落ちこぼれ勇者の家庭教師

十本スイ

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「ど、どどどどどいうことなのぉ!?」
「お、落ち着いてっ、アミッツ!」
「だ、だってだって! だってぇ……!」

 アミッツの気持ちも分かる。いきなり知らない男に合わされて、家庭教師として雇えと言われても困惑するのが普通だ。それにどうやらリリーシュが、イオの過去を少し教えていたようで、そのことも驚いてるようである。

「とりあえずコイツはね、多分あなたに適任なのよ」
「て、適任……?」

 その言葉にはイオも興味を引かれた。

(まあ、リリーシュが目をかけてるんだから、それなりのものを持ってるんだろうけどな)

 だが自分が適任とはどういうことか、まだ真意が分からない。

(そういやコイツの魔力……こいつは……)

 アミッツの体内に宿る魔力を感じ取ったのだが、そこに妙な違和感を覚えていた。

「コイツなら、今のあなたの気持ちも理解することができるだろうし、それに――人を見抜く才能に関していえば、コイツはストーカー並みだから」
「こらこら、例えがオレの好感度を下げるだけになっとる」
「でも本当のことでしょ」
「え……もしかして誰かをストーカーして? も、もしかしてリリーシュ先生を!?」
「おい待てこら! 勘違いすんなよ! オレは今まで誰一人ストーカーなんてしてねえからぁ! どうすんだよリリーシュ! さっそく教え子候補が怯えちまってるじゃねえか!」
「ああごめんごめん、言い過ぎたわ。でもアミッツ、コイツが今のあなたにとって必要なのも確かなの」
「……どういうことなの?」
「私もあなたをどうすれば強くできるかいろいろ考えて実行してみたけど、結局ダメだった」
「リリーシュ先生……そんな、それはボクが要領悪いせいで」
「ううん。きっと私がまだあなたを見抜けていないから。でも、コイツならそんなことないの」 

 リリーシュが信頼のこもった目つきでイオを見つめてきた。

(なるほど。そういうことか)

 リリーシュの言いたいことはすべて理解できた。

「イオなら、あなたを立派な勇者に至る道筋を教えてくれるはずよ」

 ここまで信頼されているのは悪い気分ではない。少し気恥ずかしいとは思うが。

「まあ、あなたが嫌って言うんなら。この話はなかったことになるんだけど」

 するとアミッツが顔を俯かせてジッと思案するように固まっている。あとは彼女の選択次第だ。だから下手に声をかけずにイオもリリーシュも黙っていた。
 そして顔を上げたアミッツがジッとイオの顔を見つめてくる。

「……強く、なれますか?」
「さあな」
「そんな……」
「強くなれるかどうかなんて、他人には分からねえもんだ」
「……!」
「オレにできるのは、お前に合った育成法を試してやることだけだ」
「…………正直言って今までいろいろなことを試しました。それでも結果は――」
「それは単に、その方法がお前に合ってなかっただけだ」
「!」
「こんなこと初めから言いたくねえけど。リリーシュがオレを紹介したってことは、お前の中に何かの才を感じたからだ。そうだろ?」
「ええ、そうよ」
「だったらその才をオレは伸ばしてやるだけ。それで強くなれるかは、お前次第なんだよ」

 そう、いくら教えても本人の頑張りがなければ意味がない。

「ただやるからには、引き受けたからにはオレは全力でやる。けどな、お前が諦めたり、オレの興味を失わせるようなことをした時は、リリーシュの頼みだからって遠慮はしねえ。そん時は、すっぱり家庭教師を辞めさせてもらうからな」
「はぁ~、相変わらず勝手な奴ね」
「うっせ。オレがこういう奴だってのを知ってて紹介してんだろうが」
「まあそうだけど……。それで? どうするの、アミッツ?」
「ボクは……」

 アミッツはゴクリと喉を鳴らすと、スタッと立ち上がってイオに頭を下げた。

「ボクを! ボクを強くしてくださいっ!」

 彼女の一切揺るぎのない真っ直ぐな瞳を見つめる。その瞳が、昔の自分を思い起こさせた。

(へぇ、コイツ……)

 決して諦めていない彼女の態度に好感を持った。だから。

「泣き言、言わねえか?」
「言わないっ! どんなことでもやるっ!」
「ほほう。どんなことでも、ねぇ」

 イオはニヤリと口角を上げた。

「よーし! んじゃ、さっそく契約だ! ああ敬語とか使わなくてもいいからな。気軽に話しかけろ! リリーシュ、コイツ借りてくぞ!」

 ガシッとアミッツの腕を掴むと、彼女は戸惑い「え? え? え?」となっているが、

「あ~はいはい。んじゃ、頑張りなさいね、アミッツ」
「ええ!? い、いきなり!?」
「あ、そうそうイオ。これ」
「ん?」

 リリーシュが投げ渡してきたのは、一つの銀色のカードと四つ折りにされた紙。

「家は用意してあるから。それ鍵と家の場所」
「……お前、オレが断ってたらどうしてたんだよ」
「その時はその時だったわよ」

 彼女にとって、こうなることは想定内だったのだろう。しかし相変わらず用意周到な性格は変わっていないようだ。

「あ、あのさ、できたらボクの質問にも答えてほしいんだけどぉ!」
「まあいいや、サンキュな! よし、じゃあせっかくだからさっそくオレの新居でヤるか!」
「ヤ、ヤる!? な、何を!?」
「何をって……へへへ、この流れは決まってんだろ?」
「え、ええぇぇぇぇぇっ!?」

 何を想像しているのか、アミッツの顔が真っ赤に染まり上がっている。

「んじゃ、何かあったら連絡しなさいよ~。あ、それとヤる前にはちゃ~んとお風呂に入ってからにしなさいよ、イオ」
「当たり前だろ。オレもヤる時くらいはエチケットは守る」
「だ、だからヤるって何をっ!? お風呂って何なのさぁっ!?」
「よっしゃ! 行くぜ、アミッツ!」
「ちょっ、あのっ、リリーシュせんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 イオに連れ去られていくアミッツを、温かく見守りながらリリーシュは手を振っていた。


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