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154:妬いてはいない。
しおりを挟む冬が目前に迫った十一月の頭、王太子宮で小さな命が誕生しました。
お名前は、『サミュエル』様といい、煌めく金色の髪と濃い灰色がかった水色の瞳をお持ちです。
生命力に満ち溢れた泣き声は、陛下たちや私達だけでなく、侍女たちまでも癒やされています。
小さな王子様に全員がメロメロです。
王太子宮で小さな王子様のほっぺや足の裏をもみもみしては、王妃殿下と「そこを揉むとは、なかなかのツウですね」なんてちょっと気持ち悪い会話をしています。
「はぁぁ、もう三十分経ってしまいました」
「ミラベルちゃん、明後日まで、一緒に我慢よ!」
祖母馬鹿と叔母馬鹿のメーターが振り切れた為、王妃殿下と私はサミュエル王子殿下への接触を制限されてしまいました。
二日に一回三十分です。
短いです。
足りないです。
夜、執務が終わって戻られたテオ様に、サミュエル様がどれだけ可愛かったかを力説しますが、大概が「そうか、よかったな」と言われ、興味なさそうにされてしまいます。
「明後日は一緒に行きませんか?」
「……いや、私はいい」
今回も駄目かー、と諦めてソファに座り、お茶を飲もうとしましたら、テオ様が横に座ってジッとこちらを見てきました。
「どうされました?」
「最近、ずっとサミュエルのことばかりだ」
「まさか、妬いているのですか?」
「妬いてはない。…………が、寂しい」
ゆっくりと目を伏せながら、視線を横に逸らされました。
やるせないような、何かを耐えるような、そんな表情で。
「赤ん坊が可愛いのはわかる。だか最近は、ずっとその話しかしていない。正直、もう聞きたくない。私はミラベルと話したい。今日あったことや、明日のことを。サミュエルの未来より、私達の未来の話を。ミラベルの中で育まれている命の話を…………私達の子供の話をしたい」
「テオさ――――」
テオ様が、ふ、と嗤いました。
「ミラベルと一緒にいる時が、最も孤独だと感じるよ」
「――――っ、テオ、様?」
何かを言おうとしたのに、テオ様の呟かれた言葉が衝撃的過ぎて、頭が真っ白になりました。
よくよく思い出せば、テオ様はずっと「聞きたくない」というサインを出していました。なのに、私は興奮しっぱなしで、押し付けるように話しまくっていた気がします。
「……すまない。嫌な言い方をしたな。今日は自室で眠る」
立ち上って夫婦の寝室を去ろうとしたテオ様の袖を掴み、引き止めましたが、やんわりと手を離されてしまいました。
背筋がゾワリとし、胃がギュッと縮むような感覚に襲われました。
手がカタカタと小刻みに震えます。
怖い。
物凄く怖いです。
私が、テオ様を傷つけてしまった。
私から、テオ様が離れていってしまう。
喉の奥が締め付けられ、息が止まりそうです。
「っ、テオ様ぁっ!」
ありえない程に大きな声で、叫んでしまいました。
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