厨二病設定てんこ盛りの王子殿下が迫って来ます。 〜異世界に転生したら、厨二病王子の通訳者にされました〜【R18版】

笛路

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72:殺す!

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 これ以上汚される前に、舌を噛んでしまおうか。なんて、考えていました。

「おら、アンジェリカの大好きな、太い――――」
「「――! ――――!」」

 けたたましい怒号と、何かが壊れる音。
 差し込む光の眩しさに、ギュッと目を瞑りました。

「…………は? アンタ、誰だ?」
「ミラベルッ!」

 ――――テオ様、来てくれた。

 テオ様の叫び声が聞こえた次の瞬間には、体がふわりと懐かしい匂いに包まれていました。

「きさまぁぁぁっ! 殺す! 殺す、殺す殺すころすコロス。ブチ殺してやる。貴様の国、全てを焦土と化してやる。全ての民を斬り殺し燃やしてやる。あの女を貴様の前で犯してやる! 貴様はその全てを見ながら、最後に死ね!」
「いや、まっ――――」
「その男を捕えろ! 猿轡さるぐつわを付けて、自死されないように見張れ! ロブ!」
「はい」
「まて、待て! すまな――――」
「黙れ!」

 一瞬の内に、色んな言葉が聞こえて来ました。
 一番よく聞こえたのは、今まで聞いた中で、一番低くて、恐ろしくて……私の大切で、唯一の人の声でした。

「でぉ、ざまっ……てぉ、ざまぁぁぁ!」
「ミラベルっ! ミラベル、ごめんね、私が……不甲斐ないばかりに。こんなに、こんなに酷い…………っ、ごめんね」

 知らない男から解放され、助けに来てくれたテオ様に抱きしめられて、ホッとして、顔や口が痛いのも気にせず、わんわんと泣き叫んでしまいました。

「……今すぐに、あの男の全ての指、手足を折ってやろう。もう怖くないからね、ミラベル」
「まて! すまない! 本当に、すまない! 勘違い、人違いだったんだ! 俺は、アンジェリカを助けに――――」
「知った事か。あの女は、お前の前で、犯しまくって、殺す」

 今、一番怖いのは、テオ様かもしれません……。
 テオ様の恐怖の宣言のおかげで、少しだけ冷静になれました。

「ゲボッ……でお、さま、ぞの人、じょーぐんざま?」
「あぁ。あのクソ女のクソ婚約者だ」

 ――――テオ様、お口が悪いです。

 将軍様だったのですね。
 アンジェリカ様を助けに来た、とか聞こえた気が……ちょっと意味が解りませんが、殺すのは駄目だと思うのです。

「ころ、じだ、ら……ご、ゲホッ。……こくさぃ、もんだい、なる」
「ん、大丈夫だよ。ミラベルは気にしなくていい。あんな野蛮なヤツのいる島国なんて、消し去ってあげるから。ね?」
「だ、め……」

 島国を消し去るとか、恐ろしいことを言わないで欲しいです。
 国民も国も、何の罪もないのに。
 ただ、その人が…………。

「っ、だめ」

 将軍様を見られないくらいに怖いですが、どう考えても国民に罪はないのです。

「大丈夫、なーんにもない国だ。焦土にしたほうが何かの役に立つだろう」
「だ、め……ひぉぎ…………べだぃ、の」
「ん? なぁに?」

 テオ様のお顔が、キラキラなのに、目が怖いです。
 また、私の嫌いなお顔になっていらっしゃいます。
 あと、声がガラガラ過ぎて伝わりません。
 痛みで口をあまり開けられないので、滑舌も凄く悪いです。

「セオドリック殿下、口を挟むことをお許しください」
「ザラか。許す」
「お嬢様は、そちらの方の国にある『緋扇貝ひおうぎがい』を食べることを、とても楽しみにしていらっしゃいましたので、国を燃やすのは考え直して欲しい、と言われています」
「……食べたいの?」

 テオ様が可愛らしく首を傾げて、聞いてきました。
 こくんと頷いて返事を伝えると、またもや嫌な笑顔でにっこりと嗤われました。
 何だか、嫌な予感がします。

「ミラベルの希望だ。国を落とすぞ」
「っ⁉」

 ――――言ってない! 断じて言ってない!

 ペチペチとテオ様の胸を叩いて、ブンブンと首を振り、駄目だと必死に伝えました。

「なぁ、アンタ!」
「っ!」

 急に将軍様に話しかけられて、体がビクリと震えました。
 体温がぐんぐんと下っているようで、とても寒いです。

「アンタからも言ってくれ! 俺はずっとアンジェリカって呼びかけていただろう⁉ アンタが、アンジェリカだと思っていたんだ!」

 
 そう言われた瞬間、今度はテオ様がビクリと身体を震わせました。
 抵抗したんです。
 抵抗にもなっていなかったかもしれませんが、抵抗したんです。
 怖かったけど、抵抗したんです。
 なのにっ――――。

「ゃ……ぃゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ミラベル、ミラベル! 落ち着いて! 落ち着いてっ! 大丈夫、もう怖くないから。大丈夫、もう誰にも触らせないから! もう痛いことなんて起こらないから。解っているから! 私のせいだったと、解っているから。ごめんね。ミラベルは何にも悪くないから。ごめんね。泣かなくていいから、ねっ」
「ぃゃ……」

 もう、私は、テオ様には、相応しくない。
 私は穢れているから。
 例え、最後までしていなくても、テオ様以外の男と、ベッドにいた。
 男は下半身丸出しで、私は裸同然。
 男のモノが、あてがわれて、いた。
 私は、傷物で、汚いもの。
 もう、テオ様の側に、いては駄目な人間。
 もう、テオ様との未来は、閉ざされてしまった。

「……しに、たぃ」
「ミラベル⁉ …………私を、一人にしないで?」
「……」

 泣きそうなお顔のテオ様に強く抱きしめられたけど、私の体も心も疲れ果ててしまっていて、目を閉じて、深い深い眠りへと落ちて行きました。
 その瞬間、薄っすらと見えた将軍様は、後ろ手で縛られ、猿轡を着けられている最中でした。


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