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「あ、あの……」
「「ん?」」
そこへいきなりアミッツが間に入って来た。リリーシュが「どうしたの?」って聞くと、
「その……この人がリリーシュ先生に昔したことって?」
「そこかよ! 気になるのそこなのかよっ!」
「ええ!? ご、ごめん! だって何だか気になったんだもん!」
「もっとこう普通にあるだろ! この文面見て、オレが何者かとか、冒険ってどんなところに行ったのかとか、リリーシュが昔から脅しのプロなのかとかさ!」
「イオ、殺すわよ?」
「あ、調子に乗りました。本当すいませんでした……」
だから胃にくるから、本気の殺気を飛ばしてくるのは止めてほしい。確かにからかったのは認めるけれども。
「まあいいわ。コイツはね、昔――」
「ちょ、おい! 言われたくねえから来てやったんだぞ!」
「別にジャックじゃないからいいでしょ?」
「よくねえから! どこで誰が聞いてるかも分かんねえんだぞ! もしジャックに知られたら、めんどくせえからぜってーっ!」
「……しょうがないわねぇ。あ、でもだったらお願い聞いてくれるのよね?」
彼女の目を見据えながら、ボリボリとボサボサ頭をかく。
「…………別によ。こんな脅しまがいなことしなくても、ちゃんと頼めば別に無下に断ったりしねえよ」
「そ、そうなの?」
「結構お前には感謝してるしな。こうやってオレが今も勇者業ができんのは、少なからずお前が、あのクソ〝組合〟に口添えしてくれてるってことも知ってるし」
「イオ、あんた…………だったら、少しは真面目に働きなさいよ」
「オレはオレの道を行く!」
「はぁ。まあ、あんたに言ってもムダだって分かってたけど」
ガックリと肩を落とし溜め息を吐き出すリリーシュに向かって、ニッと笑みを浮かべた。
「けどま、お前の頼みなんだし、別にいいぞ。ただ一つ、その子に聞きたいことがあるんだ。その答え次第、ってことでいいか?」
「へ? 聞きたいこと? ……エッチなことだったらぶっ飛ばすわよ?」
「違うから! オレってお前にどう思われてるわけ!?」
「だって昔合宿のコテージで――」
「ああもう! だからあれは事故だって前々から言ってんだろうが!」
「絶対事故じゃないわね。あんたエッチだし」
「だから違えっつうの!」
つくづく失礼な奴である。このままでは話が進まないので、
「……はぁ。てかまあ、質問はさっきも一度したんだけどな」
「え……」
言葉を漏らして目を見張ったのはアミッツだ。そのまま思い出したかのように「……あ」と呟いた。
イオは真面目な眼差しで、ジッとアミッツの目を見つめる。
「……もう一度聞く。お前も勇者を目指してんだろ?」
「あ、はい」
「つまり学院に入学できるくれえの潜在能力はあるかもしれねえって判断されたってことだ。一般人と比べても、身体能力だって格上のはず」
「…………」
「それなのに何でさっきは、あのバカどもを始末しなかったんだ?」
「し、始末?」
「いや、別に殺すとかそういうことじゃねえぞ?」
「わ、分かってます。その……どうしてボクが手を出さなかったのかってこと、ですよね?」
「おう、そういうことそういうこと」
リリーシュも黙ってアミッツの顔を見つめている。
アミッツは若干顔を俯かせてキュッと膝の上に乗せている両手で、少しだけブカブカに見える青いズボンを握りしめた。
「……こ、怖かったんです」
「何が?」
「ボクは……学院では最低ランクの〝F〟なんです」
ピクリとイオの眉が上がった。
「三カ月に一度ある〝勇者認定試験〟も、三回連続一次も突破できなくて、ランクもそのまま」
「…………」
「このままじゃ、きっとボクは落第になって、下手したら退学になってしまう。普通でもそんな状況なのに、もしここで一般人を傷つけて問題を起こしてしまったら、即刻退学になってしまうって思った」
「なるほど。だから手を出せなかったってわけか」
コクリと力なく頷きを見せるアミッツ。
「……お前が勇者を目指す理由は?」
「……孤児院を守りたいから」
「お前、孤児院との関係は?」
