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75:本当に、惨めだ。 side:セオドリック
しおりを挟む「いやぁっ! ちょっと、私のせいじゃないでしょ⁉」
「煩い、黙れ」
自分が全ての原因のくせに。
客室で、のうのうと茶など飲みやがって。
訳の分からない事を叫び続けているが、知ったことではない。
アンジェリカの髪を鷲掴みにし、引き摺って地下牢まで連れて行った。
目的の牢の目の前に行くと、中には憔悴しきった体格の良い男が、両手を壁の鎖に繋がれ、口には猿轡を嵌められていた。
「フッ、惨めだな?」
「ふぐぅぅぅ!」
「何だ? 何を言っているのか、わからんな。おい、そっちの牢にこの女を入れろ」
「ですが……」
男の向かい側の牢には、五人の節操も自制もない犯罪者を用意しておいた。
頭の悪いこの女と、下半身でしかものを考えていない……まるで私のような、この男には、とっても分かりやすくて、お誂え向きだろう。
「やめて、やめてよ! わたし、何もしていないじゃない!」
「うがぁぁぁぁ!」
男がけたたましく叫び、鎖を引き千切ろうとするが、出来るはずもなく。
男の手首に巻いている保護布は血で滲み、口からは血混じりの涎のような汚いものが垂れ流れていた。
本当に、惨めだ。
そんな姿を見ても、一国を焼き尽くしたい程に燃え盛っている私の心は、鎮められない。
何の役にも立たない男だ。
――――私、同様に。
「……さっさと入れろ」
「誰か! 助けて! いや、いやよ!」
「セオドリック! 止めろ」
「…………兄上、邪魔をしないでいただきたい」
誰が呼んだんだ。
今は一番忌々しい存在の兄上を。
「セオドリック、ミラベル嬢の側にいてやれ」
「……私は、何の役にも、立てませんので」
「そんな事はない。ただ側に――――」
「側にも近寄らせてもらえない! 抱きしめさせてももらえない! この男と、この女と……私のせいで。私が……ミラベルをっ……」
――――追い詰めている!
「セオドリック! ハァ…………ロブ、連れて行け」
「はい。殿下、アップルビー伯爵令嬢の所に参りましょう」
そうか、兄上に報告したのはロブか。
いつもいつも、私の邪魔をする。
忌々しい男だ。
「……ミラベル、と呼べばいいだろう」
「呼んだことはありません」
「『お嬢』だったか?」
「はい……」
ロブに腕を掴まれ、引っ張られ、とぼとぼと歩いた。
途中、庭で花を摘み、子犬たちと走り回っていたノックスを捕まえ、ミラベルの部屋の前に戻った。
「……部屋に入らないんですか? というか、俺、ここまで入っていいんですかね?」
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「はいぃぃ? いつの間にぃ?」
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「はぁ⁉」
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ロブがアホみたいな声を出すもんだから、ノックスが吠え、部屋からはリジーが出て来て、普通に怒られた。
「りじー?」
「っ!」
――――ミラベルの声だ。ミラベル、ミラベル! 私のミラベル!
「……っ、これ、を……ミラベルに。あと、ノックスも。私は…………部屋に戻るっ!」
「ちょ、俺に渡さ――――よぉ!」
ロブが何か言っていたが、知らん。
走って、部屋に逃げ込んだ。
何となく、聞こえるような気がする、楽しそうな話し声で、私の心臓は潰れそうだった。
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