落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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 同時に先に動いたのはミラだ。彼女は素早くアイアントレントへ接近し、ダガーを振るおうとする――が、

「――きゃっ!?」

 アイアントレントの反応速度の方が速く、身体の側面から伸び出ている腕を払うようにして動かしてミラを弾き飛ばしてしまった。
 地面を転がったミラだが、ダメージはそれほど大きくないようだ。いや、それも恐らくは身につけている《耐衝撃用スーツ》のお陰だろう。
 その恩恵がなければ、恐らくもっと大きなダメージを受けていたはず。

「ミラさん、お気をつけなさい」
「は、はい、アレリア様!」

 いまだに微塵も焦りも揺らぎも一切見せないアレリアの言葉にミラは片目を閉じながら返事をした。

(それにしても、クランさんの動きはとても速かったのに、さすがは〝Cランク〟の魔物だ)

 いきなりの突撃で、相手の虚をついたと思われていたのに、アイアントレントは逆にカウンターを与えたのだ。やはり授業でいつも相対している魔物とは格が違う。

(イグニースさんはどうするんだろ……?)

 すると彼女はそのまま真っ直ぐアイアントレントに近づいていく。当然魔物の攻撃範囲に入れば――

「あ、危ないです、アレリア様!」

 ミラの叫び。しかし叫びと同時に、アイアントレントから先程と同様に腕が振られる。
 攻撃が当たると思われた刹那――アレリアの姿が消え、気づけば振るわれたアイアントレントの腕の上に立っていた。

「――さあ、貫きなさいっ!」

 腕をそのまま伝って、アイアントレントの身体にレイピアを突き刺すアレリア。
 だがレイピアはアイアントレントの身体に傷をつけることなく、その侵入を塞いでいた。

「……堅い、ですわね」

 ギロリとアイアントレントの目がアレリアを捉え、今度は木の葉が手裏剣のように彼女へと襲い掛かった。アレリアは地上に下りると同時に素早い身のこなしをみせて回避し続ける。
 木の葉はその鋭さで地面に次々と突き刺さっていく。

 だがその時だった――。

 審査員含め、その場にいる誰もがハッとなって、アイアントレントの背後に意識が向く。

「――ったあぁぁぁぁぁっ!」

 そこにいたのは―― アミッツ。右手に持った剣を横薙ぎに払い、斬撃を与えようとしたが、悲しいことに威力が足りないのか、アレリアの時と同様に鋼音だけが響いただけだった。

「くっ、やっぱダメか!?」

 すぐにアミッツはその場から離れて、相手の攻撃範囲から脱出する。

「ちょ、ちょっとアンタ! アレリア様の攻撃を利用なんかして、何様のつもりよ!」

 ミラが訳の分からないことで怒鳴ってきた。
 しかしそれに反論したのはアレリアの方だった。

「いいえ、ミラさん。今のキャロディルーナさんの動きと狙いは素晴らしいものでしたわ」
「え……で、ですが今のは」
「確かに、私の攻撃でアイアントレントの意識は完全に私へと向き、キャロディルーナさんはその隙を突くことに成功した。しかしそれは戦術として当然の行為です。授業でも習ったはずですわ」

 思い出したのか、ミラも「あ……」と口にした。

「即席のチームで連携をするということがそもそも難しい話ですわ。ならば、互いの攻防から何が一番有効打を与えるか、それどれが考えることが不可欠。キャロディルーナさんは、敵の視線を私に誘導させて、その隙を突くという立派な有効打を与えようとしただけのこと。それは立派な戦術。何一つ恥じることなどないですわ」
「で、ですが……アイツは落ちこぼれで……」
「……いつまでも相手を軽んじるような者は勇者として大成することなどできません。いえ、勇者の道すら歩くこと叶わず! 私は勝つために行動した者を蔑んだりはしません!」

 高潔で気品が高く、実力人望とも恵まれているアレリアの言葉はさすがだとアミッツも思わされた。

(けど、先生の言う通り、ボクの魔力は小さいから相手の警戒の外から攻撃することができた)

 イオ曰く、最高の擬態能力を持つアミッツ。その身に秘める扉を開けない限り、初見のほとんどの者は油断してしまう。だからこその今の急襲ができたわけだが、思った以上に相手の防御力が高かった。

「今の一撃、お見事でしたわ、キャロディルーナさん!」
「うん! ありがと!」
「私も負けてはいられませんね――」

 瞬間、アレリアの身体から大量の魔力が溢れ出す。
 アイアントレントも警戒度を高めて、アレリアから距離を取ろうとする。

「アイアントレント――その名の通り、鉄のような防御力を有するようですわね。ではこれならいかがですか――」

 彼女の持つレイピアを紅蓮の炎が集束していく。その周りの空間がユラユラと激しく揺らめくほどの熱気だ。
 魔力を両足に集めて、脚力を高めたアレリアは、先程よりも素早い突進力でアイアントレントに肉薄。

「―――《業火の一閃フレイム・ストライク》ッ!」

 突き出した真っ赤に色づいたレイピア。さっきは頑丈な防御力に弾かれたが、今度は溶けた飴でも貫くような感じでズブッとレイピアの先が内部へと侵入した。

「ギガァァァァァァァァッ!?」

 確実にダメージを受けているようで、悲痛な叫びが場内に響く。審査員たちも彼女の鋭い攻撃に目を見張っているようだ。

「まだまだ、これからですわよ!」

 そう言って、今度はそのまま突きの連撃。どんどん身体に穴が開いていくアイアントレント。

(す、凄い……! 本当にイグニースさんは凄いや!)

 剣術もさることながら、身のこなしも火の呪文と剣を融合させた技に脱帽してしまう。

「――ん? イグニースさんっ、後ろっ!」
「っ!?」

 アミッツの忠告に、アレリアは自身の背後の地面から突き出した蔓の存在に気づいて、そのまま大きく跳び上がって、蔓の拘束から逃れた。

「ご忠告、感謝致しますわ! さあ、これでトドメを――」

 さらに燃え上がる彼女のレイピア。
 それをアイアントレントに叩き込もうとした瞬間――――天井を突き破り、何かが突撃してきた。 


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