる感じが伝わってきた。
ゆっくりと近づき、悪いと思いつつも、その木製の祠の小さな観音開きの戸に手で触れた。正確には、戸を閉めつけるように巻かれている注連縄のような紐にだ。すると紐が音を立てて切れ落ちてしまい、閉じられていた戸がひとりでに開いた。その中には――。
「…………数珠?」
確かにそこには緋色の玉で繋ぎ合わされた数珠が置かれていた。
ほぼ無意識にその数珠を手に取ってジッと観察する。よく見れば模様が描かれてあり、それは陰陽を表す太極図のようだった。
――――――待ってたよ!
その時、数珠から今度はハッキリ聞こえる言葉が発せられた。それと同時に数珠が眩く輝いたと思ったら、ボボンッとまるで忍者が変化する時のような現象が起きた。
そして手に乗せていた数珠は、思いもよらない姿へと変わっていた。
「……………………え?」
目を丸くしながら、悟円の小さな手にチョコンと乗っているソレを見つめる。
「……亀……だよな?」
そう、そこにいたのはまさしく亀そのもの。ただ自分が知っている亀よりも大分小さく、全体が緋色という見たこともない色を備えていたが。
すると甲羅の中から伸び出ている長い首がキョロキョロと周囲を見回し、その愛らしい眼差しが悟円を捉えると嬉しいそうに笑い、
「――――おはよぉ、パパ~」
挨拶とともに愕然とするようなことを口にしたのである。
「うおわぁ!?」
当然喋ったことで驚き、悟円は思わず尻もちをついてしまった。
亀も手から離れて、そのまま地面に転がってしまう。
「んもぉ、落とすなんてひどいよぉ」
亀が不機嫌ですと言わんばかりの声音で言ってくる。
「か、亀が……喋ってる……?」
「そりゃ喋るよぉ。だってボクは『霊亀』なんだしさぁ」
「れ、れいきぃ?」
いや、そんなことよりもこれは一体どういう状況なのだろうか。確かに自分は祠にあった数珠を手に持っていたはず。それがいつの間にか亀へと姿を変え、さらにはその亀は流暢に喋っている。何が何だから分からない。
「ふわぁ~。まだ起きたばかりで眠いやぁ。ねえパパ、もう少し寝てていい?」
「…………」
「? ねえ、パパ? ねえったら!」
「!? え、えと何?」
あまりのことで思考が止まっていた。
「だーかーらー、もうちょっと寝てていい?」
「は? ……い、いいんじゃないかな?」
「やったー。じゃあおやすみぃ~」
そう言うと、またも亀が輝いたと思ったら、その光が今度は悟円の右手首へと向かってきた。もちろんそれにビックリするが、すぐに光は収まり、気づけば数珠へと変わっていた。
「……ど、どういうこと?」
まだ脳内の整理が追いつかずに呆然としていると、
「――ごーちゃぁぁん、どこに行ったのぉ!」
遠くの方から母が呼ぶ声が聞こえてきてハッとなる。
「! と、とりあえず戻らないと!」
慌てて立ち上がると、急いでその場を後にした。
まるで自分はここにいる。早く来てと急かすかのような声。
そこは木々が密集している中であり、恐らく立ち入る人はそういない場所。どことなく神秘的な空気感も漂っている。すると小さな泉が視界に入り。その奥に何かを祀っているような祠があった。
どうやらその祠から声がしているようだ。
「ま、まさか幽霊とかじゃ……」
ただ何となくだが悪いものではないような気がする。その声からは無邪気さのような……まるで赤子が母を呼んでいる感じが伝わってきた。
ゆっくりと近づき、悪いと思いつつも、その木製の祠の小さな観音開きの戸に手で触れた。正確には、戸を閉めつけるように巻かれている注連縄のような紐にだ。すると紐が音を立てて切れ落ちてしまい、閉じられていた戸がひとりでに開いた。その中には――。
「…………数珠?」
確かにそこには緋色の玉で繋ぎ合わされた数珠が置かれていた。
ほぼ無意識にその数珠を手に取ってジッと観察する。よく見れば模様が描かれてあり、それは陰陽を表す太極図のようだった。
――――――待ってたよ!
その時、数珠から今度はハッキリ聞こえる言葉が発せられた。それと同時に数珠が眩く輝いたと思ったら、ボボンッとまるで忍者が変化する時のような現象が起きた。
そして手に乗せていた数珠は、思いもよらない姿へと変わっていた。
「……………………え?」
目を丸くしながら、悟円の小さな手にチョコンと乗っているソレを見つめる。
「……亀……だよな?」
そう、そこにいたのはまさしく亀そのもの。ただ自分が知っている亀よりも大分小さく、全体が緋色という見たこともない色を備えていたが。
すると甲羅の中から伸び出ている長い首がキョロキョロと周囲を見回し、その愛らしい眼差しが悟円を捉えると嬉しいそうに笑い、
「――――おはよぉ、パパ~」
挨拶とともに愕然とするようなことを口にしたのである。
「うおわぁ!?」
当然喋ったことで驚き、悟円は思わず尻もちをついてしまった。
亀も手から離れて、そのまま地面に転がってしまう。
「んもぉ、落とすなんてひどいよぉ」
亀が不機嫌ですと言わんばかりの声音で言ってくる。
「か、亀が……喋ってる……?」
「そりゃ喋るよぉ。だってボクは『霊亀』なんだしさぁ」
「れ、れいきぃ?」
いや、そんなことよりもこれは一体どういう状況なのだろうか。確かに自分は祠にあった数珠を手に持っていたはず。それがいつの間にか亀へと姿を変え、さらにはその亀は流暢に喋っている。何が何だから分からない。
「ふわぁ~。まだ起きたばかりで眠いやぁ。ねえパパ、もう少し寝てていい?」
「…………」
「? ねえ、パパ? ねえったら!」
「!? え、えと何?」
あまりのことで思考が止まっていた。
「だーかーらー、もうちょっと寝てていい?」
「は? ……い、いいんじゃないかな?」
「やったー。じゃあおやすみぃ~」
そう言うと、またも亀が輝いたと思ったら、その光が今度は悟円の右手首へと向かってきた。もちろんそれにビックリするが、すぐに光は収まり、気づけば数珠へと変わっていた。
「……ど、どういうこと?」
まだ脳内の整理が追いつかずに呆然としていると、
「――ごーちゃぁぁん、どこに行ったのぉ!」
遠くの方から母が呼ぶ声が聞こえてきてハッとなる。
「! と、とりあえず戻らないと!」
慌てて立ち上がると、急いでその場を後にした。
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