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――翌日。
学院の授業があるのでアミッツは制服を着用して孤児院を出た。
昨日の修業のお蔭か、何となくまた一歩先に進めた気がして気分が良い。イオの過去も少しだけだが聞くことができたし。
(先生もやっぱり努力してたんだ)
分かってたけど、本人の口から聞けて確かめられたことが嬉しかった。確かに努力をすれば、その努力が必ず報われるとは限らない。
それでも努力し続ければ、それは自身の成長に繋がるのは確実。また努力しなければ、何も分からないのもまた事実なのだ。
そういう意味では満足のいく結果を得られなかったとしても、努力は意味のあるものだということである。
(けど先生、よく二カ月も自分のことを信じ続けられたよなぁ。ボクにはまだ先生がいるからいいけど、先生には教えてくれる人なんていなかったのに。やっぱり先生は凄いや)
これからもいろいろなことを学びたいと意気揚々と、教室へ入ると――。
「……へ?」
そこにいたクラスメイトたちから、何故か睨みつけられてしまった。いつもは一瞥しただけで挨拶もしないといった様子なのに、今日はジ~ッと敵でも見るような目線である。
そこへ一人の女子生徒が近づいてきた。その女子の近くには、昨日アレリアと一緒にいた取り巻きの子たちがいる。
「ちょっと、聞いたわよキャロディルーナさん」
「き、聞いた? 何を?」
「アンタ、せっかくのアレリア様の厚意を無下にしたんだって?」
そこでピンときた。昨日アレリアとした模擬戦のことが、すでに教室中に広まっているのだと。中には無関心な者や、殺気めいたクラスにおどおどしている様子の生徒もいるが、大半は明らかにアミッツをよく思っていない者たちの視線で集まっている。
「べ、別に無下にしたわけじゃない。イグニースさんの忠告だって、ありがたいって思った」
「だったら」
「でも!」
「っ!?」
「でもボクはボクの道を行くだけだ!」
そう。諦めずに前を向いて歩いて行くと決めたのだから。
宣言して自分の席へ行こうとした時、その女子生徒に腕を掴まれた。
「あんたね、身の程ってもんを知りなさいよ」
「知ってるよ! だから頑張ってんだ!」
「あのね! 落ちこぼれがいくら頑張ってもムダだってことを知りなさいって言ってんのよ! それに聞いたわよ。アンタ、家庭教師なんか雇ってるんだって?」
「……!」
「どうせその家庭教師だって、僅かばかりの小銭にたかりたがるどうしようもない輩でしょ?」
その言葉に、全身の毛が逆立つような不愉快と怒りが込み上げる。
女子生徒の周りに立っている生徒たちがクスクスと笑い始めた。
先生のことを何も知らないくせに……と心が熱くなってくる。
「……今、何て言ったのさ?」
「はあ?」
「……ボクのことは好きなだけ何とでも言えばいい。けど!」
「ちょっ」
バッと勢いよく腕を振って、掴まれていた状態から解放される。
「けど、先生のことを悪く言うのは止めろ!」
「な、何よ。そんな目で見ても全然怖くないわよ。何の才能もないくせに、粋がってんじゃないわよ!」
ドンッと肩を押されて、アミッツは一歩退く。
そこへ一人の生徒が教室へと入ってくる。
「――? ごきげんよう。皆さん、このようなところに集まって何を……あら、キャロディルーナさんまで。……どうかされましたの?」
と、普段通り気品ある佇まいで登場したのは、今さっきも話題に上がっていたアレリア本人だった。
しかしアレリアの問いに、誰も目を泳がせて答えはしない。アレリアもさすがに眉をひそめて、ただならぬ雰囲気に気を揉んでいたようだが。
「…………取り消して」
「はい?」
と口に出したのはアレリアだ。しかし当然、アミッツの視線はイオに対し暴言を吐いた女子生徒に向けられている。
「さっき言ったこと、取り消して」
「と、取り消さないわよ! 落ちこぼれがふざけないでよね!」
ギリッとアミッツは歯を噛む。自分でもよく分からない。
けれどイオのことをバカにされるのは、まるで孤児院の家族をバカにされるのと同じくらい腹が立つのだ。
まだ会って間もないけれど、それでもイオは真摯にアミッツと向き合って、閉じかけていた道を指し示してくれる大事な人だ。
だからこそ、先程の彼女の言葉は許容できるものではない。
