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163:新しい命の誕生。
しおりを挟むロブがサロンを駆け出してから少し時間を置いて、分娩室になっていた寝室へと向かいました。
部屋に入ると、疲れ切ってはいるものの、ベッドの中で起き上がり、凛とした居住まいで産まれたばかりの赤ちゃんを抱くザラと、それを微笑ましそうに見つめているロブがいました。
「ザラ! お疲れ様――――って! もう起き上がっているの⁉」
慌てて駆け寄りましたが、思ったよりも疲れてはいないと言われました。
私の専属医でもあるパメラ先生に、眼を見張るほどの安産でしたよ、と笑顔で報告されました。
いえ、疲れ切っていますよね? 話す元気はありそうですが、結構長くかかりましたよね? もうお昼ですよ? 朝から陣痛と戦っていましたよね?
疑問とツッコミが尽きません。
「二日以上掛る方もいますよ。ザラ様は本陣痛からは一時間も掛からない内にお産みになりましたので」
一時間近く、激痛と戦っても、安産……ちょっとだけで不安になりましたが、とりあえずは、お祝いです!
「ザラ、お疲れ様。そして、おめでとう!」
「ありがとうございます」
産まれたのは、ふくふくとしたほっぺたの女の子でした。
名前は予定通り『ミーシャ』にするそうです。
ロブに似た黒いツヤツヤの髪と、ザラに似た緑がかった瞳です。
「あ、でも、少し金色に近いのかしら?」
「ザラも赤ん坊の時は金色に近かったのですが、どんどんと灰色になっていきましたわ」
どうやら、大きくなるにつれて、瞳の色が変わる人がいるようです。
知らなかったので、びっくりしました。
みんなで代わる代わる抱っこしては、ふにふにとほっぺをつついたり、名前を呼びかけたりして、愛でていました。
「名前は…………決まっているのか?」
ケスラー男爵が、固まってミーシャを愛でる私たちから少し離れた場所で、そわそわと身体を揺らしながら、そう呟かれました。
クレア夫人は男爵を見てクスクスと笑われています。
ザラが大きな溜め息を吐きながら、抱きたいなら抱きたいと言えばいいんですよ、と呆れたように言いました。
「いや、別に、私は抱きたい訳ではないが。抱いて、祝福してやらんこともない。ど、どうしてもというならな……」
男爵がもごもごとツンデレしながらも、両手をミーシャの方に差し出していました。
全員が、大爆笑してしまい、ミーシャがフニャフニャと泣き出してしまいました。
後ろ髪を引かれつつも、みんなで寝室を後にしました。
「ミラベル様、この度は、本当に素晴らしい機会をありがとうございます」
クレア夫人がそう言うと、ケスラー男爵、ロブのご両親までもが、口々にお礼を述べられました。
喜んでいただけて良かったです。
そして、新しい命が誕生するときは家族全員でお祝いすることが当たり前になればいいなと思います。
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