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その日の夜――。
孤児院では小さな宴が催されていた。
その祝いの中心に立つのは――アミッツ。理由は――。
「「「「一次試験合格、おめでとー!」」」」
そう、アミッツは見事に一次試験を突破した合格通知をもらうことができたのだ。
「ありがとうっ、みんなぁっ!」
教室で待っている間は、キリキリと胃の痛みと戦っていた。早く結果を、結果を――。
そんなことをずっと考えながら教室の自分の席で待っていたのだ。
そこへクラス全員の試験が終わり、リリーシュがまたも大きな封筒を持ってやって来た。
もう四度目の光景である。封筒に入っている紙には、それぞれ一人一人の通知表が入れられてあるのだ。
リリーシュが名前を呼び、一人ずつ教卓の前まで行き受け取る。
そしていよいよアミッツの番が来たが、周りはやはりクスクスと笑っていた。彼らがどうせアミッツは落第だと思っていることなど簡単に予想できる。
笑っていないのはアレリアを含めて数人ほどだ。
リリーシュから裏側にして通知表を受け取った。その時の気持ちは胸がドキドキして張り裂けそうだったのを覚えている。
しかしすぐにリリーシュがアミッツの手に自分の手を重ねて笑顔でこう言ってくれた。
「よく、頑張ったわね」
と。
その言葉がスッと胸に入ってきた瞬間、無意識に紙を表に向けて評価を確認した。
――〝合格〟。
その文字が一瞬頭の中に入ってこなかった。まるで夢半ばのような感じで、ジッと文字を見つめたまま固まっていたのだ。
「――よっ」
そして。
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
心の底から叫び声を上げた。周りの視線などすっかり忘れていたのである。
当然アミッツの喜びに、受かると思っていない者たちが目を丸くしたまま、先程のアミッツのように固まっていた。
「……まさか本当に」
と、小さな呟きがアレリアから零れ出るが、アミッツには届いていない。
それから嬉し過ぎて涙を流しながらリリーシュに飛び込んだりしたが、彼女もまた嬉しそうに笑顔いっぱいで抱きしめて頭を撫でてくれた。
その後はすぐに孤児院に帰って、マザーたちに報告することに。
そしてもちろんイオにも報告したかったので、すぐに彼の自宅へ向かおうと思ったが、マザーに手渡された一枚の紙で思い止まることになった。
“おめでとさん。お前なら受かるって信じてたぞ。けどまだ序の口だ。本番はこれからだ。気合入れていけ。ちなみに少し所用で留守にするが、ちゃんと明日には顔を見せるから安心しな。 イオ・カミツキ”
と書かれていた。
信じてくれたのは嬉しいけど、できればこの喜びを一緒に味わってほしかった。
彼も勇者なので、そっちの仕事が入ったのなら優先すべきだと理解はできるが、それでも彼には傍に居て喜んでほしかった。
マザーが開いてくれた宴を楽しみながらも、アミッツはどこか物寂しさを感じているのに気付く。
ここ二カ月半は、ずっと一緒だった。イオと顔を合わせない日はなかった。
それほど長い期間一緒にいたわけではないが、アミッツの心はイオという人間に惹かれていたのだ。
リリーシュにもいろいろ聞いた結果、確かに勇者として問題行動が多過ぎる気もするが、それでも自分の道を持っており、誰に何を言われようと真っ直ぐ突き進む彼が、アミッツは眩しくて仕方がなかった。
別に勇者の誰かに憧れて、その背を追ってきたわけではない。ただ孤児院を守るために必要だから頑張ってきただけ。
しかし今は少し考え方が変わってきたのも確かだった。
それは、イオのような自分なりの勇者道を持つ立派な勇者になりたいというもの。どんな壁があっても、どんな反対を受けても、自分がこうだと信じる道を真っ直ぐ進む。
それができる勇者になりたいと、イオを見て思ったのだ。
だからこそ、道を示してくれた彼と喜びを分かち合いたかったのだが……。
(先生……どこに行ったんだよぉ)
明日は顔を見せると行ったが、今まで黙っていなくなるということもしなかった彼なので、どこか不安を覚えてしまう。
