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74:何故、何故、何故。 side:セオドリック

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 恐怖と疲労と、殴られたことによる熱とで、ミラベルは三日間も眠り続けていた。

 朝、身支度をし終えて、様子を見に行こうとしていた瞬間、ミラベルの悲痛な叫び声が聞こえて来て、慌てて部屋に駆け込んだ。
 ミラベルはベッドの上でガタガタと震え、自身を抱きしめていた。

 ミラベルを温めて安心させたくて、抱きしめて愛を伝えたくて、腕を広げて近寄ったら、真っ青な顔で拒絶されてしまった。

「……やだ、汚いの。洗いたい」
「っ、そう、ですわね。お風呂に、入りましょうね?」
「うん」
「ミラベル……?」

 ミラベルが風呂に入りたいと言って、ザラと消えて行ってしまった。
 ミラベル達が戻るまで。と思い、ソファに座り、目を瞑り天を仰いだ。

 今もありありと目に浮かぶ、あの日の光景。
 耳から離れない、ミラベルの泣き叫ぶ声。

 エゾノイ王国の船を止め、責任者に説明を求めたが、のらりくらりとかわされ、随分と待たされた。
 背筋がゾワリとするような嫌な予感がして、側にいた騎士にミラベルの様子を見に行かせたが、戻って来ない。
 焦りつつ現場を離れ、部屋に向かう途中で、様子を見に行かせたはずの騎士とザラとリジーの三人が縛られているのを発見した――――。

 何故、警備を置かなかった。
 何故、部屋の明かりを全て消した。
 何故、もっと早く行動しなかった。
 何故、ロブに様子を見に行かせなかった。あいつなら、もっと戦えた……。
 何故、何故、何故。

 自分の失態、後悔、色々なことを考えていた。 



 風呂場の方から、ザラとミラベルの騒ぐ声が聞こえてきた。
 妙な不安に襲われて、中に駆け込むと、ミラベルが肌を真っ赤に染めていた。

「お嬢様! もう、綺麗ですから! それ以上はおやめください! お嬢様!」
「いや! 汚いって言ってるでしょ⁉ 私、穢れているんだもん! 早くしてよ!」
「…………ミラ、ベル?」
「っ、いやぁぁぁぁぁ、見ないで! 来ないで!」
 
 叫ぶミラベルの手には、硬そうな床磨き用のブラシが握られていた。
 肌はソレで擦られたのか、出血しているのではないかと思うほどに真っ赤になっている。
 嫌がるミラベルを無理矢理抱きしめて、キスをした。

「っ……」

 唇を噛まれてしまった。
 でも、こんなのは、ミラベルの受けた体と心の痛みに比べたら……。

 あの男に殴られた右頬をそっと撫でる。
 痛かっただろう。
 怖かっただろう。
 利き手じゃなかったから、歯まではいかなかったが、口の中は切れていたし、鼻血も出ていた。
 目も頬も、誰もが目を背けそうなほどに腫れ上がっている。

「ミラベルは汚れていないよ。綺麗だよ」
「汚い……。テオ様の側に、いられなくなっちゃった。…………ごめんなさい」
「駄目だ。私の側にいると、約束しただろう?」

 ミラベルはぶんぶんと首を横に振ると、私の腕の中から逃げ出し、そのまま話さなくなってしまった。
 近寄ろうすると、真っ青な顔でビクリと身体を震わせ、歯をカチカチと鳴らしてしまう。

 ――――っ、ごめんね。

 肌には薬を塗るようにと伝えて、ザラとリジーにミラベルを任せた。
 私は、やるべき事を思い出したから。
 私が、終わらせなければ。
 終わらせて、ミラベルを安心させなければ。


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