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「絵の方も雨の見極めも、最初は全然上手くいかなかったに決まってんだろ。何事も最初から上手くいくようなら、落ちこぼれなんてやってねえよ」
まあ、今も落ちこぼれの勇者をやっている自分が言える立場でもないかもしれないが。
「けど二カ月ほど毎日毎日繰り返すとな。ある日、身体の中にあった扉がガチャリって開く音がしたんだよ」
「も、もしかして先生もボクと同じ体質!?」
「いいや。今のはまあたとえみてえなもんだ。オレは元々魔力量そのものは結構あったからよ」
「そ、そうなんだ」
何だかガックリと残念そうだが、そんなに一緒の方が良かったのだろうか。本当に稀な体質だから、普通はそう滅多に鉢合わせすることなどないのだが。
「けどオレは何つうか、体術はともかく魔法が苦手でよ。前も言ったけど、コップ一杯分できっちり魔力を溜めるっていうようなコントロールが全然できなかったんだわ」
元来そういうちまちました几帳面さが要求されるものは苦手だったのだ。
「頭も悪かったし、座学の成績も底辺をウロウロしてたしな。まともなのは体術と、そこそこにある魔力量だけ。けど体術っていっても勇者としてみると、明らかに格下レベル。一般人に毛が生えたようなもんだ。これじゃ、体術や魔法を集中的に鍛えても、オレは上には行けねえって悟った」
「……だから先生は、別のことで一番になろうと?」
「ああそうだ。体術も魔法も天才に勝てねえっていうんなら――」
イオは自分の目を指差す。
「分析や、観察力で天才を超えてやろうって思ったんだ」
「分析……観察力……?」
「まあ、ピンとこねえわな。ならちょっと見てな」
イオはスッと目を細めると、そのまままるで誰かと対峙しているかのような雰囲気を醸し出す。
そこから一歩身を引いて、その勢いで身体を回転させる。
「あ、その動きは!?」
アミッツはそこで気づいたようだが、まだイオは終わらない。
回転したと同時に手刀と、下段蹴りを同時に放つ。そこでピタリと動きを止めた。
「今の動き、気づいたか?」
「う、うん! 今のってボクがイグニースさんと戦った時の、イグニースさんの動きだよね!」
思った以上に観察力と記憶力も優れていたんだなと、イオは感心した。
「そうだ。ちゃんとこの目で観察したからな。速度、威力ともにあの時のイグニースの嬢ちゃんとまったく同じだぜ」
「それが先生の力……なんだ」
「さっきも言ったな。修業をして二カ月で、己の中の扉が開いた音をしたって」
「う、うん」
「その日から、オレは見るものすべての動きを捉えることができるようになった。相手が爪の先ほどの動きをしても、それを正確に捉えることもできたし、僅かな眼球の動き、心臓の高鳴りでの肌の振動なんかもな。そんで、一度見ればそれを再現することもできるようになった」
「す、凄いよそれって!」
「最初は自分の目に戸惑ったぞ。まるで新しい世界に飛び込んだみてえな感じだったしな。生まれ変わったっていう表現が一番近いかもしれねえ。それからオレは、優秀な奴らの動きをひたすらこの目で追うことにした」
ゴクリとアミッツの喉が鳴る音が聞こえた。
「そうやって初めて人を観察してると、よく分かるんだよ。そいつがどうやって魔法を発動してるのか、発現する魔法に対してどうやって魔力量を量ってるのか、魔力の微細な動きまでもがハッキリと視認することができて、気が付けば一目見るだけで、何もかもが視えるようになっちまってた」
「な、何もかも……」
「それがオレの才能だった。勇者として戦っていける唯一無二の、な」
自分の力の使い方が分かったイオは、それからどうやったら自分に合った筋力の付け方ができるか、魔法の打ち方ができるかなど、神のような分析力を発揮して、力をつけていった。
それまで使えなかった呪文や、できなかった体術の動きなども、他の連中の動きを参考にすれば修業次第でできるようになっていたのだ。
「その力を身につけた次の〝勇者認定試験〟の時、オレは初めてランクアップを経験した。しかもスリーランクアップだ。その時のオレの喜びようは、ぜってー見せたくねえけどな」
通知が来た時は、無意識に涙を流していた。それからはまるでお祭り騒ぎだ。一晩中泣きながら笑い、好きなものを食べまくった。
リリーシュたち友人が呆れていたが、それでもその嬉しさは止まらなかったのを覚えている。
「その気持ち……分かるよ。きっとボクだって……」
「ああ。その喜びを得るためには、自分の才能を最大限に伸ばさねえといけねえんだ。焦る気持ちも分かるけどよ、自分のできることを確実に一歩ずつ進め。オレがこの二か月半で、お前を〝Cランク〟にしてやる」
