オカルトな現代への転生ライフ ~神様からあらゆる前世の知識をもらえました~

十本スイ

文字の大きさ
上 下
6 / 28

しおりを挟む
 超久しぶり過ぎる幼稚園での一日は、何ら特筆するようなことはなく淡々と過ぎていき、あっという間に母が迎えに来る時間帯となった。
 前世の経験から、少しだけ親が迎えに来ない状況に不安を覚えたものの、そんなことはなく何ならどの親よりも早く顔を見せてくれた。

「お待たせ―、ごーちゃん!」

 満面の笑みで手を振りながら部屋の中へと入ってきた母の姿を見て、自然と喜びが込み上げてくる。思わず感情の赴くままに抱き着きそうになるが、やはり気恥ずかしさが勝ってしまい、ちょっと照れた感じで「う、うん」と頷いて答えた。
 また母は一人ではなく、同年代の女性と一緒だった。

「朝は会えなくて残念だったわね、悟円」

 クールな眼差しで微笑を浮かべながら言ってきた女性こそ――。

「……ママ」
「迎えに来たわよ、空絵」

 そう、空絵の母親――愛原花菜絵かなえだ。凛とした佇まいで、男より女にモテるようなキャリアウーマンっぽい人である。何でも若い頃はスポーツ少女だったらしく、柔道や空手など激しい競技で優勝経験も持っているらしい。

 そんなカッコいいママの登場に、空絵はトテトテと早足で向かうと、そのままギュッと手を掴んだ。可愛らしい娘の態度に、花菜絵もまた嬉しそうにその頭を撫でつける。

 その後は、帰宅の準備を悟円と空絵がしている間、母親たちはというと、少しだけ先生に呼ばれて話していた。何やら若干驚いた様子でこちらをチラチラ見ているが、一体何の話をしているのだろうか。

 そうして同じ団地に住む二家族なので、一緒に帰ることになった。
 そんな帰り道の途中に、母が「そういえばさ」と悟円に向けて話しかけてくる。

「ごーちゃん、先生がすっごい褒めてたよぉ」
「アタシも聞いた聞いた。何でも悪ガキを追っ払って、空絵との時間を守ってくれたんだっけ? やるじゃない、悟円」

 次いで花菜絵が持ち上げてくる。

「ん……ごえんくん、かっこよかった」

 二人の後に続いたのは琴乃。どこか自慢するように鼻を膨らませている。

「いや……追っ払うって、結果的にそうなったってだけで……」
「ん? ずいぶんと難しい言い回しするじゃない」

 マズイ。気を付けていたのに、つい疑問を与えるような言い方になってしまった。
 子供らしくない言葉に、首を傾げる花菜絵。顔には出さないが冷や汗ものである。

「ふふ、ごーちゃんも昨日五歳になったもんねー。子供の成長って早いわよねぇ」

 対してウチの母はというと、簡単に誤魔化されてくれているが。

「おっと、その話をしたかったのよ。ねえ、結乃。この子が悟円に誕生日プレゼントを渡したがっててね」

 そう言いながら、花菜絵が自分の娘の頭にポンと手を置く。

「あらら、プレゼントくれるのぉ? 何気に初めてじゃない、それ?」

 そうなのだ。赤ちゃんの頃から親しいといっても、直接プレゼントをもらったりしていたわけではなかった。口頭で言われたり、家族一緒に食べてとケーキをもらうことはあったが。

「本当は昨日渡したがってたけど、ちょうど夫の実家に行っててね」

 だから帰宅したら、すぐにそっちに向かうわと花菜絵が言ったので、悟円は家に到着し、手洗いうがいをして少し待っているとインターホンが鳴った。
 母が玄関に向かうと、彼女と一緒にリビングに向かってくる二人の足音が聞こえてくる。

 そして花菜絵とともにやってきた空絵が、ゆっくりとした足取りで悟円の前まで来た。

「……これ」

 スッと差し出されたのは可愛らしいピンク色と星形のシールで装飾された封筒と、裏向けにされた一枚の画用紙だった。
 姉がくれたものと同じような手紙が封筒に入っているのだろう。それと画用紙には、悟円と空絵が手を繋いで笑っている絵が描かれていた。とても微笑ましく、胸が温かくなる。

「たんじょび……おめでと」
「ありがとう、空絵ちゃん」

 想いを感じたままに笑顔で答えると、空絵もまた僅かに頬を緩めてくれた。すると突然踵を返したと思ったら、花菜絵の後ろに駆け寄った。

「おーおー、いっちょ前に恥ずかしがっちゃって」

 楽しそうに笑いながら、花菜絵はそう言う。
 こういう時、五歳児でも普通に恥ずかしさを覚えるらしい。とても初々しくて可愛い。

「良かったわねー、ごーちゃん! プレゼント、大事にしないとね!」
「うん、部屋に飾りたいと思う」

 せっかくこんな素晴らしい絵をもらったのだ。部屋の壁にでも貼っておこう。
 するとその時、玄関から「ただいまー」という声が聞こえ、リビングに姉である琴乃が姿を見せたと思ったら、悟円にすぐさま抱き着いてきた。

「んぅー、ただいまー、ごっくん!」
「こ、琴姉ちゃん……ちょっと苦しいよ」
「あっ、ごめんごめん。でもやっとごっくんに会えたからさぁ」

 舌をペロリと出すあざとさに思わず苦笑が浮かぶ。可愛いので許す。
 ただそこへ、右手がグイッと引っ張れる感覚を悟円は感じた。見ると、軽く頬を膨らませた空絵がそこにいる。

