落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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「せ、先生ぇぇぇっ!」

 背後から抱きついてきた我が教え子――アミッツ。怪我はしているようだが重傷にも程遠いようだ。――ホッとした。

「悪かったな。ちょっと遅れちまった」
「ほんとだよっ! 遅いよもうっ! 先生のバカァァァ……!」

 脇腹から覗く彼女の頭をポンポンと優しく叩く。
 何とかギリギリで間に合って良かった。先程蹴り飛ばしたのは、間違いなく〝複合魔獣〟のキメラバーバリアンだ。

 そして恐らく、これらを操っているのは――

(……あのガキだな)

 ドラゴンの背に乗ってイオの登場に言葉を失ったままの少年。
 売却リストを確認すると、売った日の日付が書いてあった。そこに名も記されている。

「な、な、何なんだよお前ぇぇぇっ!」
「おお、おお、おお、張り切っちゃってるねぇ。ロエン・シンヴォレオ……だな?」
「な、何で俺の名前を……!?」
「さあな。答えるつもりなんかねえ!」
「き、貴様ぁぁぁっ」

 まさか〝召喚の勇者〟の血筋のシンヴォレオ家の人間が魔法薬でのドーピングをするとは驚いた。

「――イオッ!」
「ん? あ、リリーシュじゃねえか。お前なぁ、しっかり生徒を守れよな」
「うっ……ご、ごめん」
「あ、ウソウソ。冗談だって。お前が頑張ってるからこの程度の被害で済んでるのも分かってっからよ」
「イオ……」

 リリーシュが今も張り続けている魔法の結界。それがなければ、彼女の傍にいるアレリアもまた怪我以上のことをその身に受けていたかもしれない。

「―――ギャァァァァァァァッ!」

 そこへ、先程吹き飛ばしたはずのキメラバーバリアンが全速力で駆け出してきた。

「せ、先生っ!」
「大丈夫だって。―――《棘の塔ニードル・タワー》」

 刹那、大地から突き出した巨大な一本の棘のような塊が出現しキメラバーバリアンの身体を貫いた。

「さぁて、他の連中もそろそろ退場してもらうぜ」

 イオの身体から大量の魔力が溢れ出し、イオを知らない者たち以外は目を丸くする。
 イオは右手を地面に触れて、魔力を一気に注ぐ。
 先程キメラバーバリアンを倒した時と同じ《棘の塔》が、他のキメラバーバリアンの足元から突き出て瞬時に身体を貫いて絶命させた。

「な、なななななななななっ!?」

 ロエンが愕然とした面持ちで、イオの所業に言葉を失っている。

「「す、凄い……!」」

 そう呟いたのはアレリアとミラの二人。

「さぁて、残りはそこのドラゴンとお坊ちゃん、お前一人だな」
「ぎっ……ふ、ふふふ、くははははは! バカめ! キメラバーバリアンなど余興に過ぎない! 本命はここにいるコイツだけだぁっ!」
「気を付けてイオ。明らかに〝Sランク〟よ、あのドラゴンは!」
「ああ、リリーシュ。ちゃ~んと分かってるって……ん? おいアミッツ、その剣、貸してくれっか?」
「あ、うん。いいけど……」
「サンキュ。おお、最近の学院生はこんな良い武器を使わせてもらってんのか。時代は変わったもんだねぇ」

 アミッツから受け取った片手剣をクルクル器用に弄びながら、その丈夫さを量っていく。
 するとドラゴンが巨大な尻尾を振り回し、近くに生えている木々や大地などをいとも簡単に吹き飛ばした。

「よぉし! その調子でブレス攻撃を繰り出してやれぇぇっ!」

 ロエンの命を受けて、ドラゴンが鼻から大量の空気を吸い込み始める。

「ブレス!? イオッ、さすがにまともに受けるとここら一帯が!」
「だろうな」
「だろうなって! 私は生徒たちを守るから早く何とかしてよっ!」
「分かってるって。けどちゃんとアミッツたちは任せたぞ、リリーシュ」

 リリーシュが、アミッツやミラたちにも魔法の結界を張り出す。これで多少の衝撃が起きても吹き飛ぶことはないだろう。
 イオは肩を回してから剣を逆手に持つ。


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