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「――――まさかこんなドラゴンとまで契約してたなんて……っ」
リリーシュの言葉が聞こえたのか、ロエンはドラゴンの背に飛び乗った後、嬉しそうに笑い声を上げて、
「見ろぉ! これが俺だぁ! 俺の力だぁっ! 血族の中で一番は俺なんだよぉぉぉっ! 最強の勇者になるのは俺だぁぁぁぁっ!」
こんな騒ぎを起こしておいてそれはないだろうとアミッツはツッコみたかったが、そんなことよりもさすがにマズイ状況だということは分かっていた。
何故なら先程から余裕の表情だった教師たちも、一様に顔を強張らせているのだから。それほどまでにあのドラゴンは厄介な存在なのだろう。
少し歩いただけで大地は軋み、翼を一度動かすと台風のような風が吹き荒れる。まさにアミッツにとっては規格外としか思えない。
「あ……あ……いやぁぁぁぁぁっ!?」
風の防護壁で守られていたミラは、ドラゴンの存在感に我を忘れたように逃げ出してしまい、
「ちょっ、ミラ! そこから出たらダメッ!」
リリーシュの制止を振り切り、結界の外へと逃げ出してしまう。
「くははぁ、おい! そいつを殺せぇっ!」
アドリードを相手していたキメラバーバリアンの一体が、突如動きを変えて走り出しているミラへと近づく。あっという間に彼女の前に先回りして、
「あ……あ……い、いや……っ」
「ミラさんっ!」
助けようと同じように結界内から出ようとしたアレリアの腕を掴んでリリーシュが止める。
「ダメッ、アレリアッ!」
「で、ですがこのままでは!?」
それは完全な時間のロスとなり、もう二人は手が届かなくなってしまう。
キメラバーバリアンが大きな口を開けて、恐怖で硬直してしまっているミラを食べようとしたその時――
「――――《魔断》ぃっ!」
地面を割りながら進んできた斬撃がキメラバーバリアンの顔に直撃し、片方の牙を折った。
誰もが言葉を失い、それを成した人物へと視線をそそぐ。
「こっちだぁぁぁっ、バケモノォォォォッ!」
そこにいたのは、剣を逆手に構えていたアミッツだった。すでに防護結界からは出ている。
「ア、アミッツ……あなた……!」
驚愕に目開くリリーシュ。
「まだまだぁっ! 全力で――〝開〟っ!」
扉を全開にして、そこに眠っている魔力を一気に引っ張り出す。
「っ!? な、何ですの――この魔力量は!?」
「う……嘘……っ!?」
当然今までの劣等生だったアミッツしか知らないアレリアとミラは目を丸くしていた。
「――アミッツ・キャロディルーナ、揺るがず参るよっ!」
身体から溢れ出す魔力を握っている剣に集束する。
「もういっちょぉぉっ、――《魔断》ぃっ!」
イオに教わった技。完成したのは試験前日だった。
その時の達成感と充実感、そして自分にも技を持てたという事実にアミッツは手放しで喜んだものだった。
(この技なら、少しはダメージを与えることができる!)