「ボクを育ててくれた場所……ボクの居場所だから」
「…………リリーシュ、孤児院の経営ってどうなってるんだ?」
「芳しくないって聞くわね。マザーは身よりのない子たちを無償で引き受けるから、子供の数が増幅していくにつれて支出も増えていくからね」
「ったく。あのマザー、相変わらずのお人好しは健在ってわけか」
「マザーと知り合いなんですか?」
「ん? まあな。んなことより、お前は勇者になって富と名誉を得て、その力で孤児院を守りてえってことでいいのか?」
「……はい」
揺るぎのない瞳だった。彼女が本心でそう望んでいることがハッキリと伝わる。
「なるほど。大体分かった。それで? お前はオレのこと、どう聞かされてんだ?」
「どう、って?」
「…………おい、リリーシュ」
「ははは、何も言ってないわよ」
「何でだよ! 君がこの場をセッティングしたんだよね!?」
「だって、先入観とか持ってもらいたくなかったし。それに、あんたの教え子になるかもしれないんだから」
「…………へ? あ、あの……今教え子って……」
「そうよアミッツ、あなたさえよければ、この冒険バカを家庭教師に雇ってみるのはどう?」
「か、家庭……教師? え……ええぇぇぇぇぇぇっ!?」
本当に何も伝えていなかったようだ。アミッツがこの上なく驚愕している。
「ボ、ボ、ボクがこの人に!? で、でもそれは……」
「あら、不服? ていうか、話の流れでまだ分からない?」
「はい?」
「コイツ、前に話した例の七年前の奴なのよ」
「……! そ、それってあの、最低ランクだったのに、一年でトップ合格を果たしたっていう?」
うんうんと笑顔で頷くリリーシュを見て、アミッツは信じられない面持ちでイオを見つめてくる。
イオは何気無い様子で軽く手を振り、
「まあ、今は最低ランクの〝落ちこぼれ勇者〟だけどな!」
とまったく後悔していない様子で言い放った。
わなわなと震えるアミッツが大きく息を吸い込み、
「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ここ一番の驚きを叫んだ。
「「ん?」」
そこへいきなりアミッツが間に入って来た。リリーシュが「どうしたの?」って聞くと、
「その……この人がリリーシュ先生に昔したことって?」
「そこかよ! 気になるのそこなのかよっ!」
「ええ!? ご、ごめん! だって何だか気になったんだもん!」
「もっとこう普通にあるだろ! この文面見て、オレが何者かとか、冒険ってどんなところに行ったのかとか、リリーシュが昔から脅しのプロなのかとかさ!」
「イオ、殺すわよ?」
「あ、調子に乗りました。本当すいませんでした……」
だから胃にくるから、本気の殺気を飛ばしてくるのは止めてほしい。確かにからかったのは認めるけれども。
「まあいいわ。コイツはね、昔――」
「ちょ、おい! 言われたくねえから来てやったんだぞ!」
「別にジャックじゃないからいいでしょ?」
「よくねえから! どこで誰が聞いてるかも分かんねえんだぞ! もしジャックに知られたら、めんどくせえからぜってーっ!」
「……しょうがないわねぇ。あ、でもだったらお願い聞いてくれるのよね?」
彼女の目を見据えながら、ボリボリとボサボサ頭をかく。
「…………別によ。こんな脅しまがいなことしなくても、ちゃんと頼めば別に無下に断ったりしねえよ」
「そ、そうなの?」
「結構お前には感謝してるしな。こうやってオレが今も勇者業ができんのは、少なからずお前が、あのクソ〝組合〟に口添えしてくれてるってことも知ってるし」
「イオ、あんた…………だったら、少しは真面目に働きなさいよ」
「オレはオレの道を行く!」
「はぁ。まあ、あんたに言ってもムダだって分かってたけど」
ガックリと肩を落とし溜め息を吐き出すリリーシュに向かって、ニッと笑みを浮かべた。
「けどま、お前の頼みなんだし、別にいいぞ。ただ一つ、その子に聞きたいことがあるんだ。その答え次第、ってことでいいか?」
「へ? 聞きたいこと? ……エッチなことだったらぶっ飛ばすわよ?」
「違うから! オレってお前にどう思われてるわけ!?」
「だって昔合宿のコテージで――」
