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79:耐え難い。

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 ――――何故? 

 エゾノイ王国のエフセイ王太子殿下のお言葉を聞いて、何故の文字が頭の中を占めていきました。

「まぁ! 殿下、そのように私の祖国を脅さないでくださいませ。もう少し、穏便にできませんこと?」
「……そうだな」

 エフセイ王太子殿下が、年配の女性の言葉を聞き、少し悩むような素振りをされたあと、代替案を出されました。

「そちらのご令嬢は妊娠していると聞いた。将軍の子の可能性が非常に高い。他の男と関係を持ったのであれば、王族には迎え入れられないのはどこの国も一緒であろう? セオドリック殿下には未通の我が娘を。将軍にはそちらのご令嬢を。国同士のつながりを強くしていただけると言うのであれば、これで手を打ちましょう」

 ――――なっ⁉

 あまりにも、理解し難いことを、耐え難いことを言われ、ガタリと立ち上がりました。

 未遂だったのに!
 将軍の……あの男の子供などであるはずがないのに!
 テオ様としか――――。

「ミラベル……座れ」
「ミラベル嬢、座りなさい」

 テオ様から座るように言われ、国王陛下からも座るように言われて、私は崖から突き落とされたような気持ちになりました。
 誰も、私の話を聞く気は無いのだと気付きました。
 ドサリとイスに体を投げ出すと、エゾノイ王国側にいた年配の女性が、何か私を貶めるような言葉を吐いていました。
 また議事堂内に笑いが起こっていましたが、もうどうでも良い気分でした。

 ――――テオ様は、私を切り捨てるのですね。

 それなら、愛しているなんて言わないで欲しかった。
 穢れた私なんて、もう愛せないと言って欲しかった。
 そうしたら潔く…………散れるのに。



 二国間の協議と言う名の、私を切り捨てる儀式が終了し、国王陛下とエゾノイ王国の王太子殿下が協定書に署名と押印をして、朗らかな笑顔で握手をしていました。
 
「お祖母様、このあと王城内を案内してくださる? ここのお城、王族専用の避難路が沢山あるらしいの! あとね、宝物庫にあるジュエリーが見たいわ!」
「いいわよ。避難路は覚えないといけませんしね。宝物庫? 懐かしいわねぇ。もう何年も見ていなかったわ」
「そうそう! 私、ずっと出歩くことを禁止されていたのよ! 酷いでしょ⁉」
「まぁ! 貴方、私の孫をそんな扱いしていたの⁉ お兄様はいったいどんな教育をしてたのかしら。国王の自覚が足り無いのではなくて?」
「ははは、手厳しいですな」

 年配の女性は、アンジェリカ様のお祖母様。
 当国の先王陛下の妹君。
 それが判ったところで、もう何もどうにもならないけれど。
 二人はとても楽しそうにお話されています。

 私は、足に力が入らないので、立ち上がることも、立ち去ることも出来ず、その場でぼうっと座っていました。
 カツカツと誰かが近付いて来る音が聞こえて、テオ様が来てくれた? なんて、馬鹿な期待をして顔を上げました。
 でも、そこにいたのは、エゾノイ王国のであろう軍服を着た男でした。

「クソッ、完全に貧乏くじだな。アンジェリカは手に入らず、部下は失い、乳だけデカい小娘で、しかも優男と穴兄弟とはな」

 チッ、と舌打ちをしながら、男が顔を近付けて来ました。

「優男のガキを死なせたくなかったら、ちゃんと奉仕しろよ?」

 耳元でそんな事を囁かれ、呼吸困難に陥りそうになった時でした。
 私と男の間にロブがスッと入って来てくれたのです。

「一介の騎士が何だ? まさか、アンタ、この男も咥え込んでんのか? オイオイ、とんだ淫乱だな!」
「……」

 全てがどうでも良くなって、ロブの腰に下がっている剣にそうっと手を伸ばしました。
 ですが、ロブに手を包まれて、ふるふると顔を横に振られました。

『駄目ですよ』

 そう聞こえた気がしました。


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