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162:立ち会う予定……。

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 本格的に予定日が近くなり、ザラとロブのご両親を第二王子宮に招待しました。

 滞在して一週間ほど経った昨日の夜、微弱の陣痛が始まり、今朝から出産の準備に大わらわです。
 今はサロンで接待しつつ、新たな命の誕生を待っています。
 ロブも。

「はぁぁぁ、ドキドキしますわねぇ」
「ええ、本当に!」
「この度は、私どもにこのような機会を恵んでいただき、誠に感謝しています」

 ザラのお父様――ケスラー男爵に慇懃な物腰でお礼を言われました。
 私としては、孫の顔を見たいだろうと思ってのことでしたが、こちらの世界では普通は、暫く会えません。
 嫁に出したら、その時から『他家の人間』というような態度を取るのが当たり前で、里帰りなども殆どしないのです。

 私は、この慣例をなくしたいと思っています。
 家族は家族、そう思うのです。
 
「あの子は、お嬢様に仕えることが出来て、本当に幸せですね」
「あぁ、そうだね」

 ザラのお母様――クレア夫人が目を潤ませながら、男爵と微笑み合っていました。

「クレア夫人、泣かれるのはまだ早いですわよ⁉」
「ははは。そうだよ、泣くのは新しい命の誕生の時だ」
「最近、涙もろくて嫌ですわ」
「わだじもですー」

 ロブのお母様が、まさかのボロ泣きでした。

「おば様⁉ 何故に⁉」
「だっで、ミラベルぢゃんっ――――」

 素敵な家の素敵なお嬢様をお嫁さんにもらえたうえに、子供まで授かれて、仕事場は王城、仕事は近衛騎士。
 鼻水垂らして野原を駆け回っていた悪ガキが、こんなにも幸せな未来を手に入れられるなんて! とのことでした。

「………………鼻水垂らしてねぇよ」

 サロンの隅に佇んでいたロブが、ボソリと呟きました。
 もうすぐ新しい命が産まれるというのに、ご機嫌斜めのロブです。
 
 私は分娩に立ち会う事を勧めていて、その予定だったのですが、ザラが直前になって断固拒否しました。
 ロブは立ち会いたがっていたのですが、ザラの意向を汲むことしたようです。
 ……到底納得できない、という顔をして、サロンの隅にいますが。

「もう! こんな素晴らしい日に、そんな不機嫌な顔をしないのよ!」

 さっきまでボロ泣きしていたおば様が、今度はぷりぷりと怒っていました。

「っ、わかったから、興奮するなって。また体調崩すぞ」
「私の心配をする前に、ザラちゃんの心配をしなさい!」
「…………してるよ。してたら、『煩い』って追い出されたんじゃねぇか」

 追い出された時の状況を思い出して、ブフッと吹き出してしまいました。
 ロブにギロリと睨まれてしまったので、お茶を飲みつつ、視線を逸してごまかしました。

 ザラのご両親がとても申し訳無さそうに、ロブに謝っています。
 ザラは、弱いところを見せるのがとても苦手なのです。

「いえ……確かに私も煩くしていたので」
「ぶ、ごほっ、ウエッホ、エホッ!」
「お嬢…………」

 ロブが苦しむザラを心配して、名前を呼び続けていましたら、ザラが「ちょっと、本当に、煩いです。どこか別の部屋に行って下さい」とぶった斬りました。
 その時のロブの顔といったら……と考えたら、もうだめでした。お茶を吹き出してしまいました。



 サロンで待機して何時間か経った頃、リジーが勢いよく扉を開きました。

「皆様! 無事に産まれましたよ! 母子ともに元気です」

 ワッ、と全員が歓声を上げて歓び合いました。
 ちらりとロブを見ると、俯いて片手で目頭を押えています。

「ロブ! ほら、早く! 行きなさい!」
「ゔ……はい!」

 ロブは、ズズッと鼻を啜りながらも、とてもいい笑顔で返事をすると、物凄い速さでサロンを飛び出して行きました。
 全員でクスクスと笑いながら、ロブを見送りました。

「少しだけ親子水入らずの時間を作ってから、私たちも向かいましょうか」
「ふふっ、それがいいでしょうな」

 三十分ほどしたら、向かうことにしました。
 対面するのが楽しみです!


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