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「アレリア様?」
「あなたたちはお静かにしていなさい」
「ですが……」
「分かりましたね?」
「「……はい」」
取り巻きを大人しくさせると、いまだに不敵に笑みを浮かべているイオに向かってアレリアが尋ねる。
「ご紹介が遅れました。私はアレリア・イグニース。お察しの通り、そこのキャロディルーナさんとはクラスメイトですわ」
「……! へぇ、イグニースの嬢ちゃんってわけか。そういや、どことなくクレミィに雰囲気似てるな」
「お姉さまをご存知なのですか!?」
「あ、やっぱアイツの妹だったか」
「……姉とはどういうお関係ですの?」
「別に。昔殺し合った仲だな、うん」
「こっ……!?」
その衝撃告白にはこの場にいるイオ以外が息を呑んだ。
「まあ、冗談だけど」
「じょっ…………なるほど、どうやら人を小馬鹿にするのが得意なようですわね」
アレリアは苦笑を浮かべながらも、額にはピクピクと青筋を浮かばせている。
「おいおい、仮にも勇者を目指してんだろ? だったらそんなことでいちいち動揺してどうするよ。魔族なんて、もっとド汚え真似してくっぞ?」
「!? ……魔族との戦闘経験がおありなのですか?」
「まあな。じゃなかったら、コイツを立派な勇者に育てられねえだろうが」
そう言って、少し乱暴に頭を撫でてくるが、何故か別に嫌だとは思わなかった。
「育てる……? 一体あなたは?」
「今度はこっちが紹介すっか。オレはイオ・カミツキ。コイツの――家庭教師だ」
家庭教師という言葉を聞いて、取り巻きの二人は「は?」となって小首を傾げているが、
「イオ……カミツキ? ……カミツキ? その名前……どこかで」
アレリアだけは聞き覚えがあるのかイオを観察しながら呟いていた。しかし彼女が正体を見極める前に、イオが口を動かす。
「さっきの模擬戦、一部始終を見せてもらった。さすがはあのイグニースの血族だ。魔力の練りも身体の運びもなかなかに上手い」
「……それはどうもですわ」
「それにお前がコイツに言ったことはほとんど合ってるしな」
イオがそう認めたことにショックを受けてしまった。せめて家庭教師であるイオが、アレリアの言うことを全面否定し、味方になってくれると思っていたから……。
裏切り……ではないが、言葉の衝撃で涙が出そうになってくる。しかしその時、ポンポンと優しく頭を叩かれた。見上げれば、イオが優しげな笑みを向けてきていることに気づく。
そのまま彼は視線をアレリアへと移し、
「お前は言ったな。根性だけじゃ壁は乗り越えられねえって」
「……はい」
「それはそうだろうな。根性出せば誰でも壁が乗り越えられるとは限らねえ」
やはりそうなんだろうか、と不安になってくる。
「勇者の世界は厳しい。何せ今まで輩出された勇者は百五十年間で一万人以上もいるってのに、残ってるのは二千人ほどだ。この学院から卒業して勇者になった奴でも、半分はすぐに死ぬ。それが通例みてえなもんだ」
そういうデータは確かに存在している。それだけ勇者業は常に危険と隣り合わせなのだ。
「だからこそ、生きるためには強さがいる。賢さだけじゃなく、本物の強さがな。つまり、戦い抜ける才能が必要になるわけだ」
「その通りですわ。優秀だと判断された勇者も、魔族と戦い呆気なく命を散らしたという話は、決して珍しくはありません」
「よく知ってるじゃねえか。その通りだ。この世界は、才能がなけりゃぜってー生き残ることなんてできねえ」
「あなたもよく分かっているご様子で」
「体術の才能、魔法の才能、武器の才能、それらがあるほど生き残る確率が上がる」
「まさしく。ですから私は、何の才能もないキャロディルーナさんに、この学院を去るように勧めたのですわ。彼女の知識を蓄える才能は見事です。それは座学でも証明されております。ですから学者や医者に向いていると」
「……お前はコイツに勇者としての才がねえって言ったわけだ」
「そういうことです。現に――」
「それが間違ってるんだよ」
「……はい?」
「さっき言ったろ? 確かにお前の言ったことはほとんど合ってるって。けど全部じゃねえ」
「……?」
「お前のコイツに対する評価が間違ってるって言ってんだ」
問い返したアレリアだけでなく、アミッツもまたイオの顔を目をしばたかせて見つめた。
「確かにコイツには武器を扱う才も、体術の才も、魔法の才だってねえように見えるよな。魔法なんていまだに《下級呪文》だってまともに使えねえんだからな」
その物言いにガックリと思わず肩を落としてしまう。
「……けどよ。何の才能もねえってわけじゃねえ」
「「へ?」」
アレリアと同時に声を発してしまった。
