落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

文字の大きさ
上 下
49 / 50

47

しおりを挟む
 試験が終わると、数日は授業が休みになる。
 次に学院に行く時は、二次試験の通知表を受け取る日だ。
 そして今日がまさにその日なのである。

(うぅ……ドキドキするよぉ)

 教室の自分の席で待っている時間が非常に苦痛である。
 その時、一人の少女が近づいて来た。

「―――キャロディルーナさん」
「へ? あ……クランさん?」

 そこにいたのはミラである。

「えと……その……さ」

 何か言い辛いことでもあるのか、視線を泳がして口ごもっている。すると突如、バッと頭を下げたかと思うと、

「今までごめんっ! それとあの時は助けてくれてありがとうっ! それだけっ!」

 とこちらが返事をする間もなくそそくさと真っ赤な顔をして自分の席へ戻ってしまった。その奇行にも見える行為に、アミッツだけでなく、周りの生徒たちもポカンとしたままだ。

「ふふふ、彼女もあなたを認めたということでしょうね」
「……イグニースさん」

 今度はアレリアだ。相変わらずいつもと変わらない涼しげで気品のある立ち姿である。

「しかし私も謝罪しなければいけませんね」
「……何で?」
「あなたに勇者を目指す才能がないと言ったことですわ」
「あ……別にいいって。気にしてないし」
「いいえ。間違っていたことはしっかり間違いだと認識し、反省することが次の成長に繋がると私は考えております」
「う、うん」

 何だか熱い持論だなと思いつつ、目をパチパチとしばたかせてアレリアを見つめる。

「私もまだまだ見る目というものが欠けておりました。本当に申し訳ございませんでした」
「い、いやその……う、うん」

 物凄く居心地が悪い。確かにこれが人として当然の態度なのかもしれないが、本人はまったくもって気にしていないので悪いような気がするのだ。

「許してくださいますか?」
「も、もちろん! 全然いいよ、そんなの!」

 すると彼女は顔を上げて女性でも綺麗だと思えるような微笑を浮かべた。

「それともう一つ」
「へ?」
「是非、私のことをアレリアと呼んでくださいませ」
「…………いいの?」
「ええ。さん付けも結構です」

 これは……認めてくれたってことでいいのかもしれない。何だかそういうつもりではなかったが、何となく嬉しさが込み上げてくる。

「わ、分かった! だったらボクもアミッツでいいから。あ、さん付けなしで!」
「はい。これからもともに腕を磨いていきましょう、アミッツ」
「うん、アレリア!」

 そこへ教室の扉が開き、一気にまた緊張が高まった。
 リリーシュが大きな封筒を持って現れたのだ。思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
 一次試験の時と同じように、一人ずつ名前を呼ばれていく。

「―――アミッツ・キャロディルーナ」
「ひゃ、ひゃいっ!」

 変な声を出してしまった。教卓の前へ行き、リリーシュの顔を見る。
 何故かリリーシュは真剣な眼差しでジッと目を見返してきていた。

(こ、これってどういう感情なんだろ……! もしかしてランクまったく上がってなくて怒ってるのかな)

 もしそうだとすると、イオにも応援をしてくれたリリーシュにも申し訳ない。
 差し出された通知表はまだ裏側。怖くて表にして確認することができない。
 リリーシュは黙ったまま。しかしいつまでも動かないアミッツにやきもきしたのか、次の瞬間、リリーシュが――。

「アミッツ、自分の今の立場をしっかり勇気を出して確認なさい。恐れずに。それが勇者としてあるべき姿よ」

 厳しめの言葉。それが胸に突き刺さった。
 そうだ。こんなところで怖がっている場合ではないのだ。

 全力で試験に臨んだ。途中イレギュラーなことも起きたが、それでもやるべきことはやった、と思う。
 アミッツは大きく深呼吸をすると、ゆっくり通知表を表にした――。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...