「ああもう! だからあれは事故だって前々から言ってんだろうが!」
「絶対事故じゃないわね。あんたエッチだし」
「だから違えっつうの!」
つくづく失礼な奴である。このままでは話が進まないので、
「……はぁ。てかまあ、質問はさっきも一度したんだけどな」
「え……」
言葉を漏らして目を見張ったのはアミッツだ。そのまま思い出したかのように「……あ」と呟いた。
イオは真面目な眼差しで、ジッとアミッツの目を見つめる。
「……もう一度聞く。お前も勇者を目指してんだろ?」
「あ、はい」
「つまり学院に入学できるくれえの潜在能力はあるかもしれねえって判断されたってことだ。一般人と比べても、身体能力だって格上のはず」
「…………」
「それなのに何でさっきは、あのバカどもを始末しなかったんだ?」
「し、始末?」
「いや、別に殺すとかそういうことじゃねえぞ?」
「わ、分かってます。その……どうしてボクが手を出さなかったのかってこと、ですよね?」
「おう、そういうことそういうこと」
リリーシュも黙ってアミッツの顔を見つめている。
アミッツは若干顔を俯かせてキュッと膝の上に乗せている両手で、少しだけブカブカに見える青いズボンを握りしめた。
「……こ、怖かったんです」
「何が?」
「ボクは……学院では最低ランクの〝F〟なんです」
ピクリとイオの眉が上がった。
「三カ月に一度ある〝勇者認定試験〟も、三回連続一次も突破できなくて、ランクもそのまま」
「…………」
「このままじゃ、きっとボクは落第になって、下手したら退学になってしまう。普通でもそんな状況なのに、もしここで一般人を傷つけて問題を起こしてしまったら、即刻退学になってしまうって思った」
「なるほど。だから手を出せなかったってわけか」
コクリと力なく頷きを見せるアミッツ。
「……お前が勇者を目指す理由は?」
「……孤児院を守りたいから」
「お前、孤児院との関係は?」
「ボクを育ててくれた場所……ボクの居場所だから」
「…………リリーシュ、孤児院の経営ってどうなってるんだ?」
「芳しくないって聞くわね。マザーは身よりのない子たちを無償で引き受けるから、子供の数が増幅していくにつれて支出も増えていくからね」
「ったく。あのマザー、相変わらずのお人好しは健在ってわけか」
「マザーと知り合いなんですか?」
「ん? まあな。んなことより、お前は勇者になって富と名誉を得て、その力で孤児院を守りてえってことでいいのか?」
「……はい」
揺るぎのない瞳だった。彼女が本心でそう望んでいることがハッキリと伝わる。
「なるほど。大体分かった。それで? お前はオレのこと、どう聞かされてんだ?」
「どう、って?」
「…………おい、リリーシュ」
「ははは、何も言ってないわよ」
「何でだよ! 君がこの場をセッティングしたんだよね!?」
「だって、先入観とか持ってもらいたくなかったし。それに、あんたの教え子になるかもしれないんだから」
「…………へ? あ、あの……今教え子って……」
「そうよアミッツ、あなたさえよければ、この冒険バカを家庭教師に雇ってみるのはどう?」
「か、家庭……教師? え……ええぇぇぇぇぇぇっ!?」
本当に何も伝えていなかったようだ。アミッツがこの上なく驚愕している。
「ボ、ボ、ボクがこの人に!? で、でもそれは……」
「あら、不服? ていうか、話の流れでまだ分からない?」
「はい?」
「コイツ、前に話した例の七年前の奴なのよ」
「……! そ、それってあの、最低ランクだったのに、一年でトップ合格を果たしたっていう?」
うんうんと笑顔で頷くリリーシュを見て、アミッツは信じられない面持ちでイオを見つめてくる。
イオは何気無い様子で軽く手を振り、
「まあ、今は最低ランクの〝落ちこぼれ勇者〟だけどな!」
とまったく後悔していない様子で言い放った。
わなわなと震えるアミッツが大きく息を吸い込み、
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ここ一番の驚きを叫んだ。
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