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遠くの方から地面を激しく叩く音が聞こえる。その音が確実に近づいてきていた。
そして―――
「―――先生ぇぇぇぇっ」
バンッと孤児院の扉が勢いよく開かれる。
「「「「おめでとうっ、アミッツ!」」」」
「っ……………………へ?」
そこに現れたアミッツを出迎えたのは、イオと孤児院の皆であった。
すでにテーブルの上には数々の料理が並べられてあり、壁には垂れ幕まで設置され、
〝スリーランクアップ、おめでとう!〟
と書かれてある。
教会の中は飾り付けられてあり、まるでパーティでもするかのようだ。
その光景の衝撃のせいか、いまだにキョトンと呆けているアミッツに対し、
「おいおい、いつまでぼ~っとしてるつもりだ?」
「……っ! あ、え、はい? その……これって……?」
「読んで字の如く、おめでとさん、アミッツ」
「な、何で?」
「お前が試験でどんなことをしたのか、キメラバーバリアン相手にどう立ち向かったのかリリーシュに聞いた。そしてオレなりに判断した。きっとお前は〝Cランク〟になるってな」
あのアドリードが試験官だったことで、それほどの動きができるアミッツを見ていた彼ならば、間違いなく正当な評価をしてくれると思っていたのだ。
今もアミッツは右手に通知表らしき紙を持ちながら立ち尽くしている。
イオは近づいて、そっとその通知表を手にした。
そこには思った通り〝Cランク〟と評価されている。
「ま、さすがに〝Cランク〟くらいじゃ、最終試験まで行くことはできなかったみてえだけどな」
通知表には二次試験突破に関しては不合格という文字が刻まれてあった。今の彼女の実力では、まだまだこの先に行くには力が足りないということだ。
しかしイオは、この結果に大満足していた。かつての自分がそこにいるかのような既視感を覚える。
イオはアミッツの小さな頭の上に右手を乗せた。
「本当によくやったな、アミッツ」
「……っ!? ……うん。うん! 先生のお陰だっ!」
涙を流しながらイオに抱きついてくる。子供たちやマザーも、皆が喜びの声を上げ拍手をアミッツへと送っていた。
ひとしきり撫で終わったあと、アミッツからリリーシュも凄く喜んでくれたということを聞いた。さらに驚くことに、クラスメイトの中からも拍手を送った者が出たとのこと。
結果を出せば、おのずと周りの評価も変わっていく実力主義な世界。
これで恐らく来年はもっと激しい競争になることだろう。何せ今までノーマークだった人物が急激に力を増してきているのだから。
あと一年で、勇者になれるかなれないかが決まる。
「……実はな、リリーシュとの契約はお前に力を教えるまで、だったんだよ」
「え……じゃ、じゃあこれで先生と……お別れ?」
「だとしたらどうする?」
「ヤだっ! 絶対にヤだっ! もっともっと先生に教えてもらいたいことがいっぱいあるんだっ!」
泣きそうな顔で懇願してくる。
「だからお願い! 傍にいてよ、先生っ!」
もうプロポーズみたいな言葉だが、イオは不思議と心躍るものを感じていた。
やはりアミッツを教えるのは面白い。今まで冒険ばかりしてきたが、少しは根を下ろして何かに没頭するのも悪くないと感じさせる。
「しょうがねえな。けどま、泣き事を言わねえなら、まだ付き合ってやるぜ?」
「うん! 絶対言わないっ!」
「これまで以上に修業は厳しいぞ?」
「ドンとこいっ!」
相変わらず揺るがない瞳をしている。
(もしかしたら最初からこの瞳に惹かれてたのかも、な)
イオは彼女の頭をもう一撫でしてから口を開く。
「よし、なら揺るがずついてこい!」
「うんっ!」
まだまだ落ちこぼれ勇者の家庭教師は続くようだ。
しかし悪くない。そう思うイオであった。
そして―――
「―――先生ぇぇぇぇっ」
バンッと孤児院の扉が勢いよく開かれる。
「「「「おめでとうっ、アミッツ!」」」」
「っ……………………へ?」
そこに現れたアミッツを出迎えたのは、イオと孤児院の皆であった。
すでにテーブルの上には数々の料理が並べられてあり、壁には垂れ幕まで設置され、
〝スリーランクアップ、おめでとう!〟
と書かれてある。
教会の中は飾り付けられてあり、まるでパーティでもするかのようだ。
その光景の衝撃のせいか、いまだにキョトンと呆けているアミッツに対し、
「おいおい、いつまでぼ~っとしてるつもりだ?」
「……っ! あ、え、はい? その……これって……?」
「読んで字の如く、おめでとさん、アミッツ」
「な、何で?」
「お前が試験でどんなことをしたのか、キメラバーバリアン相手にどう立ち向かったのかリリーシュに聞いた。そしてオレなりに判断した。きっとお前は〝Cランク〟になるってな」
あのアドリードが試験官だったことで、それほどの動きができるアミッツを見ていた彼ならば、間違いなく正当な評価をしてくれると思っていたのだ。
今もアミッツは右手に通知表らしき紙を持ちながら立ち尽くしている。
イオは近づいて、そっとその通知表を手にした。
そこには思った通り〝Cランク〟と評価されている。
「ま、さすがに〝Cランク〟くらいじゃ、最終試験まで行くことはできなかったみてえだけどな」
通知表には二次試験突破に関しては不合格という文字が刻まれてあった。今の彼女の実力では、まだまだこの先に行くには力が足りないということだ。
しかしイオは、この結果に大満足していた。かつての自分がそこにいるかのような既視感を覚える。
イオはアミッツの小さな頭の上に右手を乗せた。
「本当によくやったな、アミッツ」
「……っ!? ……うん。うん! 先生のお陰だっ!」
涙を流しながらイオに抱きついてくる。子供たちやマザーも、皆が喜びの声を上げ拍手をアミッツへと送っていた。
ひとしきり撫で終わったあと、アミッツからリリーシュも凄く喜んでくれたということを聞いた。さらに驚くことに、クラスメイトの中からも拍手を送った者が出たとのこと。
結果を出せば、おのずと周りの評価も変わっていく実力主義な世界。
これで恐らく来年はもっと激しい競争になることだろう。何せ今までノーマークだった人物が急激に力を増してきているのだから。
あと一年で、勇者になれるかなれないかが決まる。
「……実はな、リリーシュとの契約はお前に力を教えるまで、だったんだよ」
「え……じゃ、じゃあこれで先生と……お別れ?」
「だとしたらどうする?」
「ヤだっ! 絶対にヤだっ! もっともっと先生に教えてもらいたいことがいっぱいあるんだっ!」
泣きそうな顔で懇願してくる。
「だからお願い! 傍にいてよ、先生っ!」
もうプロポーズみたいな言葉だが、イオは不思議と心躍るものを感じていた。
やはりアミッツを教えるのは面白い。今まで冒険ばかりしてきたが、少しは根を下ろして何かに没頭するのも悪くないと感じさせる。
「しょうがねえな。けどま、泣き事を言わねえなら、まだ付き合ってやるぜ?」
「うん! 絶対言わないっ!」
「これまで以上に修業は厳しいぞ?」
「ドンとこいっ!」
相変わらず揺るがない瞳をしている。
(もしかしたら最初からこの瞳に惹かれてたのかも、な)
イオは彼女の頭をもう一撫でしてから口を開く。
「よし、なら揺るがずついてこい!」
「うんっ!」
まだまだ落ちこぼれ勇者の家庭教師は続くようだ。
しかし悪くない。そう思うイオであった。
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