84 / 196
閑話:ある男の末路。
しおりを挟む――――最悪だ!
何が最悪かって?
戦績の報酬で手に入れたアンジェリカに逃げられた事だ。
一時はうまくいくかと思っていたが――――。
船団を組んでアンジェリカを追いかけて、あっちの司令船に侵入したら、優男の寝室にいるじゃねぇか。
――――また他の男に股開きやがって!
苦労して手に入れたのに、ワガママ糞メスガキは、全く思い通りにならねぇ。
イライラして、襲って、殴って、解らせようとした。
「ほら、いつもみたいに喘げよ。無理矢理も好きだろう?」
「ひ……ぃゃ……」
突っ込む直前に、ドアが蹴破られ、灯りが点いて、組み敷いている女がアンジェリカじゃねぇと気付いた。
体型も髪も全然違うじゃねぇか。
頭に血が登りすぎて、そんな判断も出来ねぇとはな……。
後ろ手で縛られ、猿ぐつわを付けられ、甲板に連れて行かれた。
「ゔぐがぁぁぁ!」
「……みっともない。喚くな。煩い。汚い」
クソが。
優男――王子のくせに、ちまちまと爪を剥がしやがって!
「やれ」
「「はっ!」」
ヤツの一声で俺の船団への総攻撃が始まった。
俺を人質にした、抵抗すれば俺を殺す。と宣言して、二隻を沈めやがった。
司令船は特に粉々だった。
こりゃあ、部下達は全滅だな。
――――これが王族のやることか?
人のことは言えねぇが、陰湿で泥臭すぎるだろ。
フォレストリア王国の地下牢に詰め込まれ、両腕を壁に繋がれ、両手を上げて跪く形にされた。
猿ぐつわはそのままだ。
そして、糞尿を垂れ流しの状態で数日放置された。
何か騒がしい声が聞こえると思って目を開けたら、優男がアンジェリカの髪を鷲掴みにして引きずって来てるじゃねぇか。
「フッ、惨めだな?」
「ふぐぅぅぅ!」
――――その女を乱暴に扱っていいのは俺だけだぞ!
優男が、俺の向かい側の牢に入れられていた奴等の中に、アンジェリカを入れてマワさせる、とか言い出した。
クソが! そんなことをされたら、計画が台無しだ!
俺がどれだけ苦労してアンジェリカを手に入れたと思ってやがるんだ。
「やめて、やめてよ! わたし、何もしていないじゃない!」
「うがぁぁぁぁ!」
――――クソクソクソ!
もう駄目かと思ったら、優男の兄貴が割って入って来た。
「アンジェリカを部屋に」
「はっ!」
何かわめき叫んでいたアンジェリカを、騎士が腕を掴んで連れて行った。
もう少し丁寧に扱え! それは俺の女だぞ!
「やぁ、将軍。久しぶりだね。対応が遅れたせいで、待たせてしまったようだね」
優男よりさらにのほほんとした王太子が、俺を牢から出した。
どうやら国から連絡が入ったらしい。
「あぁ、痛そうだね。愚弟には注意をしておこう」
「今回の件については、国より抗議が行くでしょうな」
「あぁ。その為に、エフセイ殿がこちらに向かって来ているよ」
なんだ、エフセイのやつが、出て来んのか。
こりゃあ、こっちにいい風が吹いてるな。
「将軍、ちょっとは自制してくれると助かるんだがね?」
「ご息女を助けたい一心でしたのでね」
「ふぅん。その、割には随分と面倒な事になっているが?」
エフセイは、あの優男兄弟を警戒しているらしい。
弟は武芸に秀でていると噂は聞いていたが、全て部下にやらせているだけだったし、兄貴はにこにこして下手に出てきた。
黙らせるのは簡単だろう。
二国間協議はほぼこっちの思い通りだった。
協議の準備中に妊娠が発覚したのはラッキーだったな。
アンジェリカを手放す羽目にはなったが、優男のガキを孕んだ婚約者を手に入れられた。
乳臭そうなガキだが、まぁ、次への足掛けにはなるだろう。
協議が終わって客間に戻ると、豪華な料理と酒、俺好みの高級娼婦達がいた。
腹拵えをし、高級酒を煽り、女達と楽しもうとしたが、何かがおかしい……。
腹が焼けるように痛い……痒い、痛い、痒い。
「うぐ……ゴハッ」
「きゃあ! どうされましたの? 将軍様?」
「これは……きっと何かの病よ!」
「吐いたものに触ると感染するかもしれないわ!」
「皆、近寄っては駄目! 早く外に出るのよ!」
女達がキャァキャァと騒ぎながら部屋から出ていった。
床に倒れ、全てを吐き出し、それに塗れているのに、誰も俺を心配しなかった。
痛みでのたうち回っている間に、手足はパンパンに腫れ、痺れ、動かすことも出来なくなった。
これは、病気じゃねぇ。
毒だろ。
早くしろ。
……医者を呼べ。
床に倒れ何時間経っただろうか。
上からも下からもたれ流し、ガタガタと痙攣していると、扉が開き誰かが入って来た。
やっと、医者が来たかと、思った。
「惨めだな」
「ゴフッ……き……ざ、ま…………」
「何を言っているか、分からんな。あぁ、本当に、惨めで、無様だな。お前も、そう思うだろう?」
「ゴハッ…………を……べ」
――――医者を呼べ。
優男だと思っていた第二王子の、何の感情も映さない目と顔を見て、自分の失態を悟った。
コレは…………優男なんかじゃない。
「あぁ、そうだ。ひとつ、安心できる事を教えてやろう」
動きの悪い肺に力を入れ、ゼーヒューと息をしていた。
第二王子が俺の近くにイスを起き、そこに優雅に座った。
「その病は、お前だけがかかっているそうだ。良かったな? お前の大好きな女達は皆無事だ」
――――何が、病だ。
「ゴフッ……ガ……グッ……」
「ん? 何だ? もう話せなくなったのか? つまらないな。まぁ、安心するといい。私が最後まで付き合ってやる。そうそう、アンジェリカだがな、お前が死にそうだというのに、部屋に男をつ――――」
第二おうじがたのしそうに、なにかを話してる……。
目をみはるほど、うつくしいかお……かがやかせて、おれのかお、のぞきこんで、る……。
「――、――――?」
なにも、みえない。
なにも、きこえない。
いたい、いたい、くるしい。
いやだ、いやだ、くるしい、くるしい。
だれか、たすけろ、だれか、たすけて、しにたく、ない――――。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。


【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています
21時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。
誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。
そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。
(殿下は私に興味なんてないはず……)
結婚前はそう思っていたのに――
「リリア、寒くないか?」
「……え?」
「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」
冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!?
それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。
「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」
「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」
(ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?)
結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる