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91:手汗と脇汗。

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 テオ様に、どんどんと追い詰められて、逃げ場がなくなってきました。
 背中の冷や汗が尋常ではありません。
 手汗も、脇汗も、凄いです。

「ミラベル」
「っ!」

 テオ様のお顔がどんどんと険しくなってきています。
 間違いなく、変な疑いをかけられている気がします。
 どんなに荒唐無稽でも話すべきよ。そう、決意しました。

「テオ様」
「……ん」
「私、前世の記憶があるのです!」
「…………そこまでして、話したくない? 私は頼りない?」

 眉間に皺を寄せ、首を傾げ、寂しそうな顔をされて……させて、しまいました。

「いえ、本当に前世の――――」
「ミラベル!」
「は、はい」

 説明しようとしましたが、怒気をはらんだ声で名前を呼ばれました。

「何か、トラブルに巻き込まれているのなら、助けるから。嘘は吐かないでくれ。国を……捨てでも、必ずミラベルを護り通すから。今度こそ、守るから」

 えっと…………国は、捨てないでいただきたいです。
 あと、国を揺るがす程の秘密でもないです。
 ただただ、私の頭が可怪しいと思われる案件なだけなのです。

 そう伝えたいのに、テオ様一人が何だか盛り上がって、燃え上がっていらっしゃいます。
 テオ様の中では、どんなストーリーが出来上がっているのでしょうか⁉

「あのー」
「ん、何でも聞く」
「あ、いえ。ちょっとお聞きしたいのですが、テオ様の予想は?」

 テオ様が怪訝な顔をして首を傾げたあと、意を決したようなキリッとした表情をされました。
 アクアマリンと黒の双玉に真っ直ぐに見つめられ、何故だか後ろめたく感じて、モゾモゾと体を動かしてしまいました。
 
「よくよく考えると、ミラベルは義父上にも、義母上にも、義兄上にも似ていない。可愛い」

 ――――可愛い?

 そういえば、既に『義理の』呼びなのですよね。
 ものっそい、気が早いですわね。
 あと、わりと父と似ていると言われますが?
 可愛いは……まぁ、ありがとうございます。多少テオ様の何かのフィルターが掛かっていそうではありますが。

「アップルビー家の謀反むほんを疑いたくはないが…………のっぴきならない理由があり、対私用に幼少期に他所から迎え入れられたのではないか? 私と出逢わさせられたあと、何らかの理由で私と仲違いさせられ、領地に戻された。そして、ミラベルはその寂しさを紛らわせる為に、祖国の食事を思い出しては、様々な料理の開発を……」

 ――――かすってる!

 何だか解りませんが、微妙にかすってきました。
 壮大な裏切り行為を疑われてはいますが。

「まず、謀叛はありえません!」

 あの、人畜無害そうな父と兄、稀に王妃殿下に流されはするものの、基本的には優しい母を疑う事は許しません。
 あの男の事件の後、すぐに会いに来てくれていたそうですし。、面会を拒否していたらしいですが。
 ……そういえば、その事について、何の説明も受けていませんわね?

「あ…………だって、ミラベルがいなくなるの……嫌だったから」

 小さな子供のように口を尖らせ、俯いてぷちぷちと言われてしまいました。
 妄想を繰り広げていた時の勢いがなくなり、しぼんだ風船のようになっています。
 そして、その姿が可愛いと思ってしまう私は、テオ様に絆されまくっているのでしょうね。

「テオ様、今からお話する事を、絶対に疑わないで欲しいのです」
「絶対に? 疑ったら?」
「す……」
「す?」
「凄く、嫌いになります……」

 アホみたいです。
 そして、テオ様もそう思ったのでしょう。
 眉をへニョンと下げ、苦笑いされました。

「解った。何を言われようと信じる」

 ゴクリ。
 
 唾を飲み込む音がふたつ、しんと静まり返った部屋に響きました。

「私は、異世界から、転生して、この世界に来ました」
「お……ぉぉん」

 ――――ですよね!

 それはそれは、とても気の抜けたような返事をされてしまいました。


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