学院の授業があるのでアミッツは制服を着用して孤児院を出た。
昨日の修業のお蔭か、何となくまた一歩先に進めた気がして気分が良い。イオの過去も少しだけだが聞くことができたし。
(先生もやっぱり努力してたんだ)
分かってたけど、本人の口から聞けて確かめられたことが嬉しかった。確かに努力をすれば、その努力が必ず報われるとは限らない。
それでも努力し続ければ、それは自身の成長に繋がるのは確実。また努力しなければ、何も分からないのもまた事実なのだ。
そういう意味では満足のいく結果を得られなかったとしても、努力は意味のあるものだということである。
(けど先生、よく二カ月も自分のことを信じ続けられたよなぁ。ボクにはまだ先生がいるからいいけど、先生には教えてくれる人なんていなかったのに。やっぱり先生は凄いや)
これからもいろいろなことを学びたいと意気揚々と、教室へ入ると――。
「……へ?」
そこにいたクラスメイトたちから、何故か睨みつけられてしまった。いつもは一瞥しただけで挨拶もしないといった様子なのに、今日はジ~ッと敵でも見るような目線である。
そこへ一人の女子生徒が近づいてきた。その女子の近くには、昨日アレリアと一緒にいた取り巻きの子たちがいる。
「ちょっと、聞いたわよキャロディルーナさん」
「き、聞いた? 何を?」
「アンタ、せっかくのアレリア様の厚意を無下にしたんだって?」
そこでピンときた。昨日アレリアとした模擬戦のことが、すでに教室中に広まっているのだと。中には無関心な者や、殺気めいたクラスにおどおどしている様子の生徒もいるが、大半は明らかにアミッツをよく思っていない者たちの視線で集まっている。
「べ、別に無下にしたわけじゃない。イグニースさんの忠告だって、ありがたいって思った」
「だったら」
「でも!」
「っ!?」
「でもボクはボクの道を行くだけだ!」
そう。諦めずに前を向いて歩いて行くと決めたのだから。
宣言して自分の席へ行こうとした時、その女子生徒に腕を掴まれた。
「あんたね、身の程ってもんを知りなさいよ」
「知ってるよ! だから頑張ってんだ!」
「あのね! 落ちこぼれがいくら頑張ってもムダだってことを知りなさいって言ってんのよ! それに聞いたわよ。アンタ、家庭教師なんか雇ってるんだって?」
「……!」
「どうせその家庭教師だって、僅かばかりの小銭にたかりたがるどうしようもない輩でしょ?」
その言葉に、全身の毛が逆立つような不愉快と怒りが込み上げる。
女子生徒の周りに立っている生徒たちがクスクスと笑い始めた。
先生のことを何も知らないくせに……と心が熱くなってくる。
「……今、何て言ったのさ?」
「はあ?」
「……ボクのことは好きなだけ何とでも言えばいい。けど!」
「ちょっ」
バッと勢いよく腕を振って、掴まれていた状態から解放される。
「けど、先生のことを悪く言うのは止めろ!」
「な、何よ。そんな目で見ても全然怖くないわよ。何の才能もないくせに、粋がってんじゃないわよ!」
ドンッと肩を押されて、アミッツは一歩退く。
そこへ一人の生徒が教室へと入ってくる。
「――? ごきげんよう。皆さん、このようなところに集まって何を……あら、キャロディルーナさんまで。……どうかされましたの?」
と、普段通り気品ある佇まいで登場したのは、今さっきも話題に上がっていたアレリア本人だった。
しかしアレリアの問いに、誰も目を泳がせて答えはしない。アレリアもさすがに眉をひそめて、ただならぬ雰囲気に気を揉んでいたようだが。
「…………取り消して」
「はい?」
と口に出したのはアレリアだ。しかし当然、アミッツの視線はイオに対し暴言を吐いた女子生徒に向けられている。
「さっき言ったこと、取り消して」
「と、取り消さないわよ! 落ちこぼれがふざけないでよね!」
ギリッとアミッツは歯を噛む。自分でもよく分からない。
けれどイオのことをバカにされるのは、まるで孤児院の家族をバカにされるのと同じくらい腹が立つのだ。
まだ会って間もないけれど、それでもイオは真摯にアミッツと向き合って、閉じかけていた道を指し示してくれる大事な人だ。
だからこそ、先程の彼女の言葉は許容できるものではない。
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