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155:急に何を。
しおりを挟むまるで怒鳴るかのように、テオ様のお名前を叫んでしまいました。
テオ様が眉間に皺を寄せ、声を荒らげたことを避難するかのようなお顔で、こちらを振り向かれました。
「なんだ?」
「っ、あの…………」
傷付けるつもりなんてなかった。
ただ、可愛いや好きを共有したかった。
ただ、周りが見えていなかった。
テオ様が嫌がるから、話さない。
テオ様が嫌がるから、会いに行かない。
テオ様が嫌がるから。
それは違うと思う。
だから、傷付いたテオ様に何を言えばいいのか、解らなくなりました。
「…………行かないで」
迷いに迷って小さな声で絞り出せたのは、そんな陳腐な言葉だけ。
「ミラベル?」
テオ様が心配そうなお顔で、こちらを覗き込まれますが、視線を合わせたら、全てが崩壊してしまいそうな気がして、ギュッと目を瞑りました。
ふわり、何かに包まれました。
温かくて、少し硬い身体。
少しスパイシーな匂い。
テオ様の、匂い。
「……少し、話そうか」
「はい」
テオ様と、ソファに隣り合って座り、色んな事をゆっくりとお話しました。
自分が好きなものが、相手も好きとは限らない。
そんな当たり前の事が抜け落ちていて、テオ様に押し付けていた事に、テオ様が限界を迎えるまで気付けませんでした。
「ごめんなさい」
「ん、私も。違うとは言ったが…………嫉妬、だったのかもしれないな。ミラベル、膝の上に座って?」
「はぁ?」
――――急に何を。
「……なぁ、いま、仲直りの雰囲気だったよな?」
「あっ! えと、座るのですか?」
「ん、座って」
テオ様のお膝に、横向きでそっと腰を下ろしました。
テオ様は腰を支えつつ、私の胸に顔を埋められました。
「ミラベルと赤ん坊の重さを感じたかったんだ」
胸に顔を埋める必要はあったのか、は言っては駄目な気がしたので、口を噤みました。
「ミラベル、未来の話をしよう? もっともっと、この子の事を話そう?」
「はい、いっぱい話しましょう」
「そうだな、先ずは――――」
いい雰囲気というものは、わりと簡単に、一瞬で崩れ去る訳で。
「嫌ですっ!」
「何故だぁ⁉ バウデヴェイン・ユクトス・ラドバウト・ファン・デル・フォレスター、格好良いじゃないか」
「嫌です! そんなの! っていうか、その長ったらしい名前……え? 趣味だったんですか⁉」
「…………悪いか」
口を尖らせ、プイッとそっぽを向かれました。
ちょっと可愛い……じゃなくて!
まさかの、厨二病設定、時々設定じゃないやつ⁉
悪いかと聞かれれば悪いので、ぶった斬りますが。
「その趣味は、自身の中に押し留めておいてください」
「……カッコイイのに」
テオ様がプチプチと文句を言いながら、お茶を飲みかけて、ガタリと立ち上がりました。
「国民投票とかどうだ⁉」
どうだ、と言われましても。
まさか、子供の名前を国民投票で決める気ですか!
男の子か女の子かもわかっていないのに。
「却下!」
「却下言うな」
「却下です。一般的な、普通の名前にしますっ!」
「けち」
またもや口を尖らせて、プチプチと文句を言い出したので、えいやっ! とテオ様の唇を奪ってみました。
「プチプチ言わない!」
「…………も一回」
「普通の名前にしていいのなら、します」
「んぐ……………………それでいい。キスして?」
――――あらぁ?
イジけつつも、キスで折れてくれました。
あんまりにも可愛らしかったので、ちょっと甘く、ながーいキスをしました。
テオ様は、大喜びでした。
チョロいです。
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