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76:寒い。

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 ******



 ザラとリジーに薬を塗りたくられ、厚手で柔らかい夜着を着せてもらいました。
 ベッドの上でぼーっと外を眺めていたら、ロブが部屋に入って来ました。
 ぐしゃぐしゃの花束と、ノックスを連れて。

「ノックス! まぁ、大きくなって!」
「はい、殿下がそこら辺で千切ってた花束です」

 ロブが近付こうとして、止まってくれました。
 私がビクリと身体を震わせたことに、気が付いてしまったのでしょう。
 ロブがザラに花束を渡し、ノックスのお尻を押して、こちらに行くようにと指示していました。

 ノックスはベッドに前足を乗せ、クリクリとした瞳で、私を静かに見つめてきました。
 鼻筋を撫でると、嬉しそうに目を閉じ、ヒュゥゥンと可愛らしい鳴き声を出しました。

「うふふ、かわいい」
「わふん!」
「あら、かわいいは嫌なの?」
「わふぅぅん!」

 何だかノックスとお話ができているような気がして、楽しくなりました。

 花束はザラが花瓶に活けてくれて、サイドボードに置いてくれました。

「綺麗。……まとまりないけど」
「そうですね。長さもバラバラで、センスゼロでしたわ」
「あはは、ひどぉい! ……っ」

 何でもないことを話して、笑って、顔の痛みに気付いて、思い出して、震えて。

「…………ねぇ、ザラ」
「はい、何でしょうか?」
「……寒いの」
「そうですね。…………今日は、とても寒いですね」
「うん。…………ザラ、抱きしめて?」

 ザラに縋るように手を伸ばすと、ザラが泣きながら柔らかく抱きしめてくれました。
 ザラは温かくて、抱きしめられていると、穏やかな気持ちになれて、ウトウトとしてしまいました。

「眠られて大丈夫ですよ。ずっと側にいますから」
「ん……」

 目が覚めたこの日から、私はずっと部屋に籠もっていました。
 ザラとリジーだけが部屋に入り、ロブは休憩と睡眠以外、ずっと部屋の外で警備をしてくれているようでした。



 部屋に籠もっている間、何度かテオ様の訪問があったようですが、全て断るように、報告もしないで、と頼んでいます。

 あの事件の日から数日で始まる予定だった月のものが、三週間経っても来ず、私は軽いパニック状態になっていました。

 夜は、どうしても目が冴えて眠れず、ただ窓の外を眺める日々が続いています。
 だって、眠ったら…………怖いことが起こるから。

「……ミラベル、入ってもいい?」
「…………」
「ミラベルの顔が見たい。話したいことがあるんだ」
「…………」

 この数日、夫婦の寝室の方から、ノックとテオ様の声が聞こえてきますが、返事はしません。
 いつも、返事をしなければ、入って来ません。
 ですが、今日は違いました。

 ガチャリと鍵が開けられ、テオ様がゆっくりとベッドに近付いて来ました。

「っ! や……こないで」
「ミラベル、久しぶり」
「…………てお、さま?」
「ん?」

 憔悴しきっていて、それでも無理矢理に笑っている。そんなお顔をテオ様がしていました。
 テオ様が、ベッドから少し離れた場所に、書き物机のイスを持ってくると、ドサリと倒れ込むように、座られました。

「……ミラベル、月のものが来ていないんだよね?」
「っ! 何で……」

 ――――知っているのですか。

「侍医には見てもらった?」

 ブンブンと首を横に振りました。
 だって、お城の医師は、男性だから。

「私の子が出来たかもしれないんだよ?」
「ぃゃ…………」
「っ……嫌、なの?」

 テオ様の眉間に皺がギュッと寄り、泣きそうなお顔になってしまいました。

「ミラベル……ごめんね。全部全部、私のせいにしていいからね?」

 テオ様が、膝の上に置いていた手をギリリと握りしめて拳を作り、深呼吸を繰り返していました。

「ミラベル、……アップルビー伯爵家ミラベル嬢。その方を、重要参考人とし、二国間で行われる協議の場において、証人喚問をすることとなった。時は来週末。場所は、当王国の議事堂にて行う。必ず出頭するように」

 協議。
 証人喚問。
 重要参考人。
 出頭?
 証言するという事?
 ……何を?
 …………将軍にされた事を?


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