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(あのドラゴン、ちゃんと契約を交わされた契約獣じゃねえな。動きも鈍いし、そもそも攻撃意志が薄過ぎる)
ドラゴン系というのは、敵に対して容赦はしない。一度好戦すると、手を止めずに攻撃を繰り出すことでも有名。しかしそれは野生のドラゴンの特徴。
ただ召喚の呪文を持つ者と契約したら、召喚者の言うことは守るのが常識ではある。今もしっかり命令を守っているように見えるが、攻撃そのものに殺意が薄いし、先程の尻尾の動きにしたって、これだけのドラゴンならもっと素早いはず。
(つまり一応の契約者はあのガキだけど、ガキの力が足りなさ過ぎて本来の力が発揮できてねえってところか)
まあ勇者候補生の実力なら仕方ないことだろう。いくら《バーサーカーウィルス》でドーピングしたとしても、元々持っている力が弱いと、召喚した者の力を存分に発揮することはできない。
(なら放置でもあと一分ほどで自動的に元の場所に戻ると思うけど……)
さすがに強力なブレス攻撃を何度も打たれてはリリーシュが言ったように、ここら一帯が更地と化してしまう。
「せ、先生……」
心配そうに見つめてくるアミッツ。イオはそんな彼女に笑みを浮かべて安心を与える。
「大丈夫だアミッツ。……いいか、よく見てろよ」
「へ?」
「今から見せる技をしっかり見とけ。いつかお前に辿り着いてもらう技なんだしな」
そう言いながら、数歩前へと進む。前方にはドラゴン。後ろにはアミッツたち。
「さぁて、久々に力を出すぞ。イオ・カミツキ――噛みつかせてもらうぜ!」
先程とは比べものにならない魔力をイオは身体から噴出。同時にそのすべてを右手に持つ剣へと集束していく。
「あ……その技は」
アミッツは知ったように言葉を漏らすが、彼女が思っているのとは少し――違う。
次第に刀身を覆っている魔力が形を変えて両翼を顕現させる。
「つ、翼が生えた……っ!?」
アミッツの言うように、イオが持っている剣にまるで翼が生えたような光景が映し出されていた。
白い魔力が翼を形作っている姿は、まるで天使が羽を広げているかのように見える。その周囲に浮かぶ白い粒子がより神秘的な空間を演出していた。
「イオッ、ブレス攻撃、くるわよっ!」
リリーシュの声をほぼ同時に、ドラゴンが口からマグマが噴火したような勢いで大量の炎を吐き出した。無論狙いはイオだ。
イオはそのまま逆手に持った剣を後ろに振り上げ、弧を描くようにして前方へと腕を振り上げた。
すると剣から放たれた斬撃は、巨大な翼を持つ鳥と化して大地を激しく抉り取りながら、ブレスへと突っ込んでいく。
そのブレスを白い鳥はいとも簡単に弾き飛ばしていき、その先にいるドラゴンへと迫る。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
ロエンは反射的にその場から右側へと全力で避難し脱出。しかしドラゴンはやはり動きが鈍くそのまま立ち往生している。当然避けることなどできるはずもなく……。
白い鳥はドラゴンの身体を真っ直ぐ貫き、
「グゴォォォォォォォォォォオオオオオッ!?」
断末魔のような叫びを上げながら、身体に風穴を開けたドラゴンは口から大量の血液を吐き出しながらぐったりと地面に崩れ落ち、そのままボンッと煙状になって消失した。
「―――《魔断・飛鳥》」
今イオが放った技は、アミッツに教えた《魔断》の上位技。その威力は見ての通り。
(どうやら大ダメージを受けて存在を維持できずに元の場所に強制送還されたみてえだな)
呪文で召喚された契約獣は、基本的にある一定以上のダメージを受けたりすると元居た場所まで強制的に戻ってしまう。他にも召喚者の魔力が足りなくなった時や意識を失った時などに戻ったりするパターンもある。
「せ、先生……っ、ほ、ほんとにすっごいよぉっ!」
「にししし! だから言ったろ、大丈夫だって」
「ボ、ボクもいつか今の! 今の使えるように!?」
「修業を怠らなきゃな」
「うん! ボク絶対に使えるようになるから!」
そんな打てば響くようなアミッツの解答に満足していると、
「な、なななななな何だ! 何だ何だ何だ! 何なんだよぉぉっ、お前ぇぇぇっ!」
ドラゴンを消されたショックで明らかにパニック状態に陥っているロエン。その身体は痩せ細り、今にも飢え死にしそうに思われた。このまま放置すると恐らく死んでしまうだろう。