「先生! うん!」
まあ、今も落ちこぼれの勇者をやっている自分が言える立場でもないかもしれないが。
「けど二カ月ほど毎日毎日繰り返すとな。ある日、身体の中にあった扉がガチャリって開く音がしたんだよ」
「も、もしかして先生もボクと同じ体質!?」
「いいや。今のはまあたとえみてえなもんだ。オレは元々魔力量そのものは結構あったからよ」
「そ、そうなんだ」
何だかガックリと残念そうだが、そんなに一緒の方が良かったのだろうか。本当に稀な体質だから、普通はそう滅多に鉢合わせすることなどないのだが。
「けどオレは何つうか、体術はともかく魔法が苦手でよ。前も言ったけど、コップ一杯分できっちり魔力を溜めるっていうようなコントロールが全然できなかったんだわ」
元来そういうちまちました几帳面さが要求されるものは苦手だったのだ。
「頭も悪かったし、座学の成績も底辺をウロウロしてたしな。まともなのは体術と、そこそこにある魔力量だけ。けど体術っていっても勇者としてみると、明らかに格下レベル。一般人に毛が生えたようなもんだ。これじゃ、体術や魔法を集中的に鍛えても、オレは上には行けねえって悟った」
「……だから先生は、別のことで一番になろうと?」
「ああそうだ。体術も魔法も天才に勝てねえっていうんなら――」
イオは自分の目を指差す。
「分析や、観察力で天才を超えてやろうって思ったんだ」
「分析……観察力……?」
「まあ、ピンとこねえわな。ならちょっと見てな」
イオはスッと目を細めると、そのまままるで誰かと対峙しているかのような雰囲気を醸し出す。
そこから一歩身を引いて、その勢いで身体を回転させる。
「あ、その動きは!?」
アミッツはそこで気づいたようだが、まだイオは終わらない。
回転したと同時に手刀と、下段蹴りを同時に放つ。そこでピタリと動きを止めた。
「今の動き、気づいたか?」
「う、うん! 今のってボクがイグニースさんと戦った時の、イグニースさんの動きだよね!」
思った以上に観察力と記憶力も優れていたんだなと、イオは感心した。
「そうだ。ちゃんとこの目で観察したからな。速度、威力ともにあの時のイグニースの嬢ちゃんとまったく同じだぜ」
「それが先生の力……なんだ」
「さっきも言ったな。修業をして二カ月で、己の中の扉が開いた音をしたって」
「う、うん」
「その日から、オレは見るものすべての動きを捉えることができるようになった。相手が爪の先ほどの動きをしても、それを正確に捉えることもできたし、僅かな眼球の動き、心臓の高鳴りでの肌の振動なんかもな。そんで、一度見ればそれを再現することもできるようになった」
「す、凄いよそれって!」
「最初は自分の目に戸惑ったぞ。まるで新しい世界に飛び込んだみてえな感じだったしな。生まれ変わったっていう表現が一番近いかもしれねえ。それからオレは、優秀な奴らの動きをひたすらこの目で追うことにした」
ゴクリとアミッツの喉が鳴る音が聞こえた。
「そうやって初めて人を観察してると、よく分かるんだよ。そいつがどうやって魔法を発動してるのか、発現する魔法に対してどうやって魔力量を量ってるのか、魔力の微細な動きまでもがハッキリと視認することができて、気が付けば一目見るだけで、何もかもが視えるようになっちまってた」
「な、何もかも……」
「それがオレの才能だった。勇者として戦っていける唯一無二の、な」
自分の力の使い方が分かったイオは、それからどうやったら自分に合った筋力の付け方ができるか、魔法の打ち方ができるかなど、神のような分析力を発揮して、力をつけていった。
それまで使えなかった呪文や、できなかった体術の動きなども、他の連中の動きを参考にすれば修業次第でできるようになっていたのだ。
「その力を身につけた次の〝勇者認定試験〟の時、オレは初めてランクアップを経験した。しかもスリーランクアップだ。その時のオレの喜びようは、ぜってー見せたくねえけどな」
通知が来た時は、無意識に涙を流していた。それからはまるでお祭り騒ぎだ。一晩中泣きながら笑い、好きなものを食べまくった。
リリーシュたち友人が呆れていたが、それでもその嬉しさは止まらなかったのを覚えている。
「その気持ち……分かるよ。きっとボクだって……」
「ああ。その喜びを得るためには、自分の才能を最大限に伸ばさねえといけねえんだ。焦る気持ちも分かるけどよ、自分のできることを確実に一歩ずつ進め。オレがこの二か月半で、お前を〝Cランク〟にしてやる」
「先生! うん!」
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