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105:招待状
しおりを挟む ほぼ身内だけの気軽な昼食会。
始終賑やかな雰囲気で、問題も起こらず、昼食会が恙無く終わったまでは良かったのだが。
その後、まさかの出来事が起ころうとは……。
***
発端は、修道士イエイツが是非ラドを連れて来たいと言い出した事だった。祖国を離れて一人寂しく正月を過ごしているというのも味気ないだろうし、何より彼には弟イサークの事も頼みたいと考えていたところだったので快く許可を出す。
「聖女様、新年だというのに彼は一人つましい食事をしておりましたぞ!」
ただ残念ながら、イエイツ達が戻って来たのは、昼食会の終わりに近くになってから。
既に何人かは席を離脱している。
それでもグレイの言う通り、ぎりぎりだったけど時間内には間に合って良かったと思う。
ちなみにつましい食事の内容は買い置きのパンとチーズだけだったらしい。先日貰っていた手紙の礼や挨拶もそこそこに、私はサリーナに食事の手配をするよう目配せをする。グレイが恐縮しきりのラドを空いて片付けられた席へと促した。
温かいご馳走を、正月太りする勢いで腹いっぱい食べるがいい。
グレイがラドに色々と訊ねている。彼の実家のトワイニング商会(吹けば飛ぶような、と謙遜しているけど、世界に轟きそうなポテンシャルの名前である)は――なんと、ナトゥラ大陸産の宝石類や珍品を取り扱っているらしい。
こ、これは協力関係を築ければアルビオン王国市場へ殴り込む商機となるかも? アルビオン王国に紅茶文化が広まれば、もっと儲かりそうだな。
商船は持っていないようだけど、それはキーマン商会がカバーできるだろうし。
留学した理由の一つは高給衣装店事業立ち上げの為? 洗練されたトラス王国の服飾を見て来い、と。ほうほう成程……。
そこまで聞いて、私は話を代わって欲しいとグレイの腕を突いた。
グレイの希望する羊毛取引は専門外だったが、彼が将来有望なのは間違いない。
大学入学を控えるイサークにとっても、良き先輩となってくれるだろう。ここは、存分に恩を売って味方に引き入れておかねば。
「ラドさん、実は私、貴方を見込んでお願いがあるのですが……」
「聖女様が?」
私に出来る事でしょうか、と居住まいを正すラド。私はイサークを呼ぶと、ラドの事を紹介した。
しかしイサークは警戒した様子でじろじろとラドを見ている。きっと『アルビオン王国出身』というところに警戒しているのだろう。
ラドが一瞬こちらを見たので、で弟がごめんなさい、と訴える。
ラドが大人の態度で礼儀正しく挨拶してくれたので、イサークも渋々と返した。
「――それで、この人がどうしたの?」
――王国ごと破門されているアルビオンの人間だよね。聖女のマリーお姉ちゃまに危害を加えそうな人とは僕、あまり仲良くしたくないんだけど。
どうやら私の事を心配してくれているらしい、愛い奴め。
耳元でぼそぼそと囁かれた言葉に、私はイサークの肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫よ、きっと」
これまで、神聖アレマニア帝国のゴリラやアヤスラニ帝国のおじゃる麿やエスパーニャ王国の勘助、その他有象無象の貴族達を見て来た。どいつもこいつの表面上を取り繕っていても、ギラギラした欲望は伝わってくるものだ。
ラドには、それを一切感じないのである。
それに、私には精神感応能力がある。それに、万万万が一があったら燃やせば良いんだしね。
そうならない事を祈るけれど。
それは置いておいて。
冬期休暇中なら、是非とも我が家に滞在してイサークに色々レクチャーして欲しい。
そうお願いしてみると、「ラドさんにも生活がある」とグレイに窘められた。
何でと思いながらも通いという条件に譲歩したところで、グレイに精神感応を求められる。能力を使うと、アルビオン人をうちに泊めるのはカレドニア王国に不信感を持たれると注意されてしまった。
やべ、イサークの為と考える余り思慮に欠けていたわ。ありがとうグレイ!
