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休日になり、アミッツは洗面所の前で身支度を整えていると、
「アミねえちゃ~ん!」
と子供が駆けつけてきた。その傍には、他にも二人の子供がいる。
ここはアミッツが住んでいる孤児院だ。そしてこの子のたちは、同じ孤児院の子供たちで、アミッツの家族。
ちなみに先に声をかけてきたのは、上から二番目に年長者の十歳児の少年――リックだ。
「ん? どうしたのさ?」
「どっかでかけんの?」
「うん。昨日言ってたでしょ?」
「あれ? そうだっけ」
「「デート~」」
確かにデート、ということらしいが。初めてのデートが女相手だというのは、喜ぶべきことなのだろうか……。
「「かれしかれし~」」
「ち、違うよ! 彼氏なんていないからぁ!」
「アミねえちゃん……おめでとう!」
「ちょ、違うからね、リック!」
「だいじょーぶ! ぼくたちはおうえんしてるからさ! がんばって!」
明らかに勘違いをして洗面所から出て行った。
(うぅ……変な勘違いされちゃったよぉ……)
帰ったらちゃんと誤解を解いておこうと思い、そのまま孤児院から出て街へと向かった。
アミッツが通う【ピースオーダー勇者育成学院】がある街は、【始まりの都・カヴォード】と呼ばれており、海に面していることから、港もあり交易が盛んということで、多くの人々が行き交う街でも有名だ。
街自体の規模も大きく、東、西、北、南、中央と、それぞれに区を設け、それぞれの色に合わせた特色を兼ね備えている。
飲食を楽しみたいのであれば東地区、ショッピングを楽しみたいのなら西地区と、ジャンルに分けられて多く設置されてあるのだ。
中央区にある学院は、この街の目玉でもあるので特に目立っている。
そして今、そこから南地区へとアミッツは急いだ。そこで担当教師であるリリーシュと待ち合わせをしているからである。
目印は古びれた魔法具屋の前。そこにはとても目立つ巨大な招き猫の銅像があるので、待ち合わせにはもってこいなのだ。
学院に行く時は制服だが、無論休日は年頃の女子なのでそれなりにオシャレをする。しかし裕福な子がするようなファッションではないので、どうも少し前時代的なものになったりするのは難点ではあるが。
しかし本人は意識してはいないが、見た目でいえばアミッツは間違いなく美少女のカテゴリーに入る。
言動がどちらかというと男っぽいかもしれないが、こう見えてもスタイルだって、大人のリリーシュと比べれば見劣りはするけれども、十四歳として年相応程度には出るとこは出ていたりするし、純朴で穢れの知らない翡翠色の瞳は見る者を釘付けにすることだって少なくはないだろう。
化粧っ気はほとんどないが、そんなものをしなくとも素のルックスで十分に魅力的な女の子というのがリリーシュの判定だったりする。
だから一人であまり人気のないところに立っていたりすると……。
「――お、可愛い子はっけ~ん!」
「いいじゃんいいじゃん、チョーいいじゃ~ん!」
と、二人のチャラそうな男が、獲物でも見つけたような眼力を携えて、アミッツに近づいてきた。
「なあ、俺らちょ~ど今ヒマしててさ。良かったら遊ばね?」
「な、何だよあんたら、ボクは人と待ち合わせしてるんだから放っといて」
「おお~! ボクっ娘じゃんよ!」
「ありだね、あり。そんなこと言わずにさ、ほらほら。奢っちゃうしさ」
馴れ馴れしく肩に手を回してくる。
これでも勇者候補生でもあるので、一般人よりかは力は強い。だからその気になれば、二人くらいなんてことはないのだが。手を出しそうになってピタリと止めてしまう。
(もし問題を起こせば、即落第になっちゃうかも……)
これが懸念材料である。下手をすれば退学になってしまい、二度と勇者を目指せなくなる危険性があるのだ。
「は、放せよバカ!」
早くリリーシュが来てくれればと心で願う。
しかし男たちは下卑た笑みを浮かべて楽しそうである。
「いいねいいね、何かその少しキツイ物言いだけど初々しい感じ」
「そそっちゃうよなぁ。なあ、悪いようにしねえからさ」
「な、何言ってんだよ! いいから放せよぉ!」
ここで我慢してついて行っても碌なことにはならないだろう。二人の表情だけで伝わってくる。どうせ卑猥なことを企んでいる、と。
孤児院にも男性に酷いことをされてやってきた子もいる。だからアミッツは、こういう男たちを見ると許せないという気にもなるが、それでも手を出して、それが問題扱いされればと思うと怖くて手を出せずにいるのだ。
できることは、リリーシュが来るまで必死に足を踏ん張って耐えることだけ。
「おいおい、結構力強えな」
「なぁにやってんだよ。もっと強引に――」
そうやって力任せに、アミッツの腕を掴んで引っ張り始める。
(こ、このままじゃ……っ)
その時、不意に誰かの「ふわぁぁぁ~」という欠伸が聞こえた。