「コイツには、どんな勇者でも手にできねえ、喉から手が出るほどの才能があんだよ」
「そ、そんなものあるわけが……!」
アレリアも慧眼の持ち主でもある。だからこそ、自分が見抜けていない才能があるわけがないと思っているのかもしれない。
「ある! いいか、コイツには魔王も驚くほどの強大な魔力の才に恵まれてる」
「……は、はい? あなたは何を仰っているんですの?」
「まあ、当然の反応だわな。今のコイツの表面しか見ることができねえお前らじゃ」
「ひょ、表面?」
「ならここで宣言してやるよ。確かコイツは今、〝Fランク〟だったよな? 今度の〝勇者認定試験〟じゃ、そのランクを〝C〟にはしてやる」
「「「「っ!?」」」」
イオ以外の全員が目を丸くするような発言を聞いた。
「ふ、不可能ですっ! 次の試験までたった二カ月半ほどしかないんですのよ! それなのに一つのランクアップどころか、いきなりスリーランクアップだなんて、ありえませんわ!」
「そうか? 一応過去例だってあるんだけどな」
「そ、そんな例なんて……い、いえ、確か姉の世代の時に一度の試験でスリーランクアップした者がいたとは聞いたことがありましたが……」
「あるじゃねえか」
「し、しかしそれは例外中の例外ですわ! それにその方には才能があった、それだけです!」
「だから言ってんじゃねえか。コイツにも才能があるってよ」
「ですから、魔力の才能など欠片も――」
「うるせえな」
その時、全員が身体を硬直させて動けなくなった。
何故なら、イオから一気に放出された魔力がただならぬ量だったからである。
「な、んという……っ!?」
アレリアだけでなく、取り巻き、それに……。
(す、凄い魔力量……!? これが最下位からトップ合格までのし上がった人の魔力量!?)
それは自分が扉を開いた時以上の魔力量だった。いや、それよりも魔力に込められている質というか圧力が普通ではない。
まるでそこにいるだけで、激しい熱風を受けているかのような息苦しささえ覚える。
「――一つ言っておくぜ。コイツの潜在魔力量は、オレよりも――遥かに上だ」
パクパクと言葉にならない様子のアレリアたち。
そのまま楽しげな笑みを浮かべたイオの足元から魔法陣が広がり、必然的にその近くにいるアミッツもその上に乗ることに。
「んじゃ、次の試験を楽しみにしてるこったな。ぜってー驚くからよ」
パチンとウィンクをすると同時に、魔法陣が輝きを放ち、アミッツとイオはその場から一瞬にして姿を消した。
「あなたたちはお静かにしていなさい」
「ですが……」
「分かりましたね?」
「「……はい」」
取り巻きを大人しくさせると、いまだに不敵に笑みを浮かべているイオに向かってアレリアが尋ねる。
「ご紹介が遅れました。私はアレリア・イグニース。お察しの通り、そこのキャロディルーナさんとはクラスメイトですわ」
「……! へぇ、イグニースの嬢ちゃんってわけか。そういや、どことなくクレミィに雰囲気似てるな」
「お姉さまをご存知なのですか!?」
「あ、やっぱアイツの妹だったか」
「……姉とはどういうお関係ですの?」
「別に。昔殺し合った仲だな、うん」
「こっ……!?」
その衝撃告白にはこの場にいるイオ以外が息を呑んだ。
「まあ、冗談だけど」
「じょっ…………なるほど、どうやら人を小馬鹿にするのが得意なようですわね」
アレリアは苦笑を浮かべながらも、額にはピクピクと青筋を浮かばせている。
「おいおい、仮にも勇者を目指してんだろ? だったらそんなことでいちいち動揺してどうするよ。魔族なんて、もっとド汚え真似してくっぞ?」
「!? ……魔族との戦闘経験がおありなのですか?」
「まあな。じゃなかったら、コイツを立派な勇者に育てられねえだろうが」
そう言って、少し乱暴に頭を撫でてくるが、何故か別に嫌だとは思わなかった。
「育てる……? 一体あなたは?」
「今度はこっちが紹介すっか。オレはイオ・カミツキ。コイツの――家庭教師だ」
家庭教師という言葉を聞いて、取り巻きの二人は「は?」となって小首を傾げているが、
「イオ……カミツキ? ……カミツキ? その名前……どこかで」
アレリアだけは聞き覚えがあるのかイオを観察しながら呟いていた。しかし彼女が正体を見極める前に、イオが口を動かす。
「さっきの模擬戦、一部始終を見せてもらった。さすがはあのイグニースの血族だ。魔力の練りも身体の運びもなかなかに上手い」
「……それはどうもですわ」
「それにお前がコイツに言ったことはほとんど合ってるしな」
イオがそう認めたことにショックを受けてしまった。せめて家庭教師であるイオが、アレリアの言うことを全面否定し、味方になってくれると思っていたから……。
裏切り……ではないが、言葉の衝撃で涙が出そうになってくる。しかしその時、ポンポンと優しく頭を叩かれた。見上げれば、イオが優しげな笑みを向けてきていることに気づく。
