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「そうだな。大抵の奴らなら、それで成果はあるだろうな。けどお前は違う」
「ち、違う……?」
「そうだ。現にそんだけ修業して、《下級呪文》を使いこなせるようになったのか?」
「それは……」
ここ九カ月間、必死でやってきたが、《下級呪文》すらまともに使えずにいる。まともに扱えるのは、先程の《癒しの花香》の他、あと二つほど。
それ以外は、どれだけ修業しても一向に上手く使いこなせずにいる。
「お前は生まれつき、ある欠陥を持ってる」
「け、欠陥……!?」
その言葉を聞くのは初めてではない。欠陥生徒と他の生徒から言われることもあるからだ。しかしそんなものは努力で何とでもなると自分に言い聞かせ続けてきた。
だがこうやって家庭教師にも真実を突きつけられると、やはり心が痛い。
アミッツは悲しくなり顔を俯かせていると、不意に頭の上に何かの温もりが置かれた。
「勘違いすんじゃねえぞ」
「……へ?」
上を見上げれば、そこには自分の手を、アミッツの頭に置きながら笑顔を浮かべているイオがいた。
「お前の欠陥は確かに短所だけどよ、それが長所にもなるんだ」
「長所……? それは本当?」
とても信じられない。欠陥は欠陥で、短所は短所だ。それが良い結果を生んでくれるとは到底思えない。
「嘘なんてつかねえよ。それを今から教えてやる」
彼はそう言うと、静かにある言葉を紡いだ。
「――――――《鍵外し》」
イオが呪文を唱えた刹那、足元に魔法陣が広がり、その中心にいるアミッツの身体が淡く光り始める。
さらに身体の奥底から――カチャリ……と乾いた音が脳に直接響いた。
直後、全身から信じられないほどの魔力が溢れ出てくる。
「――っ!?」
「感じるか。お前が今まで《下級呪文》すらまともに扱えなかった理由――それは生まれつき魔力の引き出し方が二つしかねえからだ」
「引き出し方が……二つ?」
「ん~そうだな。水道の蛇口をイメージしろ」
そう言われて、頭の中に洗面所などにある普通の蛇口を想像する。
「普通、蛇口を捻れば水が出るよな?」
「うん」
「そんで、用途によって蛇口の開け方がある。少し捻ればチョロチョロと水が出て、さらに捻ればコップ一杯分の水ならすぐに溜まるくらい出るし、さらに捻れば洗面器にもすぐに溜まるほど。限界に捻ればさらに、といった具合に使い分けることができるわけだ」
誰もが知っている当たり前のことだ。
「そんで、これを魔法に当てはめていうと、だ。たとえば、コップ一杯分水を溜めると――《赤い火球》」
突如、イオが胸の前当たりに上げた右手から小さな火の玉が出現し、宙にプカプカと浮く。
「この程度の呪文が使えるとしよう」
「う、うん!」
「そんで、お猪口一杯分で、さっきお前が使った《癒しの花香》とする」
「お、お猪口一杯分……?」
「そうだ。だからお前は《下級呪文》が使えない」
「……よく分からないんだけど」
「つまり人の身体を水道の蛇口にたとえると、お前の蛇口は、ほんの少しだけしか捻ることができずにチョロチョロとしか魔力を捻出することができねえ」
「……なるほど」
「お猪口一杯分くらいならすぐに魔力を溜めて《癒しの花香》くらいなら使えるけど、ほとんどの《下級呪文》はコップ一杯分は必要だ。だから使えるまでに時間がかかるし、とても現実的じゃねえってことだ」
まさか自分の魔力の取り出し方に、そんな欠陥があったとは……。
確かにそれが真実ならば、いくらすぐに取り出した魔力で呪文を唱えても使えなかったわけだ。単純に魔力の量が足りていないのだから。
「そして今のお前だ」
彼が人差し指を突き出してきた。
「今、大量の魔力がお前の身体から溢れてるが、これは蛇口が壊れたような状態だ。いや、蛇口どころかダムが決壊してるような感じだ」
ダムとはまた大きく例えられたものである。
「いいか。呪文ってのは、きっちりとした魔力量でしか発現することができねえ。足りても溢れてもダメ。用意された器の中にきっちりと魔力量を収めて初めて使用できる。お前の場合、それが非常に困難だ。というか向いてねえ」
「む、向いてない……っ」
グサッと心に突き刺さる言葉だ。
「それもそうだろ? ダムが決壊した勢いの水をどうやってコップ一杯分キッチリ収められるんだ? 溢れたらダメなんだぞ。そもそも一度に捻出できる魔力量が、コップ一杯分を優に超えてるんだから、そもそもムリな話だし」
「そ、それは……確かに」
「あとは時間をかなりかけて溜めるしかねえが、お猪口一杯分ですら数秒かかるのに、《下級呪文》をまともに使うにはどれだけ時間かかることやら」
彼の言う通り、的を射た説明だった。
前者の方は、まず一生コップ一杯分でキッチリ収めることなど不可能だろう。後者の方も、コップ一杯溜めるためにかなりの時間をかけなければならないし、かけたとしても使えるのはようやく《下級呪文》の《赤い火球》程度。それ以上になればさらに時間がかかる。