(明らかな魔力欠乏症だな。しかも生命力まで魔力に強制変換されてる……これが《バーサーカーウィルス》の力か)
彼の現状を一目見て把握し、イオは肩を竦める。
「もう諦めな。素直に今回の件を話して――」
「うるさぁぁぁぁいっ! ――《撃熱の大火球》ッ!」
「先生っ、逃げて!」
しかしイオはアミッツの願いを聞き届けるわけにはいかない。
「――やれやれ。しょうがねえな―――《撃熱の大火球》」
瞬時にイオが放った、ロエンとまったく同じ火球が、ロエンのそれと衝突して相殺する。
「……は? じょ、冗談じゃなぁぁぁいっ! ――《蒼水の茨鞭》ッ!」
ロエンが振り払った右手から、水でできた茨状の鞭が伸びてくる。
「――《蒼水の茨鞭》」
またもロエンとまったく同じ仕草で同じ呪文を放つ。鞭同士が絡み合って、綱引きのような状態になってしまう。
「うぎぎぎぎぃぃっ、な、何なんだよぉぉ、何で俺の魔法を……っ!?」
その時、ロエンは言葉を詰まらせ、目一杯瞼を開くことになった。
「な、な、何だよ――――――その眼はぁっ!?」
ロエンの視線の先にあるのは、イオの両眼。それまで漆黒の色を宿していたその瞳は。
―――――血のような紅に色づいていた。
アミッツでさえも息を呑み、ジッと凍りついたようにイオの瞳に釘づけだ。
その蛇のような縦目もさることながら、そこから放たれる威圧感に完全に気圧されてしまっている。
イオは周りに気を遣うことなく不敵に笑う。
「さあ、次は何を視せてくれるんだ?」
「う、うわぁぁぁっ!?」
明らかにイオの醸し出す雰囲気に怯えて、今度は下級レベルの水球を幾つも撃ってきた。当然イオはその仕草とほぼ同時に身体を動かして、同じ呪文を繰り出し相殺。
「い、い、い、一体お前は……っ」
「何だよ、もう種切れか? ならこれで終わりにしようぜ―――力に溺れたガキ。――《電流撃》」
「っ!? うっぐががががががががぁぁぁっ!?」
まだ水の鞭で繋がっていたので、イオは自分の身体から雷系の呪文を流して、水から伝わせロエンの身体を麻痺させることにした。
「あっがぁっ……ぎがぁ……っ! お……俺は……血族……で……負け……っ」
ガックリとそのまま白目を剥いて意識を落としてしまった。
これですべての戦闘が終了したのである。
ドラゴン系というのは、敵に対して容赦はしない。一度好戦すると、手を止めずに攻撃を繰り出すことでも有名。しかしそれは野生のドラゴンの特徴。
ただ召喚の呪文を持つ者と契約したら、召喚者の言うことは守るのが常識ではある。今もしっかり命令を守っているように見えるが、攻撃そのものに殺意が薄いし、先程の尻尾の動きにしたって、これだけのドラゴンならもっと素早いはず。
(つまり一応の契約者はあのガキだけど、ガキの力が足りなさ過ぎて本来の力が発揮できてねえってところか)
まあ勇者候補生の実力なら仕方ないことだろう。いくら《バーサーカーウィルス》でドーピングしたとしても、元々持っている力が弱いと、召喚した者の力を存分に発揮することはできない。
(なら放置でもあと一分ほどで自動的に元の場所に戻ると思うけど……)
さすがに強力なブレス攻撃を何度も打たれてはリリーシュが言ったように、ここら一帯が更地と化してしまう。
「せ、先生……」
心配そうに見つめてくるアミッツ。イオはそんな彼女に笑みを浮かべて安心を与える。
「大丈夫だアミッツ。……いいか、よく見てろよ」
「へ?」
「今から見せる技をしっかり見とけ。いつかお前に辿り着いてもらう技なんだしな」
そう言いながら、数歩前へと進む。前方にはドラゴン。後ろにはアミッツたち。
「さぁて、久々に力を出すぞ。イオ・カミツキ――噛みつかせてもらうぜ!」
先程とは比べものにならない魔力をイオは身体から噴出。同時にそのすべてを右手に持つ剣へと集束していく。
「あ……その技は」
アミッツは知ったように言葉を漏らすが、彼女が思っているのとは少し――違う。
次第に刀身を覆っている魔力が形を変えて両翼を顕現させる。
「つ、翼が生えた……っ!?」
アミッツの言うように、イオが持っている剣にまるで翼が生えたような光景が映し出されていた。
白い魔力が翼を形作っている姿は、まるで天使が羽を広げているかのように見える。その周囲に浮かぶ白い粒子がより神秘的な空間を演出していた。
「イオッ、ブレス攻撃、くるわよっ!」