通いで来て欲しいと改めて頼み込むと、ラドもホッとした様子でOKを出してくれた。
ただし、一つ願いを聞いて欲しいと。
個人的な事情であまり人に訊かれたくないらしい。ならばと精神感応を使ってその願いを探ってみたのだが……。
驚きの余り、反射的に私は声を上げてしまった。
ラドの本名は、『コンラッド・プリンス・オブ・アルビオン』。
彼はどうやらアルビオンの第二王子様だった模様。
しかも、リュシー様の異父弟という…………マジか。
始終賑やかな雰囲気で、問題も起こらず、昼食会が恙無く終わったまでは良かったのだが。
その後、まさかの出来事が起ころうとは……。
***
発端は、修道士イエイツが是非ラドを連れて来たいと言い出した事だった。祖国を離れて一人寂しく正月を過ごしているというのも味気ないだろうし、何より彼には弟イサークの事も頼みたいと考えていたところだったので快く許可を出す。
「聖女様、新年だというのに彼は一人つましい食事をしておりましたぞ!」
ただ残念ながら、イエイツ達が戻って来たのは、昼食会の終わりに近くになってから。
既に何人かは席を離脱している。
それでもグレイの言う通り、ぎりぎりだったけど時間内には間に合って良かったと思う。
ちなみにつましい食事の内容は買い置きのパンとチーズだけだったらしい。先日貰っていた手紙の礼や挨拶もそこそこに、私はサリーナに食事の手配をするよう目配せをする。グレイが恐縮しきりのラドを空いて片付けられた席へと促した。
温かいご馳走を、正月太りする勢いで腹いっぱい食べるがいい。
グレイがラドに色々と訊ねている。彼の実家のトワイニング商会(吹けば飛ぶような、と謙遜しているけど、世界に轟きそうなポテンシャルの名前である)は――なんと、ナトゥラ大陸産の宝石類や珍品を取り扱っているらしい。
こ、これは協力関係を築ければアルビオン王国市場へ殴り込む商機となるかも? アルビオン王国に紅茶文化が広まれば、もっと儲かりそうだな。
商船は持っていないようだけど、それはキーマン商会がカバーできるだろうし。
留学した理由の一つは高給衣装店事業立ち上げの為? 洗練されたトラス王国の服飾を見て来い、と。ほうほう成程……。
そこまで聞いて、私は話を代わって欲しいとグレイの腕を突いた。
グレイの希望する羊毛取引は専門外だったが、彼が将来有望なのは間違いない。
大学入学を控えるイサークにとっても、良き先輩となってくれるだろう。ここは、存分に恩を売って味方に引き入れておかねば。
「ラドさん、実は私、貴方を見込んでお願いがあるのですが……」
「聖女様が?」
私に出来る事でしょうか、と居住まいを正すラド。私はイサークを呼ぶと、ラドの事を紹介した。
しかしイサークは警戒した様子でじろじろとラドを見ている。きっと『アルビオン王国出身』というところに警戒しているのだろう。
ラドが一瞬こちらを見たので、で弟がごめんなさい、と訴える。
ラドが大人の態度で礼儀正しく挨拶してくれたので、イサークも渋々と返した。
「――それで、この人がどうしたの?」
――王国ごと破門されているアルビオンの人間だよね。聖女のマリーお姉ちゃまに危害を加えそうな人とは僕、あまり仲良くしたくないんだけど。
どうやら私の事を心配してくれているらしい、愛い奴め。
耳元でぼそぼそと囁かれた言葉に、私はイサークの肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫よ、きっと」
これまで、神聖アレマニア帝国のゴリラやアヤスラニ帝国のおじゃる麿やエスパーニャ王国の勘助、その他有象無象の貴族達を見て来た。どいつもこいつの表面上を取り繕っていても、ギラギラした欲望は伝わってくるものだ。
ラドには、それを一切感じないのである。
それに、私には精神感応能力がある。それに、万万万が一があったら燃やせば良いんだしね。
そうならない事を祈るけれど。
それは置いておいて。
冬期休暇中なら、是非とも我が家に滞在してイサークに色々レクチャーして欲しい。
そうお願いしてみると、「ラドさんにも生活がある」とグレイに窘められた。
何でと思いながらも通いという条件に譲歩したところで、グレイに精神感応を求められる。能力を使うと、アルビオン人をうちに泊めるのはカレドニア王国に不信感を持たれると注意されてしまった。
やべ、イサークの為と考える余り思慮に欠けていたわ。ありがとうグレイ!
通いで来て欲しいと改めて頼み込むと、ラドもホッとした様子でOKを出してくれた。
ただし、一つ願いを聞いて欲しいと。
個人的な事情であまり人に訊かれたくないらしい。ならばと精神感応を使ってその願いを探ってみたのだが……。
驚きの余り、反射的に私は声を上げてしまった。
ラドの本名は、『コンラッド・プリンス・オブ・アルビオン』。
彼はどうやらアルビオンの第二王子様だった模様。
しかも、リュシー様の異父弟という…………マジか。
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