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72:殺す!
しおりを挟むこれ以上汚される前に、舌を噛んでしまおうか。なんて、考えていました。
「おら、アンジェリカの大好きな、太い――――」
「「――! ――――!」」
けたたましい怒号と、何かが壊れる音。
差し込む光の眩しさに、ギュッと目を瞑りました。
「…………は? アンタ、誰だ?」
「ミラベルッ!」
――――テオ様、来てくれた。
テオ様の叫び声が聞こえた次の瞬間には、体がふわりと懐かしい匂いに包まれていました。
「きさまぁぁぁっ! 殺す! 殺す、殺す殺すころすコロス。ブチ殺してやる。貴様の国、全てを焦土と化してやる。全ての民を斬り殺し燃やしてやる。あの女を貴様の前で犯してやる! 貴様はその全てを見ながら、最後に死ね!」
「いや、まっ――――」
「その男を捕えろ! 猿轡を付けて、自死されないように見張れ! ロブ!」
「はい」
「まて、待て! すまな――――」
「黙れ!」
一瞬の内に、色んな言葉が聞こえて来ました。
一番よく聞こえたのは、今まで聞いた中で、一番低くて、恐ろしくて……私の大切で、唯一の人の声でした。
「でぉ、ざまっ……てぉ、ざまぁぁぁ!」
「ミラベルっ! ミラベル、ごめんね、私が……不甲斐ないばかりに。こんなに、こんなに酷い…………っ、ごめんね」
知らない男から解放され、助けに来てくれたテオ様に抱きしめられて、ホッとして、顔や口が痛いのも気にせず、わんわんと泣き叫んでしまいました。
「……今すぐに、あの男の全ての指、手足を折ってやろう。もう怖くないからね、ミラベル」
「まて! すまない! 本当に、すまない! 勘違い、人違いだったんだ! 俺は、アンジェリカを助けに――――」
「知った事か。あの女は、お前の前で、犯しまくって、殺す」
今、一番怖いのは、テオ様かもしれません……。
テオ様の恐怖の宣言のおかげで、少しだけ冷静になれました。
「ゲボッ……でお、さま、ぞの人、じょーぐんざま?」
「あぁ。あのクソ女のクソ婚約者だ」
――――テオ様、お口が悪いです。
将軍様だったのですね。
アンジェリカ様を助けに来た、とか聞こえた気が……ちょっと意味が解りませんが、殺すのは駄目だと思うのです。
「ころ、じだ、ら……ご、ゲホッ。……こくさぃ、もんだい、なる」
「ん、大丈夫だよ。ミラベルは気にしなくていい。あんな野蛮なヤツのいる島国なんて、消し去ってあげるから。ね?」
「だ、め……」
島国を消し去るとか、恐ろしいことを言わないで欲しいです。
国民も国も、何の罪もないのに。
ただ、その人が…………。
「っ、だめ」
将軍様を見られないくらいに怖いですが、どう考えても国民に罪はないのです。
「大丈夫、なーんにもない国だ。焦土にしたほうが何かの役に立つだろう」
「だ、め……ひぉぎ…………べだぃ、の」
「ん? なぁに?」
テオ様のお顔が、キラキラなのに、目が怖いです。
また、私の嫌いなお顔になっていらっしゃいます。
あと、声がガラガラ過ぎて伝わりません。
痛みで口をあまり開けられないので、滑舌も凄く悪いです。
「セオドリック殿下、口を挟むことをお許しください」
「ザラか。許す」
「お嬢様は、そちらの方の国にある『緋扇貝』を食べることを、とても楽しみにしていらっしゃいましたので、国を燃やすのは考え直して欲しい、と言われています」
「……食べたいの?」
テオ様が可愛らしく首を傾げて、聞いてきました。
こくんと頷いて返事を伝えると、またもや嫌な笑顔でにっこりと嗤われました。
何だか、嫌な予感がします。
「ミラベルの希望だ。国を落とすぞ」
「っ⁉」
――――言ってない! 断じて言ってない!
ペチペチとテオ様の胸を叩いて、ブンブンと首を振り、駄目だと必死に伝えました。
「なぁ、アンタ!」
「っ!」
急に将軍様に話しかけられて、体がビクリと震えました。
体温がぐんぐんと下っているようで、とても寒いです。
「アンタからも言ってくれ! 俺はずっとアンジェリカって呼びかけていただろう⁉ アンタが抵抗しないから、アンジェリカだと思っていたんだ!」
抵抗しないから。
そう言われた瞬間、今度はテオ様がビクリと身体を震わせました。
抵抗したんです。
抵抗にもなっていなかったかもしれませんが、抵抗したんです。
怖かったけど、抵抗したんです。
なのにっ――――。
「ゃ……ぃゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ミラベル、ミラベル! 落ち着いて! 落ち着いてっ! 大丈夫、もう怖くないから。大丈夫、もう誰にも触らせないから! もう痛いことなんて起こらないから。解っているから! 私のせいだったと、解っているから。ごめんね。ミラベルは何にも悪くないから。ごめんね。泣かなくていいから、ねっ」
「ぃゃ……」
もう、私は、テオ様には、相応しくない。
私は穢れているから。
例え、最後までしていなくても、テオ様以外の男と、ベッドにいた。
男は下半身丸出しで、私は裸同然。
男のモノが、あてがわれて、いた。
私は、傷物で、汚いもの。
もう、テオ様の側に、いては駄目な人間。
もう、テオ様との未来は、閉ざされてしまった。
「……しに、たぃ」
「ミラベル⁉ …………私を、一人にしないで?」
「……」
泣きそうなお顔のテオ様に強く抱きしめられたけど、私の体も心も疲れ果ててしまっていて、目を閉じて、深い深い眠りへと落ちて行きました。
その瞬間、薄っすらと見えた将軍様は、後ろ手で縛られ、猿轡を着けられている最中でした。
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