確かに現実的な話ではない。
「ち、違う……?」
「そうだ。現にそんだけ修業して、《下級呪文》を使いこなせるようになったのか?」
「それは……」
ここ九カ月間、必死でやってきたが、《下級呪文》すらまともに使えずにいる。まともに扱えるのは、先程の《癒しの花香》の他、あと二つほど。
それ以外は、どれだけ修業しても一向に上手く使いこなせずにいる。
「お前は生まれつき、ある欠陥を持ってる」
「け、欠陥……!?」
その言葉を聞くのは初めてではない。欠陥生徒と他の生徒から言われることもあるからだ。しかしそんなものは努力で何とでもなると自分に言い聞かせ続けてきた。
だがこうやって家庭教師にも真実を突きつけられると、やはり心が痛い。
アミッツは悲しくなり顔を俯かせていると、不意に頭の上に何かの温もりが置かれた。
「勘違いすんじゃねえぞ」
「……へ?」
上を見上げれば、そこには自分の手を、アミッツの頭に置きながら笑顔を浮かべているイオがいた。
「お前の欠陥は確かに短所だけどよ、それが長所にもなるんだ」
「長所……? それは本当?」
とても信じられない。欠陥は欠陥で、短所は短所だ。それが良い結果を生んでくれるとは到底思えない。
「嘘なんてつかねえよ。それを今から教えてやる」
彼はそう言うと、静かにある言葉を紡いだ。
「――――――《鍵外し》」
イオが呪文を唱えた刹那、足元に魔法陣が広がり、その中心にいるアミッツの身体が淡く光り始める。
さらに身体の奥底から――カチャリ……と乾いた音が脳に直接響いた。
直後、全身から信じられないほどの魔力が溢れ出てくる。
「――っ!?」
「感じるか。お前が今まで《下級呪文》すらまともに扱えなかった理由――それは生まれつき魔力の引き出し方が二つしかねえからだ」
「引き出し方が……二つ?」
「ん~そうだな。水道の蛇口をイメージしろ」
そう言われて、頭の中に洗面所などにある普通の蛇口を想像する。
「普通、蛇口を捻れば水が出るよな?」
「うん」
「そんで、用途によって蛇口の開け方がある。少し捻ればチョロチョロと水が出て、さらに捻ればコップ一杯分の水ならすぐに溜まるくらい出るし、さらに捻れば洗面器にもすぐに溜まるほど。限界に捻ればさらに、といった具合に使い分けることができるわけだ」
誰もが知っている当たり前のことだ。
「そんで、これを魔法に当てはめていうと、だ。たとえば、コップ一杯分水を溜めると――《赤い火球》」
突如、イオが胸の前当たりに上げた右手から小さな火の玉が出現し、宙にプカプカと浮く。
「この程度の呪文が使えるとしよう」
「う、うん!」
「そんで、お猪口一杯分で、さっきお前が使った《癒しの花香》とする」
「お、お猪口一杯分……?」
「そうだ。だからお前は《下級呪文》が使えない」
「……よく分からないんだけど」
「つまり人の身体を水道の蛇口にたとえると、お前の蛇口は、ほんの少しだけしか捻ることができずにチョロチョロとしか魔力を捻出することができねえ」
「……なるほど」
「お猪口一杯分くらいならすぐに魔力を溜めて《癒しの花香》くらいなら使えるけど、ほとんどの《下級呪文》はコップ一杯分は必要だ。だから使えるまでに時間がかかるし、とても現実的じゃねえってことだ」
まさか自分の魔力の取り出し方に、そんな欠陥があったとは……。
確かにそれが真実ならば、いくらすぐに取り出した魔力で呪文を唱えても使えなかったわけだ。単純に魔力の量が足りていないのだから。
「そして今のお前だ」
彼が人差し指を突き出してきた。
「今、大量の魔力がお前の身体から溢れてるが、これは蛇口が壊れたような状態だ。いや、蛇口どころかダムが決壊してるような感じだ」
ダムとはまた大きく例えられたものである。
「いいか。呪文ってのは、きっちりとした魔力量でしか発現することができねえ。足りても溢れてもダメ。用意された器の中にきっちりと魔力量を収めて初めて使用できる。お前の場合、それが非常に困難だ。というか向いてねえ」
「む、向いてない……っ」
グサッと心に突き刺さる言葉だ。
「それもそうだろ? ダムが決壊した勢いの水をどうやってコップ一杯分キッチリ収められるんだ? 溢れたらダメなんだぞ。そもそも一度に捻出できる魔力量が、コップ一杯分を優に超えてるんだから、そもそもムリな話だし」
「そ、それは……確かに」
「あとは時間をかなりかけて溜めるしかねえが、お猪口一杯分ですら数秒かかるのに、《下級呪文》をまともに使うにはどれだけ時間かかることやら」
彼の言う通り、的を射た説明だった。
前者の方は、まず一生コップ一杯分でキッチリ収めることなど不可能だろう。後者の方も、コップ一杯溜めるためにかなりの時間をかけなければならないし、かけたとしても使えるのはようやく《下級呪文》の《赤い火球》程度。それ以上になればさらに時間がかかる。
確かに現実的な話ではない。
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