「……ごえんくん、こっち」

 まるで琴乃から救い出そうとするかのような仕草だ。すると琴乃もそこで初めて空絵の存在に気づいたようで、同じようにムッとした表情を見せる。

「ちょっと! ごっくんのうで引っぱらないで!」
「……イヤ。ごえんくんから……はなれて」

 二人が視線をぶつけ合い火花が散る。
 そういえばこの二人、会う度に悟円を取り合うような形になるのだ。

(お気に入りの玩具を取り合ってるみたいな感じなんだよなぁ)

 子供同士の微笑ましい衝突で、いつもその中心にいる悟円は子供ながら呆れていたのだ。

「ほらほら、二人ともぉ。ごーちゃんが痛がってるわよぉ」

 そんな母の言葉に、二人がハッとして心配そうに悟円を見てくる。確かに片やギュッと強く抱きしめられながら、片や腕を引っ張られるというのは辛いものがある。

「まあまあ、いいじゃない結乃。それってモテる男の嬉しい痛みってやつだって」
「もう佳菜絵、適当なこと言ってぇ」

 どうやら佳菜絵は止めるつもりはないようだ。むしろもっとやれ感が強い。絶対に楽しんでいる。

「ごめんね、ごっくん。痛かった?」
「……ごめん」

 二人が意気消沈している姿を見ると心が痛い。だから悟円は二人の頭を撫でながら「大丈夫だから気にしないでね」と言うと、二人が嬉しそうにそれぞれ腕に抱き着いてきた。

「わお、見事な対応。こりゃ将来は女泣かせになりそうだね、ははは!」
「ご、ごーちゃん、背中を刺されないようにしないといけないわよぉ!」

 一体二人は何を言っているのだろうか。
 五歳児に言うことではないだろうと思いつつ、悟円はさっそく空絵にもらった絵を貼ろうと思い自室へと向かった。とはいっても、姉と一緒に使っている部屋ではあるが。

 壁には姉が書いた習字やら、悟円と二人で撮った写真やらが飾られているが、その空いている部分を見つけて、そこに絵を貼る。

「あぁ……あたしとごっくんの聖域だったのにぃ……」

 いつの間にか後ろにいた琴乃が、ガックリと肩を落としている。それに対し、これまた同じようについてきていた空絵が、どことなく満足そうに鼻を膨らませていた。
 それからそろそろ空絵の父親が帰ってくるということで、愛原家とは別れた。とはいっても隣同士ということもあって、会おうと思えばすぐにでも再会できるが。

 そうこうしているうちに我らが万堂家の大黒柱も帰ってきて、いつものように四人で食卓を囲うことになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ほぼ不滅、『残機10億』のスキル無双 ~このダンジョン都市でゾンビって呼ばれてます。~

十本スイ
ファンタジー
 地球にダンジョンが誕生して二十数年が経った。宇宙開発に心血を注いでいた各国だったが、この大事件が勃発してからというものの、こぞってダンジョン攻略に乗り出すことになったのである。何故なら人間の中には、魔法に目覚める者が現れ、ダンジョンの中には、人類が欲して止まない未知のエネルギー物質なども存在したからだ。故にダンジョンを攻略する者――冒険者の誕生を国は歓迎した。その中で、地村十利(ちむらじゅうり)もまた冒険者になるべく、ダンジョン都市へと足を踏み入れることになった。だがその理由は、地位や名誉ではない。ただ一つ――借金を返すためである。しかもその金額は何と――〝十億〟。加えて、そのすべてはダメ親父から背負わされたものだった。冒険者になれば稼げる。夢の職業だ。その一縷の望みをかけて冒険者登録に向かうも、自分には一切の魔力がなく魔法が使えない事実が判明してしまう。十利は絶望する。だがそんな十利にも、まだ残された希望があった。ステータス表記を見ると、稀にしか持たないとされるスキルが存在したのだ。しかもそのさらに稀少度の高い〝ユニークスキル〟。ただこのスキルの名前は『残機十億』というよく分からないものだった。借金と被っているし、嫌なシンクロだと思っていた十利だったが、このスキルがまた無敵過ぎる能力を持っていたのである。そしてそのスキルのせいで、十利は〝ゾンビ〟と呼ばれることになっていく。これは一人の不運過ぎる少年が、父親の借金を返済するために稼ぎまくりながら、将来の嫁さんを見つける物語である。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww

刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。 さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。 という感じの話です。 草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。 小説の書き方あんまり分かってません。 表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

崩壊寸前のどん底冒険者ギルドに加入したオレ、解散の危機だろうと仲間と共に友情努力勝利で成り上がり

イミヅカ
ファンタジー
 ここは、剣と魔法の異世界グリム。  ……その大陸の真ん中らへんにある、荒野広がるだけの平和なスラガン地方。  近辺の大都市に新しい冒険者ギルド本部が出来たことで、辺境の町バッファロー冒険者ギルド支部は無名のままどんどん寂れていった。  そんな所に見習い冒険者のナガレという青年が足を踏み入れる。  無名なナガレと崖っぷちのギルド。おまけに巨悪の陰謀がスラガン地方を襲う。ナガレと仲間たちを待ち受けている物とは……?  チートスキルも最強ヒロインも女神の加護も何もナシ⁉︎ ハーレムなんて夢のまた夢、無双もできない弱小冒険者たちの成長ストーリー!  努力と友情で、逆境跳ね除け成り上がれ! (この小説では数字が漢字表記になっています。縦読みで読んでいただけると幸いです!)

処理中です...