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「ねえ僕、もしかして迷子なのかな?」
「いいえ、お母さんたちと来ました。あっちでだらけてます」
少し遠目にあるベンチを指差し、そちらに視線を向けた少女は「なるほど」と納得顔を見せた。
「そうなんだ。いきなりごめんね。迷子だったら大変って思ったから」
こんな五歳児に素直に謝ることができるなんて、この子は間違いなく良い子だろう。
それにしてもよく見ると、なかなかの美少女だった。髪型こそ古めかしいおかっぱではあるが、目鼻立ちがハッキリしていて愛らしい。きっと大人になると男が放っておかない美女になると思われた。
「あの、お姉さんは巫女さんですよね?」
「うん、そうだよ。私は亀泉玄子。この神社に住んでるんだよ」
どうやらバイトというわけでなく、本物の巫女の血筋だったようだ。
「僕は万堂悟円っていいます。よろしくお願いします、亀泉さん」
「わぁ、君って五歳くらいだよね? すっごく礼儀正しいね!」
それはもう、精神的には大人だから。
「あ、でも私にはもっと気軽に話してくれていいよ! 何か君みたいな子供に敬語を使われるのはちょっと変な感じだし。だから私のことも玄子でいいし」
まあ確かに五歳児で敬語が達者なのは違和感でしかないだろう。
「えっと、じゃあ分かった。よろしくね、玄子さん」
「玄子さんかぁ……まあそれでいっか」
「えと、ところで玄子さん、ここらへんを見て回ってもいい?」
一応許可を得ておこうと尋ねてみた。
「探検? うんうん、分かるなー。私も小さい頃、よくしたもんなぁ。あ、でももう夕方だし、一人じゃ危ないよ? 良かったら私がついてってあげよっか?」
「いいの?」
「いいよいいよ。参拝のお客さんを案内するのも私の仕事だしね」
せっかくの厚意だから、「じゃあお願いします」と頭を下げると、玄子は嬉しそうに笑いながら神社の説明をしてくれた。
「この神社はね、遥か昔に大災害から日本を救ってくれたとされてるおっきな亀さんを祀ってるんだよ」
胸を張るかのようににこやかだ。
(大きな亀? 大災害? 日本を救う?)
そんな伝説、日本にあったかなと思いつつも話の続きを聞いていく。
「それから人々はその亀さんを〝亀様〟と呼んでここに神社まで建てたんだよね」
亀様……何となく神様とニュアンスが似ている。偶然だろうか。
「大災害って何?」
「うーん、何でも大昔にこの日本で天変地異が起こったんだって。大津波とか大地震とか竜巻とかあちこちで起きたらしいんだよ。それで、それを鎮めたのが亀様なんだって。まあ私もあまり詳しくは知らないんだけどね、えへ」
神社の娘なのにそれでいいのかと思うが、そういう逸話があるというのはそのまま事実ではなくとも、それらしい過去があったのだろうと推測はできる。
この日本だってずっと平和が続いているわけではない。過去にもそれこそ津波や地震、台風や飢饉などに見舞われたことだってあるだろう。
その度に人々は苦難に負けずに戦ってきた。そしてその中で、救いのきっかけになったり、皆の気持ちが向かった先にあったものが、亀に関することだったのかもしれない。そういう経緯があって、亀は縁起が良い生き物だということで祀っていることも考えられる。
とはいうものの、悟円も神社仏閣に詳しいわけではないので、信仰の対象が人であろうが神であろうが動物であろうが別に思うことはないが。
(まあここが地球で、日本という場所なのは確かだけど、そのまま僕が前にいた世界とまったく一緒って確証はないしね)
女神が言っていたのは世界は無数に存在し、一つとして同じ世界はないらしいから。だからここも地球とはいえパラレルワールドであることは確かなのだろう。
(だから本当に亀が日本を救ったのかもしれないけど……なんてね)
さすがにそんなファンタジーなことはないだろうと思っていると、不意にどこかから声のようなものが聞こえた。
(ん? この声……確かさっきも……?)