相手の牙を折ったことで、それを確信した。
「今のうちに逃げろっ、クランさんっ!」
しかし腰が抜けてしまっているのか、ミラは立てないようだ。
ただ二発目の《魔断》で、相手が後方へ大きく下がったので、その隙をついてアミッツはミラのもとへ急ぎ、彼女の前に立つ。
だがアミッツもまた、目の前にいる規格外のオーラを持つキメラバーバリアンに身体が竦みそうになってしまう。
相手の拳が頭上からハンマーのように振り下ろされる。アミッツは動けなくなっているミラを抱えてその場から跳んで脱出を図るが、拳によって割れた大地の破片が飛んできてアミッツの背中に傷をつける。
「うっぐっ!?」
アレリアたちが駆けつけようとするが、他のキメラバーバリアンが立ち塞がって邪魔をする。
下手に背中を見せればドラゴンの餌食にもなってしまう。それを理解しているのか、教師陣は動けないようだ。
またミラはというと、自分を庇って傷ついたアミッツを見て愕然としている。
「……っ!? な、何で私なんか……!」
「え……何でって……」
「だ、だって私、散々アンタのことバカにしてたじゃないっ!」
「そんなこと……」
確かにミラには自分のことだけでなくイオのことをバカにされたので腹は立ったが。
「でも……見捨てるなんてできるわけないだろ」
「……へ?」
「だって、勇者は……困ってる人を助けるもんだと思うから」
「っ!?」
「ボクは少なくとも……そういう勇者になりたい!」
「アンタ……!」
だがそんな感動的な言葉を打ち消すかのように、
「くはははははぁっ! もう逃げ場はなぁぁいっ! さあキメラッ、そいつらをまとめて殺せぇぇぇっ!」
ロエンの命令でキメラバーバリアンの目がギンッと鋭くなり、再び巨大な拳がアミッツとミラの頭上から振り下ろされる。
(――先生……っ)
思わず目を閉じてしまいそうになる。しかしその時、ある日のイオとの会話が思い起こされた。
『いいか、アミッツ。どんな苦しい時も辛い時も、危ない時も、絶対に目を閉じるな』
『何で?』
『勇者ってのは、どんな時も希望を見続けなきゃならねえ。だから絶望が目の前にあったとしても、オレはぜってーに目は閉じねえ』
『閉じないと、いいことあるの?』
『さあな。けどま、もし奇跡が起きたらよ。その瞬間を目を閉じてたから見れねえってのは、何か悔しいだろ?』
そう言いながら屈託なく笑うイオの笑顔が脳裏に過ぎる。
(そう、だよね。先生……ボクは先生の教え子なんだ。だから……)
閉じかけた瞼をしっかり開いて、迫ってくる拳を睨みつけていた。
するとそこへ一陣の風が、アミッツの頬を撫でる。
同時に目の前にいたはずの猛威が一瞬にして消え去っていた。
――頬が緩み、つい目頭が熱くなってくる。
アミッツは、確かに奇跡の瞬間をその目に掴むことができたのだ。
「――――――偉いな、アミッツ。よく頑張った。だからあとは――任せろ」
アミッツの最強の家庭教師が降り立った瞬間だった。
リリーシュの言葉が聞こえたのか、ロエンはドラゴンの背に飛び乗った後、嬉しそうに笑い声を上げて、
「見ろぉ! これが俺だぁ! 俺の力だぁっ! 血族の中で一番は俺なんだよぉぉぉっ! 最強の勇者になるのは俺だぁぁぁぁっ!」
こんな騒ぎを起こしておいてそれはないだろうとアミッツはツッコみたかったが、そんなことよりもさすがにマズイ状況だということは分かっていた。
何故なら先程から余裕の表情だった教師たちも、一様に顔を強張らせているのだから。それほどまでにあのドラゴンは厄介な存在なのだろう。
少し歩いただけで大地は軋み、翼を一度動かすと台風のような風が吹き荒れる。まさにアミッツにとっては規格外としか思えない。
「あ……あ……いやぁぁぁぁぁっ!?」
風の防護壁で守られていたミラは、ドラゴンの存在感に我を忘れたように逃げ出してしまい、
「ちょっ、ミラ! そこから出たらダメッ!」
リリーシュの制止を振り切り、結界の外へと逃げ出してしまう。
「くははぁ、おい! そいつを殺せぇっ!」
アドリードを相手していたキメラバーバリアンの一体が、突如動きを変えて走り出しているミラへと近づく。あっという間に彼女の前に先回りして、
「あ……あ……い、いや……っ」
「ミラさんっ!」
助けようと同じように結界内から出ようとしたアレリアの腕を掴んでリリーシュが止める。
「ダメッ、アレリアッ!」
「で、ですがこのままでは!?」
それは完全な時間のロスとなり、もう二人は手が届かなくなってしまう。
キメラバーバリアンが大きな口を開けて、恐怖で硬直してしまっているミラを食べようとしたその時――
「――――《魔断》ぃっ!」
地面を割りながら進んできた斬撃がキメラバーバリアンの顔に直撃し、片方の牙を折った。
誰もが言葉を失い、それを成した人物へと視線をそそぐ。
「こっちだぁぁぁっ、バケモノォォォォッ!」
そこにいたのは、剣を逆手に構えていたアミッツだった。すでに防護結界からは出ている。
「ア、アミッツ……あなた……!」
驚愕に目開くリリーシュ。
「まだまだぁっ! 全力で――〝開〟っ!」
扉を全開にして、そこに眠っている魔力を一気に引っ張り出す。
「っ!? な、何ですの――この魔力量は!?」
「う……嘘……っ!?」
当然今までの劣等生だったアミッツしか知らないアレリアとミラは目を丸くしていた。
「――アミッツ・キャロディルーナ、揺るがず参るよっ!」
身体から溢れ出す魔力を握っている剣に集束する。
「もういっちょぉぉっ、――《魔断》ぃっ!」
イオに教わった技。完成したのは試験前日だった。
その時の達成感と充実感、そして自分にも技を持てたという事実にアミッツは手放しで喜んだものだった。
(この技なら、少しはダメージを与えることができる!)
