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(な、何だよアイツのあの魔力……っ!?)
それは量なら確かに多いとは思うが、そんなことよりも負の感情を凝縮したようなあの魔力の質は、およそ勇者候補生が放つそれではなかった。
(……あれ? アイツ……確か前に通路でぶつかった人だ)
アミッツは一次試験の実技試験が終わって教室へ帰る途中に、ある少年と通路でぶつかったことを思い出す。その時の少年と同じ顔をしている。
ただ雰囲気はあの時とは比べるべくもなく黒々しいものを感じるが。
「……どうして? どうしてあの子――ロエンが魔族と同じ魔力質を持ってるの!?」
「ま、魔族!?」
「私も一度目にしたことがありますが、間違いなくあの者が放っているのは魔力は、人間ではなく魔族のそれ――俗に〝黒魔〟と呼ばれる魔力質ですわ」
リリーシュの言葉にミラは驚きのあまり声を上げ、次にアレリアが額から汗を滲ませながら言葉を発した。
(あ、あれが魔族が放つ魔力質……なんだ)
闇や死を連想させるような気持ちの悪い黒。ただの黒ではなく、猛毒が含んでいそうなどす黒さを感じさせる。
「それよりも状況から見るに、彼がキメラバーバリアンとやらを従えているようですが?」
アレリアの言葉に対し、険しい顔つきのままリリーシュが首を左右に振る。
「有り得ないわ。あの子はロエンって言って、確かまだ〝Bランク〟。あの子の力じゃ、〝Aランク〟の契約獣は呼び出せないはず。それにこんなに何体も。いくら彼がシンヴォレオの血族だからといっても」
「シンヴォレオ……ですか。私の血族が〝火の勇者〟と呼ばれるように、シンヴォレオは〝召喚の勇者〟と呼ばれる血族でしたわね。では才能が開花したのでは?」
「それでもおかしいわ。シンヴォレオの血族が扱う契約獣に〝複合魔獣〟なんてあるわけがないもの。そもそもあの魔力質の説明がつかないわ」
「それは確かに……」
二人だけで納得しているようだが、アミッツに分かったのは、ロエンに召喚の才はあっても、この状況を生み出すほどの力があるわけではないということ。
「さあ、俺の力を存分に知らしめろっ! くはははははぁぁっ!」
空で高笑いをし、キメラバーバリアンに命令を下しているところを見ると、どう考えても彼が召喚した主としか思えない。
「ロエン・シンヴォレオッ! そこから降りてきて説明しろ!」
「うるせぇっ、眼鏡野郎! たかが試験官程度、黙ってやがれ! 俺は最強の力を手に入れたんだからなぁっ!」
アドリードの要求を完全に却下し、あろうことか上空から、
「――《撃熱の大火球》ッ!」
燃え盛る巨大な火球をアドリード目掛けて放ってきた。
アドリードもまさか生徒が教師に対して攻撃を放ってくるとは思っていなかったのか、完璧に虚を突かれてしまっている。
しかしそこはさすが試験官、眼鏡をクイッと上げると、上空に両手をかざし、
「―――《氷結の大槍》ッ!」
珍しい氷系呪文を繰り出した。文字通り氷で形作られている大きな槍が、火球へと向かって行く。槍が火球に刺さった直後、火球は丸ごと凍結させられ砕かれてしまった。
氷の破片が雨のように降り注ぐが、リリーシュの結界がアミッツたちを守ってくれている。
「ぎっ……こ、このクソ眼鏡がぁっ! お前らぁぁっ、奴を先に始末しろぉぉ!」
完全に目がすわっている。正気があるように思えない。一体何が彼をこうまでさせているのかサッパリ分からない。
アドリードに集中するキメラバーバリアンたち。しかしアドリードは見事に攻撃を捌いている。
「ああぁぁぁぁっ、鬱陶しいぃぃぃぃっ! もういい! なら! なら! ならぁっ!」
そう言いながら、ロエンが懐から何かを取り出した。
(……! 注射器……?)
のようにアミッツには見えた。
それを首に刺してしばらくすると、さらに魔力の量が増え、加えて質が濃くなったように思える。
同時に何か得体の知れない不安感が胸にどんどん込み上げてきた。
「くくくくくくくくくく…………もう……見せるしかないのかぁぁ……! 俺の切り札をよぉぉぉっ!」
カチカチと歯を鳴らしながらロエンが懐から一枚の札のようなものを取り出す。そこに魔力を注ぎ始めた瞬間――彼の頭上の空間が蜃気楼のように歪み始めた。
そこから徐々に魔法陣が出現し広がっていく。
(い、一体何をするつもりなんだ……?)
