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179:長くて覚えられない。
しおりを挟む今日は私達とザラとミーシャも一緒に庭園でピクニック中です。
そして、ピクニック中だというのに、新たに授かった子供の名前について、テオ様と揉めに揉めていました。
「なぁ、我が輝く星よ、お前も『ヒルデガルディアーナ・メヒトル・レアリア・フォレスター』が良いよな? 男だったら『ヒルデブラント・アドリアヌス・レアーノ・フォレスター』がいいだろう?」
――――ながっ!
「ちちうえ、おぼえられません」
「…………我が輝く星よ、頭が悪いのガフゴォォッ」
テオ様は、レジナルドの渾名(?)を『輝く星』に決めました。まぁまぁ格好良いです。赤き果実よりは格好良いです。
あと、テオ様には、鉄拳制裁です。三歳児に何ってことを言うのですか。
そもそも、私でも覚えられませんし、覚える気も起きませんが。
「おまっ、ちょっと意識が飛びかけだぞ!」
「そのまま召されて下さって構いませんよ?」
「…………ごめんなさい」
「ちちうえ、よわい」
レジナルドはそういいますが、テオ様は国軍統括で、国一番の強さだとか言われています。
…………今は私の右フックで悶ていますが。
暫くの間、悶えるテオ様の背中を撫でてあげていた優しいレジナルドでしたが、ザラとロブの娘――ミーシャがお昼寝から起きたので、そちらに行ってしまいました。
ミーシャはストレート黒髪とザラにそっくりの瞳を持ち、とても落ち着いた雰囲気のある子で、レジナルドは自分より少しお姉さんのミーシャの事が大好きなようです。
「ミーシャ、あそぼ」
「いーよー」
駆けていく二人にテオ様がワーワーと叫んでいますが、無視で大丈夫だとレジナルドの護衛騎士になったロブが判断したようで、気にしなくていいと手を振って二人に合図していました。
「結局、どうされるんですか?」
「ヒルデガルうんちゃらかんちゃらは嫌よ」
「フッ、ですよね」
「格好良いではないか!」
ロブが鼻で笑うと、テオ様がプンスコしながら、長いお名前の格好良さを必死に説明していました。
……まぁ、全員がスルーですが。
「ヒルダかヒルデブラントで」
「……フォレスターのみ?」
「で、お願いします」
「…………アドリアヌス」
「駄目です」
「投票――――」
「時間の無駄です」
「…………」
「返事!」
「……ぅわかった」
渋々ながら了承していただきました。
何年経っても、変な名前にするのは諦められないのですね。
「ははうえー! ロブー!」
「はーい!」
「おい、何故私は呼ばれない」
「……さぁ?」
庭の奥からレジナルドに呼ばれたので、四阿から出てロブと共に向かいました。
「レジナルド、どうしたの?」
「ねこがいました!」
「ねこさん、けが、してる」
ザラが困ったように、庭園の隅にある木の根元に視線をやるので、そちらを見ましたら、生まれたばかりのような黒い仔猫がうずくまっていました。
前脚に出血を伴う怪我をしており、プルプルと震えています。
「あら、野良猫かしら」
「たすけたいです」
「……うーん」
助けたあとは、どうするの? と、この年齢の子供に聞いてもわからないでしょう。
そして、私……猫さん、とても好きなのです。
「だめ、ですか?」
「レジナルドは助けたいのよね? もちろんミーシャも」
「「はい!」」
「それなら、この子の命は私が預かります…………が、私はお腹に赤ちゃんがいるので、今は触れ合うことも、手当してあげることもできません」
この世界ではたぶん解明されていないのでしょうけれど。
私も細かな事は知りませんが、トキソプラズマ症というものが危険だとはなんとなく覚えています。
――――さて、どうしたものか。
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