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最終話:おやすみ、我が赤き果実。
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春の陽射しが終わりかけて、少し暑くなってきた五月中旬の昼下がり。
先日十八歳になったばかりのレジナルドが、ミーシャとの婚約の報告に来ました。
「…………」
「あら、受けてもらえたのね」
「はい」
「…………」
「父上?」
リビングでのんびりとお茶をいただきながら、レジナルドの報告を聞いていたのですが、テオ様は超絶不機嫌なムッスリお顔です。
「…………」
「テオ様」
「……っ、おめでとう」
「はい! ありがとうございます、父上!」
レジナルドは、顔も身体も能力もテオ様そっくりに成長し、騎士団の中でもかなりの大型ルーキー扱いされています。
華やかな見た目と確かな能力と地位。
当たり前のように様々なご令嬢たちからの熱い視線を受け…………ずに、全てぶった斬り、ミーシャ一筋でした。
ちなみにミーシャはつい最近までレジナルドに対して恋愛感情ゼロでした。
不憫でした。
あの、幼かった頃のちゅーは、何だったのか、と。
まぁ、詳しく聞くと、恋に恋してた。ただ単にキスが面白かった、という衝撃の事実。
それを知ったときのレジナルドの落ち込み……不憫でした。
まさかの、ザラが一言ミーシャに苦言を呈してしまうくらいには、レジナルドの不憫さがキワッキワでした。
「……どうやって三ヶ月で盛り返したんだ…………意味がわからん」
「ミーシャの全身に愛を伝えました!」
――――ん?
「「…………」」
空耳だと思いたいですが、わりと大きな声でしたので、空耳ではないのでしょうね。
「いいなぁ。スカーレットもワカラセられたぁい」
「「…………」」
十五歳というものは、大概が『悪』『非行』『厨二病』に憧れるもの。
思春期! 普通普通!
テオ様は未だに厨二病ですし!
「対外向けもだいぶ抑えているだろうが!」
まぁ、そうは言いますが、あの長い長い名前や、ちょいちょい漏れる単語は、きっと素で厨二病のはずです。
あら? そういえば、レジナルドはそっちには行かなかったわね?
…………考えたら駄目なやつですわね。
「えっと……取り敢えずおめでとう」
「はい!」
ムッスリテオ様は、夕食をいただいても、お風呂を上がっても、ムッスリテオ様のままでした。
大人気ないです。
そういえば、あの子たちが小さかった頃、尊敬されているかとか、いないとか、言い合いのようなものをしたような?
「今日は……今日も? そこそこにかっこ悪い父親でしたよ?」
「ぬあっ⁉ 認めてやっただろうが!」
「でも、尊敬の念は、薄らっている気がします」
「……くそぅ」
テオ様が口を尖らせてプチプチ言いつつ、ベッドに入って来られました。
「…………はぁ。しかし、大丈夫なのか? あの二人」
「たぶん。あの二人も、テオ様にだけは言われたくはないでしょうが――――」
――――あ、お口がズルッズルに滑りました。
「……ふぅん。そうかそうか。ミラベルはイジメてほしいのかぁ。そうかそうか」
テオ様がバサリバサリと夜着を脱ぎ捨て始めました。
四十歳になっても、あいも変わらずキラキラしいお顔で、瞬くほどの髪色で。腹筋もアソコもバキバキで…………。
え? この一瞬で勃てたのですか?
尊敬だ何だと言いはしましたが、テオ様が歳を重ねて増やしたのは、重厚なる色気だけでした。
こちとら、お腹まわりのお肉と闘っているというのに。
「ミラベルは私との全身運動以外はしないからな?」
「あっ……んうっっ」
「というか、私以外とはするなよ?」
「やっ、しま……せんっ、んあっ!」
テオ様の精力も衰え知らずです。
「……年の離れた三人目、というのも可愛いだろうな?」
「あっ、ひあっ、ダメッ!」
「ん? 何が?」
「そこ、擦ったら…………あっ、や、イッちゃうっ」
「ん、一度イッておこうな?」
「あ――――!」
「……ふぅ。流石に四時間もシテいたら疲れたな? もう年だろうか?」
「………………ほうでふね」
「どうする? 三人目の名前の候補としては、フィオレンティーナ・ディアマンテ・イルセ――――」
――――と、このような感じで、毎日を過ごしています。たぶん。
私達も子供たちも、わりと良い年齢になりはしましたが、あいも変わらずの厨二病設定てんこ盛りのテオ様です。
そして、未だにわりとガッツリ迫ってきます。
これからも厨二病殿下を受け止めるために、頑張って体力作りをしなければなりませんね。
ですが! 取り敢えず、今はゆっっっくりと眠りたいです。
「おやふみなさぁぁぃ……」
「ん、おやすみ、ミラベル。愛しているよ、我が赤き果実」
「んふふ、はい。私もです」
―― fin ――
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