そのまま彼は視線をアレリアへと移し、
「お前は言ったな。根性だけじゃ壁は乗り越えられねえって」
「……はい」
「それはそうだろうな。根性出せば誰でも壁が乗り越えられるとは限らねえ」
やはりそうなんだろうか、と不安になってくる。
「勇者の世界は厳しい。何せ今まで輩出された勇者は百五十年間で一万人以上もいるってのに、残ってるのは二千人ほどだ。この学院から卒業して勇者になった奴でも、半分はすぐに死ぬ。それが通例みてえなもんだ」
そういうデータは確かに存在している。それだけ勇者業は常に危険と隣り合わせなのだ。
「だからこそ、生きるためには強さがいる。賢さだけじゃなく、本物の強さがな。つまり、戦い抜ける才能が必要になるわけだ」
「その通りですわ。優秀だと判断された勇者も、魔族と戦い呆気なく命を散らしたという話は、決して珍しくはありません」
「よく知ってるじゃねえか。その通りだ。この世界は、才能がなけりゃぜってー生き残ることなんてできねえ」
「あなたもよく分かっているご様子で」
「体術の才能、魔法の才能、武器の才能、それらがあるほど生き残る確率が上がる」
「まさしく。ですから私は、何の才能もないキャロディルーナさんに、この学院を去るように勧めたのですわ。彼女の知識を蓄える才能は見事です。それは座学でも証明されております。ですから学者や医者に向いていると」
「……お前はコイツに勇者としての才がねえって言ったわけだ」
「そういうことです。現に――」
「それが間違ってるんだよ」
「……はい?」
「さっき言ったろ? 確かにお前の言ったことはほとんど合ってるって。けど全部じゃねえ」
「……?」
「お前のコイツに対する評価が間違ってるって言ってんだ」
問い返したアレリアだけでなく、アミッツもまたイオの顔を目をしばたかせて見つめた。
「確かにコイツには武器を扱う才も、体術の才も、魔法の才だってねえように見えるよな。魔法なんていまだに《下級呪文》だってまともに使えねえんだからな」
その物言いにガックリと思わず肩を落としてしまう。
「……けどよ。何の才能もねえってわけじゃねえ」
「「へ?」」
アレリアと同時に声を発してしまった。
「コイツには、どんな勇者でも手にできねえ、喉から手が出るほどの才能があんだよ」
「そ、そんなものあるわけが……!」
アレリアも慧眼の持ち主でもある。だからこそ、自分が見抜けていない才能があるわけがないと思っているのかもしれない。
「ある! いいか、コイツには魔王も驚くほどの強大な魔力の才に恵まれてる」
「……は、はい? あなたは何を仰っているんですの?」
「まあ、当然の反応だわな。今のコイツの表面しか見ることができねえお前らじゃ」
「ひょ、表面?」
「ならここで宣言してやるよ。確かコイツは今、〝Fランク〟だったよな? 今度の〝勇者認定試験〟じゃ、そのランクを〝C〟にはしてやる」
「「「「っ!?」」」」
イオ以外の全員が目を丸くするような発言を聞いた。
「ふ、不可能ですっ! 次の試験までたった二カ月半ほどしかないんですのよ! それなのに一つのランクアップどころか、いきなりスリーランクアップだなんて、ありえませんわ!」
「そうか? 一応過去例だってあるんだけどな」
「そ、そんな例なんて……い、いえ、確か姉の世代の時に一度の試験でスリーランクアップした者がいたとは聞いたことがありましたが……」
「あるじゃねえか」
「し、しかしそれは例外中の例外ですわ! それにその方には才能があった、それだけです!」
「だから言ってんじゃねえか。コイツにも才能があるってよ」
「ですから、魔力の才能など欠片も――」
「うるせえな」
その時、全員が身体を硬直させて動けなくなった。
何故なら、イオから一気に放出された魔力がただならぬ量だったからである。
「な、んという……っ!?」
アレリアだけでなく、取り巻き、それに……。
(す、凄い魔力量……!? これが最下位からトップ合格までのし上がった人の魔力量!?)
それは自分が扉を開いた時以上の魔力量だった。いや、それよりも魔力に込められている質というか圧力が普通ではない。
まるでそこにいるだけで、激しい熱風を受けているかのような息苦しささえ覚える。
「――一つ言っておくぜ。コイツの潜在魔力量は、オレよりも――遥かに上だ」
パクパクと言葉にならない様子のアレリアたち。
そのまま楽しげな笑みを浮かべたイオの足元から魔法陣が広がり、必然的にその近くにいるアミッツもその上に乗ることに。
「んじゃ、次の試験を楽しみにしてるこったな。ぜってー驚くからよ」
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