相手の牙を折ったことで、それを確信した。
「今のうちに逃げろっ、クランさんっ!」
しかし腰が抜けてしまっているのか、ミラは立てないようだ。
ただ二発目の《魔断》で、相手が後方へ大きく下がったので、その隙をついてアミッツはミラのもとへ急ぎ、彼女の前に立つ。
だがアミッツもまた、目の前にいる規格外のオーラを持つキメラバーバリアンに身体が竦みそうになってしまう。
相手の拳が頭上からハンマーのように振り下ろされる。アミッツは動けなくなっているミラを抱えてその場から跳んで脱出を図るが、拳によって割れた大地の破片が飛んできてアミッツの背中に傷をつける。
「うっぐっ!?」
アレリアたちが駆けつけようとするが、他のキメラバーバリアンが立ち塞がって邪魔をする。
下手に背中を見せればドラゴンの餌食にもなってしまう。それを理解しているのか、教師陣は動けないようだ。
またミラはというと、自分を庇って傷ついたアミッツを見て愕然としている。
「……っ!? な、何で私なんか……!」
「え……何でって……」
「だ、だって私、散々アンタのことバカにしてたじゃないっ!」
「そんなこと……」
確かにミラには自分のことだけでなくイオのことをバカにされたので腹は立ったが。
「でも……見捨てるなんてできるわけないだろ」
「……へ?」
「だって、勇者は……困ってる人を助けるもんだと思うから」
「っ!?」
「ボクは少なくとも……そういう勇者になりたい!」
「アンタ……!」
だがそんな感動的な言葉を打ち消すかのように、
「くはははははぁっ! もう逃げ場はなぁぁいっ! さあキメラッ、そいつらをまとめて殺せぇぇぇっ!」
ロエンの命令でキメラバーバリアンの目がギンッと鋭くなり、再び巨大な拳がアミッツとミラの頭上から振り下ろされる。
(――先生……っ)
思わず目を閉じてしまいそうになる。しかしその時、ある日のイオとの会話が思い起こされた。
『いいか、アミッツ。どんな苦しい時も辛い時も、危ない時も、絶対に目を閉じるな』
『何で?』
『勇者ってのは、どんな時も希望を見続けなきゃならねえ。だから絶望が目の前にあったとしても、オレはぜってーに目は閉じねえ』
『閉じないと、いいことあるの?』
『さあな。けどま、もし奇跡が起きたらよ。その瞬間を目を閉じてたから見れねえってのは、何か悔しいだろ?』
そう言いながら屈託なく笑うイオの笑顔が脳裏に過ぎる。
(そう、だよね。先生……ボクは先生の教え子なんだ。だから……)
閉じかけた瞼をしっかり開いて、迫ってくる拳を睨みつけていた。
するとそこへ一陣の風が、アミッツの頬を撫でる。
同時に目の前にいたはずの猛威が一瞬にして消え去っていた。
――頬が緩み、つい目頭が熱くなってくる。
アミッツは、確かに奇跡の瞬間をその目に掴むことができたのだ。
「――――――偉いな、アミッツ。よく頑張った。だからあとは――任せろ」
アミッツの最強の家庭教師が降り立った瞬間だった。
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