当然男たちにも聞こえたようで、ピタリと動きを止める。
「アミねえちゃ~ん!」
と子供が駆けつけてきた。その傍には、他にも二人の子供がいる。
ここはアミッツが住んでいる孤児院だ。そしてこの子のたちは、同じ孤児院の子供たちで、アミッツの家族。
ちなみに先に声をかけてきたのは、上から二番目に年長者の十歳児の少年――リックだ。
「ん? どうしたのさ?」
「どっかでかけんの?」
「うん。昨日言ってたでしょ?」
「あれ? そうだっけ」
「「デート~」」
確かにデート、ということらしいが。初めてのデートが女相手だというのは、喜ぶべきことなのだろうか……。
「「かれしかれし~」」
「ち、違うよ! 彼氏なんていないからぁ!」
「アミねえちゃん……おめでとう!」
「ちょ、違うからね、リック!」
「だいじょーぶ! ぼくたちはおうえんしてるからさ! がんばって!」
明らかに勘違いをして洗面所から出て行った。
(うぅ……変な勘違いされちゃったよぉ……)
帰ったらちゃんと誤解を解いておこうと思い、そのまま孤児院から出て街へと向かった。
アミッツが通う【ピースオーダー勇者育成学院】がある街は、【始まりの都・カヴォード】と呼ばれており、海に面していることから、港もあり交易が盛んということで、多くの人々が行き交う街でも有名だ。
街自体の規模も大きく、東、西、北、南、中央と、それぞれに区を設け、それぞれの色に合わせた特色を兼ね備えている。
飲食を楽しみたいのであれば東地区、ショッピングを楽しみたいのなら西地区と、ジャンルに分けられて多く設置されてあるのだ。
中央区にある学院は、この街の目玉でもあるので特に目立っている。
そして今、そこから南地区へとアミッツは急いだ。そこで担当教師であるリリーシュと待ち合わせをしているからである。
目印は古びれた魔法具屋の前。そこにはとても目立つ巨大な招き猫の銅像があるので、待ち合わせにはもってこいなのだ。
学院に行く時は制服だが、無論休日は年頃の女子なのでそれなりにオシャレをする。しかし裕福な子がするようなファッションではないので、どうも少し前時代的なものになったりするのは難点ではあるが。
しかし本人は意識してはいないが、見た目でいえばアミッツは間違いなく美少女のカテゴリーに入る。
言動がどちらかというと男っぽいかもしれないが、こう見えてもスタイルだって、大人のリリーシュと比べれば見劣りはするけれども、十四歳として年相応程度には出るとこは出ていたりするし、純朴で穢れの知らない翡翠色の瞳は見る者を釘付けにすることだって少なくはないだろう。
化粧っ気はほとんどないが、そんなものをしなくとも素のルックスで十分に魅力的な女の子というのがリリーシュの判定だったりする。
だから一人であまり人気のないところに立っていたりすると……。
「――お、可愛い子はっけ~ん!」
「いいじゃんいいじゃん、チョーいいじゃ~ん!」
と、二人のチャラそうな男が、獲物でも見つけたような眼力を携えて、アミッツに近づいてきた。
「なあ、俺らちょ~ど今ヒマしててさ。良かったら遊ばね?」
「な、何だよあんたら、ボクは人と待ち合わせしてるんだから放っといて」
「おお~! ボクっ娘じゃんよ!」
「ありだね、あり。そんなこと言わずにさ、ほらほら。奢っちゃうしさ」
馴れ馴れしく肩に手を回してくる。
これでも勇者候補生でもあるので、一般人よりかは力は強い。だからその気になれば、二人くらいなんてことはないのだが。手を出しそうになってピタリと止めてしまう。
(もし問題を起こせば、即落第になっちゃうかも……)
これが懸念材料である。下手をすれば退学になってしまい、二度と勇者を目指せなくなる危険性があるのだ。
「は、放せよバカ!」
早くリリーシュが来てくれればと心で願う。
しかし男たちは下卑た笑みを浮かべて楽しそうである。
「いいねいいね、何かその少しキツイ物言いだけど初々しい感じ」
「そそっちゃうよなぁ。なあ、悪いようにしねえからさ」
「な、何言ってんだよ! いいから放せよぉ!」
ここで我慢してついて行っても碌なことにはならないだろう。二人の表情だけで伝わってくる。どうせ卑猥なことを企んでいる、と。
孤児院にも男性に酷いことをされてやってきた子もいる。だからアミッツは、こういう男たちを見ると許せないという気にもなるが、それでも手を出して、それが問題扱いされればと思うと怖くて手を出せずにいるのだ。
できることは、リリーシュが来るまで必死に足を踏ん張って耐えることだけ。
「おいおい、結構力強えな」
「なぁにやってんだよ。もっと強引に――」
そうやって力任せに、アミッツの腕を掴んで引っ張り始める。
(こ、このままじゃ……っ)
その時、不意に誰かの「ふわぁぁぁ~」という欠伸が聞こえた。
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