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――北地区・《キャロディルーナ孤児院》。
地区の中でもまるで端に追いやられるようにしてひっそりと佇む教会。そこを孤児院として活用しているのだ。
レンガ調の壁に囲まれており、その中央に年季を感じさせる教会の建物があり、そこがアミッツのが育った家である。
小さな礼拝堂もあり、朝と夜は必ずそこに足を運んで祈りを捧げるのだ。
孤児院の経営者であるマザーを筆頭に、子供たちが全部で十一人もいる。小さな保育園のような場所だ。
「――ただいまー」
イオと一緒に帰って来たアミッツがそう口にする。
同時に教会の周りで遊んでいた子供たちが一斉にイオたちに注目した。
「「「「アミねえちゃ~んっ!」」」」
子供たちが一目散にアミッツに向かって駆け出す。アミッツも膝を折って、子供たちを迎え入れる。
一人一人、子供たちの「おかえり」という言葉に対し、「ただいま」を返していく。
そこへ外の騒ぎを聞きつけたのか、教会の扉が開き、そこから数人の子供と一人のシスターが姿を見せる。
「おやおや、帰って来てたんだね、アミッツ……ん?」
シスターの視線がイオへと向き目を見開く。
「よぉ、マザー」
「……ま、まさかイオかい? イオ・カミツキ?」
「元気そうで何よりだな、マザー」
「まったく、来るんなら事前に連絡くらい入れな。何も用意してないよ!」
「別にいいって。たかりに来たわけじゃねえんだし」
マザーは昔と同じシスター服姿で現れた。ただイオが学院に通っていた時と比べると、少しやつれているようにも見える。
ここ数年、子供たちのために頑張ってきたのだろう。
「……? けど何でアンタがここにいるんだい? しかもアミッツと一緒に帰ってきたみたいだけど」
「あ、それはねマザー」
どうやらアミッツはまだ家庭教師を雇ったことを話していなかったようだ。
それからしばらくアミッツの説明に、その場の全員が耳を傾けていた。
「――――なるほど。あの悪ガキだったアンタが、まさか立派な勇者になって、その上アミッツの家庭教師をするとは。時代は流れてるってことだ」
歳の頃は六十代近いマザー。それでも昔からこの柔和な笑みだけは、イオも好きだった。何だか安心させてくれる温かさを感じるからだ。
しわが目立ってきた顔立ちだが、まだまだグレーの瞳に宿る光は力強く、見ているだけで生きる力を貰えるかのよう。
「ねえねえ、アミねえちゃん。けてーきょーしってなに?」
「家庭教師ね、家庭教師。簡単に言ったら、ここでいろんなことを教えてくれる先生だよ」
子供の純粋な問いにしっかりと答えるアミッツ。その姿が何とも微笑ましい。子供たちも「そっかぁ! すっごいな、けてーきょーし!」と微妙な発音で繰り返している。
ここにいる子供たちはまだ四、五歳の子が多い。最年長が十四歳のアミッツで、次が十歳と四つも離れている。
「とにかく、あの悪ガキが帰ってきたんだ。今日は歓迎さね」
「いいってマザー。オレはただの家庭教師なんだしよぉ」
「反論は許さないよ。さあ、お前たち夕食の準備に取り掛かるよ!」
「「「「は~い!」」」」
マザーの言葉に素直に子供たちも従う。
「はぁ、相変わらず強引なシスターだな。あれじゃ神もビックリだろうぜ」
「あはは、それ言えてる。何か逆に神様とかに説教とかしちゃいそうだし」
アミッツも同様の意見のようだ。
「ほれ、何してんだい! アミッツも手伝いな!」
「あ、はーい! 先生、修業は夕食の後でいいですか?」
「おう。オレもご馳走になれるみてえだしな。何か手伝えることがあったらやるぞ?」
「ううん、いいって。先生の歓迎みたいだし、あ、でもそうだなぁ。せっかくだから、この子たちと遊んでやってくれる?」
そう言って、アミッツが自分の後ろで興味深そうな視線をイオにぶつけていた二人の子供を見せてくる。
「ほ~ら、リリ、ロロ、遊んでもらったらどう?」
背中を押されてイオの前に出てくる二人の子供。二人とも五歳くらいだ。しかも顔立ちも青色の髪型以外似通っていた。
「「…………遊んで……くれる?」」
さらにハモってくる。
「もしかして双子……か?」
「うん。こっちのポニーテールの子はリリで、ツインテールの子はロロだよ」
ジ~ッと上目遣いで見つめてくる双子らしき者たちをイオは見つめながら、
「……よし、ならオレがとっておきの遊びを教えてやろう」
と言うと、双子の顔が同時に綻びコクコクと素早く頷く。
それを見届けるとアミッツは教会の中へと入って行った。
残されたイオは、とりあえず膝を折って同じ目線を保つ。