彼のことだから心配はないにしても、心の支えでもある彼が遠くに行ったような気がして、アミッツはこの宴を全力で楽しむことができなかった。
孤児院では小さな宴が催されていた。
その祝いの中心に立つのは――アミッツ。理由は――。
「「「「一次試験合格、おめでとー!」」」」
そう、アミッツは見事に一次試験を突破した合格通知をもらうことができたのだ。
「ありがとうっ、みんなぁっ!」
教室で待っている間は、キリキリと胃の痛みと戦っていた。早く結果を、結果を――。
そんなことをずっと考えながら教室の自分の席で待っていたのだ。
そこへクラス全員の試験が終わり、リリーシュがまたも大きな封筒を持ってやって来た。
もう四度目の光景である。封筒に入っている紙には、それぞれ一人一人の通知表が入れられてあるのだ。
リリーシュが名前を呼び、一人ずつ教卓の前まで行き受け取る。
そしていよいよアミッツの番が来たが、周りはやはりクスクスと笑っていた。彼らがどうせアミッツは落第だと思っていることなど簡単に予想できる。
笑っていないのはアレリアを含めて数人ほどだ。
リリーシュから裏側にして通知表を受け取った。その時の気持ちは胸がドキドキして張り裂けそうだったのを覚えている。
しかしすぐにリリーシュがアミッツの手に自分の手を重ねて笑顔でこう言ってくれた。
「よく、頑張ったわね」
と。
その言葉がスッと胸に入ってきた瞬間、無意識に紙を表に向けて評価を確認した。
――〝合格〟。
その文字が一瞬頭の中に入ってこなかった。まるで夢半ばのような感じで、ジッと文字を見つめたまま固まっていたのだ。
「――よっ」
そして。
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
心の底から叫び声を上げた。周りの視線などすっかり忘れていたのである。
当然アミッツの喜びに、受かると思っていない者たちが目を丸くしたまま、先程のアミッツのように固まっていた。
「……まさか本当に」
と、小さな呟きがアレリアから零れ出るが、アミッツには届いていない。
それから嬉し過ぎて涙を流しながらリリーシュに飛び込んだりしたが、彼女もまた嬉しそうに笑顔いっぱいで抱きしめて頭を撫でてくれた。
その後はすぐに孤児院に帰って、マザーたちに報告することに。
そしてもちろんイオにも報告したかったので、すぐに彼の自宅へ向かおうと思ったが、マザーに手渡された一枚の紙で思い止まることになった。
“おめでとさん。お前なら受かるって信じてたぞ。けどまだ序の口だ。本番はこれからだ。気合入れていけ。ちなみに少し所用で留守にするが、ちゃんと明日には顔を見せるから安心しな。 イオ・カミツキ”
と書かれていた。
信じてくれたのは嬉しいけど、できればこの喜びを一緒に味わってほしかった。
彼も勇者なので、そっちの仕事が入ったのなら優先すべきだと理解はできるが、それでも彼には傍に居て喜んでほしかった。
マザーが開いてくれた宴を楽しみながらも、アミッツはどこか物寂しさを感じているのに気付く。
ここ二カ月半は、ずっと一緒だった。イオと顔を合わせない日はなかった。
それほど長い期間一緒にいたわけではないが、アミッツの心はイオという人間に惹かれていたのだ。
リリーシュにもいろいろ聞いた結果、確かに勇者として問題行動が多過ぎる気もするが、それでも自分の道を持っており、誰に何を言われようと真っ直ぐ突き進む彼が、アミッツは眩しくて仕方がなかった。
別に勇者の誰かに憧れて、その背を追ってきたわけではない。ただ孤児院を守るために必要だから頑張ってきただけ。
しかし今は少し考え方が変わってきたのも確かだった。
それは、イオのような自分なりの勇者道を持つ立派な勇者になりたいというもの。どんな壁があっても、どんな反対を受けても、自分がこうだと信じる道を真っ直ぐ進む。
それができる勇者になりたいと、イオを見て思ったのだ。
だからこそ、道を示してくれた彼と喜びを分かち合いたかったのだが……。
(先生……どこに行ったんだよぉ)
明日は顔を見せると行ったが、今まで黙っていなくなるということもしなかった彼なので、どこか不安を覚えてしまう。
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