リリーシュの声をほぼ同時に、ドラゴンが口からマグマが噴火したような勢いで大量の炎を吐き出した。無論狙いはイオだ。
イオはそのまま逆手に持った剣を後ろに振り上げ、弧を描くようにして前方へと腕を振り上げた。
すると剣から放たれた斬撃は、巨大な翼を持つ鳥と化して大地を激しく抉り取りながら、ブレスへと突っ込んでいく。
そのブレスを白い鳥はいとも簡単に弾き飛ばしていき、その先にいるドラゴンへと迫る。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!?」
ロエンは反射的にその場から右側へと全力で避難し脱出。しかしドラゴンはやはり動きが鈍くそのまま立ち往生している。当然避けることなどできるはずもなく……。
白い鳥はドラゴンの身体を真っ直ぐ貫き、
「グゴォォォォォォォォォォオオオオオッ!?」
断末魔のような叫びを上げながら、身体に風穴を開けたドラゴンは口から大量の血液を吐き出しながらぐったりと地面に崩れ落ち、そのままボンッと煙状になって消失した。
「―――《魔断・飛鳥》」
今イオが放った技は、アミッツに教えた《魔断》の上位技。その威力は見ての通り。
(どうやら大ダメージを受けて存在を維持できずに元の場所に強制送還されたみてえだな)
呪文で召喚された契約獣は、基本的にある一定以上のダメージを受けたりすると元居た場所まで強制的に戻ってしまう。他にも召喚者の魔力が足りなくなった時や意識を失った時などに戻ったりするパターンもある。
「せ、先生……っ、ほ、ほんとにすっごいよぉっ!」
「にししし! だから言ったろ、大丈夫だって」
「ボ、ボクもいつか今の! 今の使えるように!?」
「修業を怠らなきゃな」
「うん! ボク絶対に使えるようになるから!」
そんな打てば響くようなアミッツの解答に満足していると、
「な、なななななな何だ! 何だ何だ何だ! 何なんだよぉぉっ、お前ぇぇぇっ!」
ドラゴンを消されたショックで明らかにパニック状態に陥っているロエン。その身体は痩せ細り、今にも飢え死にしそうに思われた。このまま放置すると恐らく死んでしまうだろう。
(明らかな魔力欠乏症だな。しかも生命力まで魔力に強制変換されてる……これが《バーサーカーウィルス》の力か)
彼の現状を一目見て把握し、イオは肩を竦める。
「もう諦めな。素直に今回の件を話して――」
「うるさぁぁぁぁいっ! ――《撃熱の大火球》ッ!」
「先生っ、逃げて!」
しかしイオはアミッツの願いを聞き届けるわけにはいかない。
「――やれやれ。しょうがねえな―――《撃熱の大火球》」
瞬時にイオが放った、ロエンとまったく同じ火球が、ロエンのそれと衝突して相殺する。
「……は? じょ、冗談じゃなぁぁぁいっ! ――《蒼水の茨鞭》ッ!」
ロエンが振り払った右手から、水でできた茨状の鞭が伸びてくる。
「――《蒼水の茨鞭》」
またもロエンとまったく同じ仕草で同じ呪文を放つ。鞭同士が絡み合って、綱引きのような状態になってしまう。
「うぎぎぎぎぃぃっ、な、何なんだよぉぉ、何で俺の魔法を……っ!?」
その時、ロエンは言葉を詰まらせ、目一杯瞼を開くことになった。
「な、な、何だよ――――――その眼はぁっ!?」
ロエンの視線の先にあるのは、イオの両眼。それまで漆黒の色を宿していたその瞳は。
―――――血のような紅に色づいていた。
アミッツでさえも息を呑み、ジッと凍りついたようにイオの瞳に釘づけだ。
その蛇のような縦目もさることながら、そこから放たれる威圧感に完全に気圧されてしまっている。
イオは周りに気を遣うことなく不敵に笑う。
「さあ、次は何を視せてくれるんだ?」
「う、うわぁぁぁっ!?」
明らかにイオの醸し出す雰囲気に怯えて、今度は下級レベルの水球を幾つも撃ってきた。当然イオはその仕草とほぼ同時に身体を動かして、同じ呪文を繰り出し相殺。
「い、い、い、一体お前は……っ」
「何だよ、もう種切れか? ならこれで終わりにしようぜ―――力に溺れたガキ。――《電流撃》」
「っ!? うっぐががががががががぁぁぁっ!?」
まだ水の鞭で繋がっていたので、イオは自分の身体から雷系の呪文を流して、水から伝わせロエンの身体を麻痺させることにした。
「あっがぁっ……ぎがぁ……っ! お……俺は……血族……で……負け……っ」
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