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160:ソレでコレ。

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 結婚式の後の舞踏会は、身重だからとダンスはせずに早めに切り上げて部屋に戻る事になりました。

「あ、そうでした。今日から第二王子宮に住まうのでしたね」

 テオ様にエスコートされ、馬場に到着してから、引越しのことを思い出しました。

「……ミラベルの方が記憶力ない」 
「煩いです。それより、荷物はもう移動されているのですか?」

 まさかの、全て移動し終えているとのことでした。
 仕事が早すぎます。どれだけの人手を使ったのやら。
 


「ねぇ」
「はい?」
「何故にエロ衣?」

 第二王子宮のお風呂は、今まで使っていたものよりも大きく、最新式にリフォームしたとのことで、今までは無かったシャワーなどにキャッキャとはしゃいでいました。
 さっきまで。

 いつも通りマッサージやらなんやらされ、何故かいつもより入念に香油を塗り込まれ、おんやぁ? と思っていたら、テオ様大好き『エロ衣』を着せられました。

「殿下のご指示です」
「出来ないのに?」
「殿下のご指示です」

 はい、このパターンね。
 ザラが壊れたレコードさんになりましたっと。
 仕方ないので、話題を変えます。
 
「それにしても、随分大きくなってきたわね」

 ザラのお腹をそっと撫でると、ぐにょんぐにょんとお腹の子供が動きました。
 服を着ていても解るくらいに激しいです。

「っ、いたた……」
「大丈夫⁉」
「ふぅ……はい。最近、こんな感じでかなり動くんです。暴れん坊なので男の子でしょう…………もしくはお嬢様タイプ」

 いま、軽やかにディスられましたが、スルーすることにしました。私は、出来る子なのでっ!

「そういえば名前は決めたの?」
「はい。ロブと話し合って決めました」

 男の子ならば『ミハエル』、女の子ならば『ミーシャ』だそうです。

「いいわね……普通の名前」
「…………心中しんちゅうお察しします」
「アレが格好良いと、本気で、思っているそうなのよ」 

 ブフォっと後ろから、吹き出す声が聞こえました。
 リジーがヒーヒー笑っています。

「リジー、笑っていないでお嬢様の髪のせっとをして下さい」
「ぶふふふ、はひ!」

 どうやらリジーのツボに刺さったらしく、髪を梳かす間、ずっと笑い続けていました。



 今まで夫婦の寝室と呼んでいた場所は、お屋敷では『主寝室』と呼ぶようにするらしいので、私もそう呼ぶことにしました。
 その、主寝室に入ると、何だか香りの良い香が焚かれ、キャンドルが灯されていました。

「あら? 今日はえらくムーディーですねぇ。あ、いただきます!」
「……ぉおん」

 テオ様は、ソファに優雅に座り、ワインを飲んでいました。
 美味しそうなおつまみが少しずつ用意されています。
 私の大好きなクリームチーズの生ハム包みがあったので、テオ様の横に座りつつ、ヒョイッと食べましたら、テオ様がなんとも言えないお顔をされました。

「ん? どうされました?」
「いや、ムーディーとか言いつつ、ガッツリ食べだしたから……ちょっと感性を疑っている」
「え、ごめんなさい? 食べたかったんですか?」

 いつも私に食べていいって言うから、当たり前のようにいただいてしまいました。

「いや……いらないが…………今日、なんの日かわかっているのか?」
「ふんむ? んと、結婚式でしたね! お疲れ様でした!」
「いや…………うん」

 クリームチーズの生ハム包みを食べつつ、答えましたら、妙にモゴモゴしつつワインのグラスを煽ったあと、しょんぼりと項垂れられました。

「ミラベルに期待した私が馬鹿だった」
「へ?」
「…………今日は、初夜だろうが」

 ――――あぁぁぁ! ソレでコレか!


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