それはこの神社に来る前のことだ。どこか自分を呼ぶような声が聞こえたのである。
気のせいかとも思ったが、また聞こえてきたので不可思議に思う。
「それでね……ん? どうかした? もしかしてお話が難しかったかな?」
「え? あ、えと……トイレってどこにあるの?」
「お客さん用のならあっちの方にあるけど……案内しようか?」
「一人で大丈夫。じゃあちょっと行ってくる」
何となく一人の方が良いような気がして、声がする方角へ目掛けて走り出した。
「いいえ、お母さんたちと来ました。あっちでだらけてます」
少し遠目にあるベンチを指差し、そちらに視線を向けた少女は「なるほど」と納得顔を見せた。
「そうなんだ。いきなりごめんね。迷子だったら大変って思ったから」
こんな五歳児に素直に謝ることができるなんて、この子は間違いなく良い子だろう。
それにしてもよく見ると、なかなかの美少女だった。髪型こそ古めかしいおかっぱではあるが、目鼻立ちがハッキリしていて愛らしい。きっと大人になると男が放っておかない美女になると思われた。
「あの、お姉さんは巫女さんですよね?」
「うん、そうだよ。私は亀泉玄子。この神社に住んでるんだよ」
どうやらバイトというわけでなく、本物の巫女の血筋だったようだ。
「僕は万堂悟円っていいます。よろしくお願いします、亀泉さん」
「わぁ、君って五歳くらいだよね? すっごく礼儀正しいね!」
それはもう、精神的には大人だから。
「あ、でも私にはもっと気軽に話してくれていいよ! 何か君みたいな子供に敬語を使われるのはちょっと変な感じだし。だから私のことも玄子でいいし」
まあ確かに五歳児で敬語が達者なのは違和感でしかないだろう。
「えっと、じゃあ分かった。よろしくね、玄子さん」
「玄子さんかぁ……まあそれでいっか」
「えと、ところで玄子さん、ここらへんを見て回ってもいい?」
一応許可を得ておこうと尋ねてみた。
「探検? うんうん、分かるなー。私も小さい頃、よくしたもんなぁ。あ、でももう夕方だし、一人じゃ危ないよ? 良かったら私がついてってあげよっか?」
「いいの?」
「いいよいいよ。参拝のお客さんを案内するのも私の仕事だしね」
せっかくの厚意だから、「じゃあお願いします」と頭を下げると、玄子は嬉しそうに笑いながら神社の説明をしてくれた。
「この神社はね、遥か昔に大災害から日本を救ってくれたとされてるおっきな亀さんを祀ってるんだよ」
胸を張るかのようににこやかだ。
(大きな亀? 大災害? 日本を救う?)
そんな伝説、日本にあったかなと思いつつも話の続きを聞いていく。
「それから人々はその亀さんを〝亀様〟と呼んでここに神社まで建てたんだよね」
亀様……何となく神様とニュアンスが似ている。偶然だろうか。
「大災害って何?」
「うーん、何でも大昔にこの日本で天変地異が起こったんだって。大津波とか大地震とか竜巻とかあちこちで起きたらしいんだよ。それで、それを鎮めたのが亀様なんだって。まあ私もあまり詳しくは知らないんだけどね、えへ」
神社の娘なのにそれでいいのかと思うが、そういう逸話があるというのはそのまま事実ではなくとも、それらしい過去があったのだろうと推測はできる。
この日本だってずっと平和が続いているわけではない。過去にもそれこそ津波や地震、台風や飢饉などに見舞われたことだってあるだろう。
その度に人々は苦難に負けずに戦ってきた。そしてその中で、救いのきっかけになったり、皆の気持ちが向かった先にあったものが、亀に関することだったのかもしれない。そういう経緯があって、亀は縁起が良い生き物だということで祀っていることも考えられる。
とはいうものの、悟円も神社仏閣に詳しいわけではないので、信仰の対象が人であろうが神であろうが動物であろうが別に思うことはないが。
(まあここが地球で、日本という場所なのは確かだけど、そのまま僕が前にいた世界とまったく一緒って確証はないしね)
女神が言っていたのは世界は無数に存在し、一つとして同じ世界はないらしいから。だからここも地球とはいえパラレルワールドであることは確かなのだろう。
(だから本当に亀が日本を救ったのかもしれないけど……なんてね)
さすがにそんなファンタジーなことはないだろうと思っていると、不意にどこかから声のようなものが聞こえた。
(ん? この声……確かさっきも……?)
それはこの神社に来る前のことだ。どこか自分を呼ぶような声が聞こえたのである。
気のせいかとも思ったが、また聞こえてきたので不可思議に思う。
「それでね……ん? どうかした? もしかしてお話が難しかったかな?」
「え? あ、えと……トイレってどこにあるの?」
「お客さん用のならあっちの方にあるけど……案内しようか?」
「一人で大丈夫。じゃあちょっと行ってくる」
何となく一人の方が良いような気がして、声がする方角へ目掛けて走り出した。
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