厨二病設定てんこ盛りの王子殿下が迫って来ます。 〜異世界に転生したら、厨二病王子の通訳者にされました〜【R18版】

笛路

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84:キラリと輝く雫が流れた。

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 将軍の死を知らされた二日後、朝からジワリジワリとした腹痛を感じました。
 お手洗いに行き、「あぁ、やっぱり。ストレスで遅れていただけだったのね」と、落胆とも安心ともいえない不思議な感情を抱きました。
 テオ様に伝える気にはなれず、黙っていたのですが、夜のお風呂の時には気付かれてしまいました。

「何で、黙ってた?」
「……」

 何でと言われ、なぜ伝える気にならなかったのか、考えていました。

「ミラベル、何でだと聞いているんだ」
「……伝えたら、笑顔で『ミラベルを苦しめるものが、この世からひとつ無くなった』と言われそうでしたので」
「言うはずが、ないだろう? 私は、楽しみに…………していたんだよ?」

 テオ様のお顔がクシャリと歪みました。

「そう、だったな…………私は、嫌われているものな」

 テオ様が、泣きそうなお顔でそう呟くと、ソファに寝転がり、こちらに背を向けられました。
 どうやらソファで寝られる気のようですが、夜はまだ肌寒いのでお風邪を召されるかもしれません。

「テオ様、毛布を――――」
「……私は、ミラベルに相応しくないのだな」

 急に、震えた声で、そんな事を言われてしまいました。

「え?」
「今回の事は、全て私が悪い。私の行動の全てが悪手で、ミラベルを傷付けた。嫌われるのは…………当たり前。閉じ込めて、見張って、大切に抱きしめても、何の意味もない。そうだろう?」

 ――――え?

「どんなに愛していても、どんなに想っていても、嫌悪感を抱かれているものな。…………気づいていたんだ、ミラベルが……私の事も『気持ち悪い』と思っていると」
「っ⁉」

 確かに、あの日から、男性が怖かった。
 あの男じゃないとわかっているのに、怖かった。
 自分が穢れたモノに思えて、テオ様にまでそう思われるのが怖くて、震えていました。

「…………すまなかった」
「テオ、さま?」
「ミラベルと私の未来は……もう、無くなってしまったのだな」

 テオ様の背中が、微かに震えていました。
 大きいはずの背中が、とても小さく見えます。
 そっとテオ様に近寄り、背中に手をあてると、ビクリとされてしまいました。

「もう、好きにしていいよ。ミラベルが幸せになるのなら、全てを受け入れる」
「…………私が出ていったら、テオ様はどうされるのですか?」
「……さぁ? どこかの令嬢でも充てがわれて、ソレと結婚するのだろうな」

 王族だから、誰かとは結婚せざるを得ない、と全てを諦めたような声で呟かれました。

「私以外の女性に、触れるのですか?」
「…………あぁ。ミラベル以外を愛し、ミラベル以外を抱く」
「テオ様の……通訳はどうされるのですか?」

 そんな事を聞きたいわけではないのに。

「……ミラベルじゃなくても、いい」
「っ、そうですか。テオ様は、私を――――」

 ――――切り捨てるのですね。

 そう言い掛けたところで、自分中心の考え方や、浅ましさに慄きました。

 そうしたくないから、色々と動いて下さっていたのに。
 繋ぎ止めようと、必死になられていたのに。
 ずっと待っていて下さったのに。
 最後まで私の事を想って下さっている。

 部屋から出ようと思えば簡単に出られたのに、そうはしなかった。
 私はあの日からずっと、テオ様や皆に甘えて、全てをテオ様のせいにして、ただ楽をしていただけでした。
 テオ様を傷付けて、何がしたかったんでしょうか。
 
「テオ様」

 よしよしとテオ様の頭を撫でました。

「触るな」
「嫌です」

 無視して撫で続けました。

「…………襲われたいのか?」

 低くかすれた声で言われました。
 こちらに背を向けていたテオ様が、仰向けになられて、片手で目を覆われました。

「っ……すまない、堪え性がなくて、根性がなくて。いつまでも、側で見守り続ける気概が、持てなくて」

 仰向けになったテオ様の頭を更に撫で続けました。

「ミラベル、触らないで。期待を、持たせないで……」

 テオ様の手の下から、キラリと輝く雫が流れました。
 心臓が、ギュウギュウと握りしめられているかのように痛いです。

 唇がカサカサな気がして、少し舐めて、潤いを持たせました。
 そうっとそうっとテオ様に顔を近付けて、柔らかな唇に、ふにゅりと自分のそれを重ねました。

「っ!」

 手は震え、嫌な考えが、記憶が、頭の中を巡るけれど、グッと抑え込んで、ゆっくりと唇を離し、にこりと微笑んで、今度はテオ様の涙を舐め取りました。

「ん……塩っぱいですね」
「…………っ、ミラベルっ」

 テオ様がガバリと起き上がって、するりと手を伸ばしてきました。
 私の首に手をかけると、優しく引き寄せて、柔らかく抱きしめて下さいました。
 何も話さず、ただ抱きしめて、私の肩に顔を埋めるテオ様の頭を、ゆったりと撫で続けました。


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