赤い魔法陣が怪しい輝きを放ち始めると、そこからズズズズズズズゥゥゥゥ……ッと、キメラバーバリアンよりも巨躯の黒いナニカが出てきた。
最初は口……なのだろうか。人を丸呑みにできる巨大な口だ。続けて、獰猛で見るものを金縛りに合わせるほどの威圧感を放つ紅き眼が現れる。
そこから長い首、胴体、翼、そして最後に尻尾。
「は、は、初めて……見た……っ」
アミッツも一度見てみたいと思っていたその姿。まさかこのようなところで目にするとは到底考えつかなかった。
静かにソレは下りてきて、地上に足を突いた瞬間に、
「グオォォォォォォオオオオオオオッ!」
凄まじい咆哮を上げた。
「……っ、ド……ドラゴン――ッ!?」
不意にアミッツの口から漏れ出た言葉。
そう、そこにいたのは間違いなく外見上――ドラゴンと呼ばれる生物だった。
それは量なら確かに多いとは思うが、そんなことよりも負の感情を凝縮したようなあの魔力の質は、およそ勇者候補生が放つそれではなかった。
(……あれ? アイツ……確か前に通路でぶつかった人だ)
アミッツは一次試験の実技試験が終わって教室へ帰る途中に、ある少年と通路でぶつかったことを思い出す。その時の少年と同じ顔をしている。
ただ雰囲気はあの時とは比べるべくもなく黒々しいものを感じるが。
「……どうして? どうしてあの子――ロエンが魔族と同じ魔力質を持ってるの!?」
「ま、魔族!?」
「私も一度目にしたことがありますが、間違いなくあの者が放っているのは魔力は、人間ではなく魔族のそれ――俗に〝黒魔〟と呼ばれる魔力質ですわ」
リリーシュの言葉にミラは驚きのあまり声を上げ、次にアレリアが額から汗を滲ませながら言葉を発した。
(あ、あれが魔族が放つ魔力質……なんだ)
闇や死を連想させるような気持ちの悪い黒。ただの黒ではなく、猛毒が含んでいそうなどす黒さを感じさせる。
「それよりも状況から見るに、彼がキメラバーバリアンとやらを従えているようですが?」
アレリアの言葉に対し、険しい顔つきのままリリーシュが首を左右に振る。
「有り得ないわ。あの子はロエンって言って、確かまだ〝Bランク〟。あの子の力じゃ、〝Aランク〟の契約獣は呼び出せないはず。それにこんなに何体も。いくら彼がシンヴォレオの血族だからといっても」
「シンヴォレオ……ですか。私の血族が〝火の勇者〟と呼ばれるように、シンヴォレオは〝召喚の勇者〟と呼ばれる血族でしたわね。では才能が開花したのでは?」
「それでもおかしいわ。シンヴォレオの血族が扱う契約獣に〝複合魔獣〟なんてあるわけがないもの。そもそもあの魔力質の説明がつかないわ」
「それは確かに……」
二人だけで納得しているようだが、アミッツに分かったのは、ロエンに召喚の才はあっても、この状況を生み出すほどの力があるわけではないということ。
「さあ、俺の力を存分に知らしめろっ! くはははははぁぁっ!」
空で高笑いをし、キメラバーバリアンに命令を下しているところを見ると、どう考えても彼が召喚した主としか思えない。
「ロエン・シンヴォレオッ! そこから降りてきて説明しろ!」
「うるせぇっ、眼鏡野郎! たかが試験官程度、黙ってやがれ! 俺は最強の力を手に入れたんだからなぁっ!」
アドリードの要求を完全に却下し、あろうことか上空から、
「――《撃熱の大火球》ッ!」
燃え盛る巨大な火球をアドリード目掛けて放ってきた。
アドリードもまさか生徒が教師に対して攻撃を放ってくるとは思っていなかったのか、完璧に虚を突かれてしまっている。
しかしそこはさすが試験官、眼鏡をクイッと上げると、上空に両手をかざし、
「―――《氷結の大槍》ッ!」
珍しい氷系呪文を繰り出した。文字通り氷で形作られている大きな槍が、火球へと向かって行く。槍が火球に刺さった直後、火球は丸ごと凍結させられ砕かれてしまった。
氷の破片が雨のように降り注ぐが、リリーシュの結界がアミッツたちを守ってくれている。
「ぎっ……こ、このクソ眼鏡がぁっ! お前らぁぁっ、奴を先に始末しろぉぉ!」
完全に目がすわっている。正気があるように思えない。一体何が彼をこうまでさせているのかサッパリ分からない。
アドリードに集中するキメラバーバリアンたち。しかしアドリードは見事に攻撃を捌いている。
「ああぁぁぁぁっ、鬱陶しいぃぃぃぃっ! もういい! なら! なら! ならぁっ!」
そう言いながら、ロエンが懐から何かを取り出した。
(……! 注射器……?)
のようにアミッツには見えた。
それを首に刺してしばらくすると、さらに魔力の量が増え、加えて質が濃くなったように思える。
同時に何か得体の知れない不安感が胸にどんどん込み上げてきた。
「くくくくくくくくくく…………もう……見せるしかないのかぁぁ……! 俺の切り札をよぉぉぉっ!」
カチカチと歯を鳴らしながらロエンが懐から一枚の札のようなものを取り出す。そこに魔力を注ぎ始めた瞬間――彼の頭上の空間が蜃気楼のように歪み始めた。
そこから徐々に魔法陣が出現し広がっていく。
(い、一体何をするつもりなんだ……?)
赤い魔法陣が怪しい輝きを放ち始めると、そこからズズズズズズズゥゥゥゥ……ッと、キメラバーバリアンよりも巨躯の黒いナニカが出てきた。
最初は口……なのだろうか。人を丸呑みにできる巨大な口だ。続けて、獰猛で見るものを金縛りに合わせるほどの威圧感を放つ紅き眼が現れる。
そこから長い首、胴体、翼、そして最後に尻尾。
「は、は、初めて……見た……っ」
アミッツも一度見てみたいと思っていたその姿。まさかこのようなところで目にするとは到底考えつかなかった。
静かにソレは下りてきて、地上に足を突いた瞬間に、
「グオォォォォォォオオオオオオオッ!」
凄まじい咆哮を上げた。
「……っ、ド……ドラゴン――ッ!?」
不意にアミッツの口から漏れ出た言葉。
そう、そこにいたのは間違いなく外見上――ドラゴンと呼ばれる生物だった。
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