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78:賠償を求めたい。
しおりを挟む重厚な扉の前に立ち、深呼吸をしました。
頭の中で『大丈夫』と自分を鼓舞します。
扉の横に立っていた騎士に合図を出すと、扉を開けてくれました。
「……失礼、いたします」
議事堂に入り、陛下に挨拶をしましたら、座るようにと言われました。
ニホンのコッカイギジドウと似たような作りで、上座に陛下と王妃殿下が座られ、その左右にブラッドフォード王太子殿下とテオ様が座られています。
テオ様方の向かい側には見たことのない男性たちと年配の女性とアンジェリカ様、そして将軍――あの男もいました。
その他は両国の文官や武官などが各々の持ち場に立たれていました。
テオ様方の向かい側にいたのは、エゾノイ王国のエフセイ王太子殿下で、オリーブブラウン色の波打った髪を耳の中ほどで切り揃えて後ろに流されています。
とても柔らかい笑顔の四十代後半くらいの方でした。
何となく、アンジェリカ様とは似ていない気がしました。
私は皆様から少し離れた場所で一人座らされています。
ザラやリジーの付き添いは禁止されました。
ロブだけは、私の後ろで護衛を続けてくれています。
「では、協議を開始しよう」
陛下の開始宣言後、あの時の海上や船内の状況などが事細かに説明されました。
どうやら男は単身で乗り込み、私のいた寝室に侵入したようです。
部屋の横にある控え室にいたはずのザラやリジーは縛られ、別の部屋に詰め込まれていた事を、今知りました。
――――これが終わったら、怪我しなかったか聞かないと。
そうして、どんどんと話が進んでいきました。
あぁ、知られたくなかった事、全てが詳らかにされてしまう。そう思った時でした。
「私が、アンジェリカを救出しようと思い、入った寝室で、その女がベッドに寝転がり、しどけない格好で誘って来ました」
「っ⁉」
――――違う、違う! 絶対にそんな事しない!
「捕縛した際に、貴殿が『アンジェリカと勘違いしていた』と言っていたのを聞いた者が何人もいるが?」
ブラッドフォード王太子殿下が淡々と疑問を投げかけていました。
テオ様は、表情を一切崩さず、ずっと黙っていらっしゃいます。
「そう言わないと、その場で殺されそうな状況でしたので」
「ふむ。誘われて、乗ったと。それで? 令嬢の顔を変形させるほどに殴る必要はあったか?」
「最中に他の男の名を出されたもので。自分から誘って来ておいてですよ? 流石に萎えるでしょう? まぁ、ちょっと興が乗りすぎた所はありますが」
「フッ、確かにな」
何故、私が誘ったという前提なのでしょうか。
何故、ブラッドフォード王太子殿下はクスリと笑われたのですか?
何故、議事堂内でくすくすと笑い声が起きているのですか?
何故、『相手国の船に乗り込んで、アンジェリカ様を何かから助けようとしていたのに、誘われたからと、その場で誰かとベッドを共にする』という違和感だらけの理由を押し通そうとするのでしょうか?
何故、誰もそれについて、何も言わないですか?
わからない事だらけです。
この場で自由に発言出来るのは、王族の方々、質問された人物のみです。
先程から全く質問もされないのに、私は何のためにここにいるのでしょうか。
テオ様は、何故ずっと真顔で無言を貫かれているのでしょうか。
私が頭の中でぐるぐると考えている間にも、どんどんと話が進んでいきました。
「こちらとしては、当国船団に対する容赦のない総攻撃、将軍の不当な監禁・暴行、我が娘アンジェリカへの暴行と性的暴行の教唆に対する賠償を求めたい」
――――え?
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