「いいかお前ら――――――――〝だるまさんがころんだ〟って知ってるか?」
地区の中でもまるで端に追いやられるようにしてひっそりと佇む教会。そこを孤児院として活用しているのだ。
レンガ調の壁に囲まれており、その中央に年季を感じさせる教会の建物があり、そこがアミッツのが育った家である。
小さな礼拝堂もあり、朝と夜は必ずそこに足を運んで祈りを捧げるのだ。
孤児院の経営者であるマザーを筆頭に、子供たちが全部で十一人もいる。小さな保育園のような場所だ。
「――ただいまー」
イオと一緒に帰って来たアミッツがそう口にする。
同時に教会の周りで遊んでいた子供たちが一斉にイオたちに注目した。
「「「「アミねえちゃ~んっ!」」」」
子供たちが一目散にアミッツに向かって駆け出す。アミッツも膝を折って、子供たちを迎え入れる。
一人一人、子供たちの「おかえり」という言葉に対し、「ただいま」を返していく。
そこへ外の騒ぎを聞きつけたのか、教会の扉が開き、そこから数人の子供と一人のシスターが姿を見せる。
「おやおや、帰って来てたんだね、アミッツ……ん?」
シスターの視線がイオへと向き目を見開く。
「よぉ、マザー」
「……ま、まさかイオかい? イオ・カミツキ?」
「元気そうで何よりだな、マザー」
「まったく、来るんなら事前に連絡くらい入れな。何も用意してないよ!」
「別にいいって。たかりに来たわけじゃねえんだし」
マザーは昔と同じシスター服姿で現れた。ただイオが学院に通っていた時と比べると、少しやつれているようにも見える。
ここ数年、子供たちのために頑張ってきたのだろう。
「……? けど何でアンタがここにいるんだい? しかもアミッツと一緒に帰ってきたみたいだけど」
「あ、それはねマザー」
どうやらアミッツはまだ家庭教師を雇ったことを話していなかったようだ。
それからしばらくアミッツの説明に、その場の全員が耳を傾けていた。
「――――なるほど。あの悪ガキだったアンタが、まさか立派な勇者になって、その上アミッツの家庭教師をするとは。時代は流れてるってことだ」
歳の頃は六十代近いマザー。それでも昔からこの柔和な笑みだけは、イオも好きだった。何だか安心させてくれる温かさを感じるからだ。
しわが目立ってきた顔立ちだが、まだまだグレーの瞳に宿る光は力強く、見ているだけで生きる力を貰えるかのよう。
「ねえねえ、アミねえちゃん。けてーきょーしってなに?」
「家庭教師ね、家庭教師。簡単に言ったら、ここでいろんなことを教えてくれる先生だよ」
子供の純粋な問いにしっかりと答えるアミッツ。その姿が何とも微笑ましい。子供たちも「そっかぁ! すっごいな、けてーきょーし!」と微妙な発音で繰り返している。
ここにいる子供たちはまだ四、五歳の子が多い。最年長が十四歳のアミッツで、次が十歳と四つも離れている。
「とにかく、あの悪ガキが帰ってきたんだ。今日は歓迎さね」
「いいってマザー。オレはただの家庭教師なんだしよぉ」
「反論は許さないよ。さあ、お前たち夕食の準備に取り掛かるよ!」
「「「「は~い!」」」」
マザーの言葉に素直に子供たちも従う。
「はぁ、相変わらず強引なシスターだな。あれじゃ神もビックリだろうぜ」
「あはは、それ言えてる。何か逆に神様とかに説教とかしちゃいそうだし」
アミッツも同様の意見のようだ。
「ほれ、何してんだい! アミッツも手伝いな!」
「あ、はーい! 先生、修業は夕食の後でいいですか?」
「おう。オレもご馳走になれるみてえだしな。何か手伝えることがあったらやるぞ?」
「ううん、いいって。先生の歓迎みたいだし、あ、でもそうだなぁ。せっかくだから、この子たちと遊んでやってくれる?」
そう言って、アミッツが自分の後ろで興味深そうな視線をイオにぶつけていた二人の子供を見せてくる。
「ほ~ら、リリ、ロロ、遊んでもらったらどう?」
背中を押されてイオの前に出てくる二人の子供。二人とも五歳くらいだ。しかも顔立ちも青色の髪型以外似通っていた。
「「…………遊んで……くれる?」」
さらにハモってくる。
「もしかして双子……か?」
「うん。こっちのポニーテールの子はリリで、ツインテールの子はロロだよ」
ジ~ッと上目遣いで見つめてくる双子らしき者たちをイオは見つめながら、
「……よし、ならオレがとっておきの遊びを教えてやろう」
と言うと、双子の顔が同時に綻びコクコクと素早く頷く。
それを見届けるとアミッツは教会の中へと入って行った。
残されたイオは、とりあえず膝を折って同じ目線を保つ。
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