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164:演出かと思っていた。

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 ミーシャの誕生から一週間が経ち、それぞれの家族は自宅のあるアップルビー領へと帰っていかれました。

「ミラベル様、本日は王妃殿下とサミュエル王子殿下の面会の日ですが、手土産は――――」

 ザラの出産でバタバタとしていましたが、今日はサミュエル様との面会日です。
 ドライフルーツとクラッシュナッツたっぷり、バターを極力減らしたクッキーをキッチンで用意してもらい、マリー様への手土産にしました。



「はぁぁぁ、今日も可愛かったです」
「ん、そうか」

 テオ様は相変わらずで、サミュエル様の話になると興味なさそうに私のお腹を撫でていらっしゃいます。

「そういえば、サミュエル様の瞳は灰色がかっていたのですが、最近少し澄んだような色合いになってきた気がします」

 ザラも産まれて暫くしたら色が変わったと聞きました。
 ミーシャも色が変わるのか、ちょっと楽しみです。
 そして、瞳の色が変わることがあるのを知らなかった、とテオ様に話していましたら、キョトンとしたお顔をされました。

「私も、だぞ?」
「へ?」

 テオ様いわく、テオ様が産まれた時は黒い瞳だったそうです。
 王家の人間は暗い瞳の色で産まれて、鮮やかになる者がたまにいる、とのことでした。

「何故かはわからないが、私は片眼だけ色が変わった。兄上は確か茶色から変わったと聞いた」
「テオ様の瞳って、演出じゃ無かったのですか⁉」
「演出? なんの?」

 厨二病のど定番、オッドアイ演出かと思っていました。
 前世の『コンタクト』のような物はないにしても、目の色を変える薬とか。

「どんな劇薬だ。失明しそうだな?」
「失明…………」

 そういえば、瞳の色が違うとき、病気の疑いもあると聞いた覚えがあります。
 テオ様は大丈夫なのでしょうか⁉
 心配になり、テオ様の両頬を包んで、じっと瞳を覗き込みました。

「見え方は一緒なのですか? どちらか一方が見え辛いなど……あっ、どちらかの耳が聞こえ辛いなど、ありませんか⁉」
「それ、猫の話じゃないか⁉ いや、まぁ、人間でも稀にあるらしいが、私は特に何もないと思うぞ。まぁ……今は、かもしれないが」

 もしかしたら、将来的に何かに不具合が出るかもしれないが、その時はその時だと、テオ様が笑顔で言われました。
 何故に笑顔なのですか。
 こんなに心配しているのに。

「ん? あ……腹の子に遺伝するかもしれないから、心配か?」
「っ⁉ テオ様が心配だからに決まっているではありませんか!」
「ははっ。ん、ありがとう」

 テオ様が更に笑顔になられて、私を膝に抱き上げると、ちゅとキスして来られました。
 
「遺伝は無いと聞いている」
「だから! 私――――」
「ミラベル、最後まで聞け」
「っ、はい」

 遺伝は無いと聞いているから、心配しないでいい。
 私に心配されて、嬉しかった。
 もし、何か不調を感じたら直ぐに言う。
 直ぐに侍医に診察してもらう。

「ただ、ミラベルに心配してもらえたのが、嬉しかったんだよ。私を見てくれた、私に興味を持ってくれた、とな。意地の悪い聞き方をしてすまなかった」
「っ…………」

 テオ様が少し寂しそうな顔をされました。
 私が今頃になって、テオ様のオッドアイについて興味を持った、と丸わかりの状況だったからでしょう。
 小さな声でごめんなさいと言うと、テオ様がまた軽いキスをしてこられました。

「なんでもかんでも知っているより、少しずつ知っていくものいいさ」
「はい!」
「ミラベル、他に知りたいことはない?」
「えっと、特にないです!」

 瞳のことを知れて満足だったので、大丈夫だとお返事しましたら、テオ様がガックリと肩を落とされました。

「解ってた。解ってた……ミラベルはそういうヤツだ…………」
「へ?」
「いやいい、風呂、行ってくる」
「あ、はい。行ってらっしゃいませ」

 嬉しそうにしたり、しょんぼりしたり、今日のテオ様は大忙しです。

 お風呂から上がって、寝る瞬間まで、テオ様はしょんぼりしたままでした。

 ――――ナデナデでもしときましょ。


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